第14話:ナターシャ、大量納品

 第14話:ナターシャ、大量納品


 だんだん料理の難易度が上がっていく。

 ナビさんのサポートで着々と出来上がっていくけど、大変になってきたな。

 さすがに疲れが出てきたし、ちょっと休憩しようかな。


「お疲れ様ですわ。 はい、お水をどうぞ」


「あ、ありがとうございます。 ……ふぅ、さすがに疲れますね」


「一般の料理人でも、沢山の料理を一気に作るのは体力を使うものですわ」


「それもそっか……でもあと少しなので頑張らないとですね」


「あなたは……」


「あ、あたしはマタタビといいます」


「そう、マタタビさんね。 ワタクシはナターシャといいますの。 それで、マタタビさんは料理人なんですの?」


「ナターシャさん、よろしくお願いします。 あたしはトリマーなんです、料理ができるトリマーを目指してる感じですね」


「トリマー……何故料理を?」


「テイムを使えるので、仲間ができた時にご飯を作ってあげたくて……あと、旅をする時に美味しいご飯を食べられたらいいなと」


「そうなのですね……ではどこかの料理店で働く予定はない、ということですの?」


「そうですね、今のところその予定はないです」


「そう、わかりましたわ。 本当は引き抜きができればよかったのですけど、旅人さんですものね、仕方ないですわ」


「引き抜きですか?」


「ワタクシ、この街のレストラン【妖精の光亭】で料理長をしてますの。 今日はたまたまここに寄ったんですけど、素晴らしい原石を見つけて興味を持ちましたのよ」


「妖精の光亭……すみません、まだこの街のことをよく知らなくて……」


「いいんですわ、老舗とは言え表通りにはありませんもの。 もしよかったらいつかいらしてくださいな」


「是非行かせてもらいますね!」


「うふふ、待っていますわ」


「はい! よし、続きやっちゃいますね!」


「ええ、最後まで見させてもらいますわ」



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 :ひえー、料理長さんだったのか

 :すごい人に目をつけられたな

 :妖精の光亭か、たしかけっこうお高いお店だったような

 :敷居高くて入ったことないな

 :いつか行きたいと思ってたけど……すごい出会いをしたな

 :あたいもまだ行ったことないわん



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 それからも、ゆっくり慌てず丁寧に料理を仕上げていった。

 最後の1品を完成させると、大きく息を吐いて床に座り込んでしまった。


「本当にお疲れ様ですわ。 作業も丁寧でとても素晴らしかったです、子供がここまでできるとは驚きましたわ」


「お母さんとお婆ちゃんのお手伝いしてるだけなんですけど、その経験が役に立ってくれたのかもしれないです」


「素晴らしいお母様とお祖母様をお持ちなのですね、とても納得いたしました」


「ありがとうございます、自慢の家族です!」


「うふふ、そのようですね。 では、見学させていただいた報酬をお渡ししますわ」


 ☆--☆--☆

 クエストクリア!

 ・報酬

  冷蔵庫 品質 良品+

 ・特別報酬

  オーブン 品質 良品+

 ☆--☆--☆


「ええ! こんな高価な物もらえないですよ!」


「いいのです、ワタクシはマタタビさんの将来にとても期待していますの。 その先行投資と思ってくださいな」


「そんな……あたしなんて……」


「ではこうしましょう、いつかワタクシのためだけに料理を振る舞ってくれないかしら。 腕を磨いて、ワタクシを唸らせる料理を作ってもらう、その為の投資ですわ」


「あう……そ、そういうことでしたら、ありがとうございます! ありがたくいただきます! それと、お料理を作る約束、必ず果たします!」


「ありがとう存じますわ。 その時を楽しみにしていますわね」


「はい!」


「ではこれで失礼しますわね。 いつかまたお会いしましょう」


「はい、ありがとうございました!」


 微かに微笑みを浮かべて立ち去っていくナターシャさん。

 ちょっとミステリアスな雰囲気で素敵な人だったな……憧れちゃうかも。



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 :冷蔵庫にオーブン、大奮発だな

 :すげー、料理長に目をかけられるなんて

 :それだけ魅力的な子ってことだな!

 :本当に良い子に育ってくれて嬉しいわ

 :誰目線なんだよwww

 :しっかし16品作りきったの素直にすごいな

 :あー楽しみだなー♪



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『とても良い物をもらってしまったのだ。 冷蔵庫は食材の劣化を防いでくれるし、オーブンはクッキーとかのお菓子には必須な設備なのだ』


「本当に貰っちゃってよかったのかな……すごくありがたくはあるんだけど……」


『本人が良いと言っていたのだ、遠慮は逆に失礼なのだ』


「そっか、そういうものなんだ……うん、大事に使わせてもらう!」


『うむうむ、それでいいのだ♪』


 最後の料理をポーチに入れて、もう1度大きく息を吐いて椅子に座った。


「ユキさんおいでー」


「んにゃー(わーいなのー)」


 ユキさんを膝に招いて、撫でながら休憩をする。

 視聴者さんには申し訳ないけど、休んでから納品に向かうことにした。



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「みなさん、お待たせしました! ご依頼の料理をお持ちしました!」


「待ってました! ありがとう!」


「本当にお疲れ様、大変だったでしょう?」


「無理させちゃって申し訳ない、本当にありがとう」


「みんなで大事に食べさせてもらいますね」


 みんながお礼の言葉を投げかけてくれる。

 あぁ、頑張った甲斐があるなー、無事作りきれて本当によかった。

 ひとしきりお礼が終わると、ゴトゴトと机を集めて全員が席についていく。


「ではまずは……ベーコンエッグです!」


「ありがとう!」


「次はシチューですね!」


「やったー! はー、いい匂い……」


 一人ずつ料理を配っていって、最後の1品を渡し終わると手を合わせて食べ始める。

 受付の方も気になっているようで、身を乗り出して見ている受付嬢も居た。

 当然、周りの冒険者や旅人も注目していたが、集まってくることはなかった。


『これで全ての依頼達成なのだ! よくやったのだ!』


「はー良かった! お金もいっぱい貰っちゃったし、これで少しは準備が進むね」


『であるな!』


 食べ終わった視聴者さんから、またたくさんお礼の言葉を貰ってしまった。

 コメントの方は羨ましいとか、いいなーとか、いつかみんなにも作ってあげたいな。

 それから和やかに会話を楽しんで、全員とフレンド登録して解散していった。



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「ナターシャ調理長、お戻りでしたか」


「ええ、今戻りましたわ」


「おや? なにやらご機嫌な様子ですな、何か良いことがありましたか?」


「うふふ、分かりますか? そうですね、とても良い出会いがあった、とだけ言っておきますわ」


「その言い方はますます気になりますな」


「素敵な原石と出会ってしまったのよ、それはもう心が躍るような……」


「ほう、それはそれは」


「ワタクシも腕を磨かないと、追い越されてしまうかもしれないわ」


「なんと、それほどですか」


「ええ、それほどですわ。 さっ夜の仕込みをしてしまいましょう。 ボサッとしている暇はありませんわ」


「はい! お前たちも仕込みの時間だ、キリキリ動けー!」


「さて、次はいつ会えますかしら……本当に、心の底から楽しみですわ」


 優しい笑みを浮かべながら、つい先程のことを思い出す。

 真剣な眼差し、拙くも丁寧な調理、誰かを思って作る姿勢、全てが眩しく見えた。

 久しく忘れていた感覚が体を駆け巡り、心が暖かくなるのを感じながら仕込みへと向かう。


 ☆--☆--☆

 ・好感度

  妖精の光亭料理長 ナターシャ 大上昇

 ☆--☆--☆



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 それからはまったりしつつも忙しい日々を過ごした。

 ゴドロフさんに調理器具の制作依頼をして、ギルドで依頼をこなしていく。

 教会に行って猫さんをモフり、街中の猫さんをモフり、工房で猫さんをモフる日々。

 食材や調味料も自分で買えるようになり、ユキさんとナビさんと一緒に食事を楽しむ。

 トリマーとしての活動は……そこは察してほしい……。


 現実では学校で勉学に励み、家のお手伝いも欠かさない。

 時たま見られているような気がする時もあるが、きっと気の所為だと思う。

 料理の腕も前よりほんのちょっと上がって、お母さんたちにたくさん褒められた。


 そんな日々を過ごすこと6日。

 再び土曜日がやってくるのだった。

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