第11話:ジャーマンポテト、初めてのフレンド

 第11話:ジャーマンポテト、初めてのフレンド


 お姉さんが立ち話もなんだから、と飲食コーナーに移動した。

 なるべく人が居ないところの方が良いみたいで、ちょっと奥まった場所に座った。


「じゃあ自己紹介からするわねん? あたいのPNは【ウチオ・カマウィ】よん」


「カマウィお姉さんですね、よろしくお願いします! あたしはマタタビっていいます!」


「うふふ、そんなに緊張しなくていいのよん? 気楽にいきましょん?」


「は、はい! その、人と話すのに慣れてなくて……」


「あら可愛いん♪ でも今からするのはお仕事の話なのよん? 緊張してたら大事な話を聞き逃しちゃうかもしれないわん」


「たしかに! はぁ……ふぅ……はぁ……ふぅ……よし、大丈夫です!」


「うふふ、良い子ねん♪ じゃあ早速なんだけどん、あたいが欲しいのは【ジャーマンポテト】なのよん。 好物ってほどじゃないんだけどん、たま~に猛烈に食べたくなるものとかないかしらん?」


「あ、分かります! あたしも、突然思い出したようにタコさんウィンナー食べたくなるんですよね、すっごく不思議です」


「そうそうその感じん♪ でも現実で自分で作ろう! とまではならなくてん……ならせめてゲームの中で食べれないかしら~ん? って思ったのよん」


「いいですね、そういうのも叶えられる素敵なゲームですよね、ファンタジアって!」


「それで、どうかしらん? できそうん?」


「うーん……ちょっと待っててくださいね?」


『レシピを気にしてるのだ? たしかに、元々知ってるものならレシピ無しでも作れるのだ。 でも完全に初見ならレシピが必須になるのだ。 もしくは、知ってる人から教わるかなのだ』


「だそうなんですが、レシピってありますか?」


「なるほどねん……それならブラウザで検索しましょん♪」


「ブラ……ウザ……?」


「あら、わからないかしらん?」


「その、ごめんなさい……」


「大丈夫よん♪ カマウィお姉さんが優しく教えてあげるん♪」


「やった! お願いします、カマウィお姉さん♪」


「うふふ♪ 幸せん♪」



 ----


 :ちきしょう、羨ましいぜ!

 :オカマ野郎! そこ代わりやがれ!

 :ジャーマンポテトってけっこう渋いとこ突くよな

 :唐突に猛烈に食べたくなる食べ物があるってわかるなー

 :わかる、わかるんだが、すごく負けた気分だ……

 :まあまあいいじゃまいか、料理術使う機会ができたんだし

 :そうそう、お金も入るし良いことしかない

 :カマさんはそのご褒美ってやつだ、恨むのは筋違いってもんだ

 :なにこの民度高い配信



 ----


 カマウィお姉さんに教えてもらいながらブラウザを出現させる。

 一緒に手元にキーボードが出てくるけど、ちょっとしか使ったことないんだよね……。


『ふむ、我の出番のようなのだ。 カマウィ姉さんも知らないようだから一緒に聞くといいのだ! キーボードの右上にマイクボタンがあって、それを押すとマイクが出現するのだ。 そこに向かって調べたいことを言うと、勝手に調べてくれるのだ! 音声認識機能というやつなのだ!』


「あらん、知らなかったわん。 キーボードが不慣れな子でもちゃんと使えるようにできてるのねん♪」


「へー、便利ー!」



 ----


 :へー知らなかった

 :まぁリリース当日だから知らない事のが多いよな、実際

 :今公式HP見てきたけど、そんな説明載ってなかった……運営仕事しろ!

 :後で使ってみよー

 :痒いところに手が届くのはありがたい



 ----


「じゃあ早速……《ジャーマンポテト レシピ》……あ、出てきた」


「この一番上ので良いんじゃないかしらん?」


 □--□--□

 ジャーマンポテト

 ・材料

  じゃがいも 3個

  ソーセージ 4本

  ブロックベーコン 60g

  オリーブオイル 小さじ1

  にんにく 1欠片

  塩・胡椒 適量

  粒マスタード 小さじ2

  パセリ 適量

 □--□--□


「粒マスタードって、この世界にあるんですか?」


「それがねん、あるのよ。 調味料は全て何かしらの手段で手に入るからん、覚えておくといいわん♪ と言っても、これはたまたま売ってたのを買っただけなんだけどねん」


 そう言って机の上に粒マスタードが入った瓶を置いた。

 続けて材料を全て出して、あたしに差し出した。


「レシピは2つ分みたいだからん、1つはマタタビちゃんにプレゼントするわん♪」


「え、いいんですか?」


「もちろん♪ むしろ、完成したら一緒に食べましょん♪」


「わー、よろこんで♪」


「うふふ♪ じゃあ料理お願いねん♪」


「わかりました! お任せください!」


『では、レンタル作業場に行くのだ。 そこでキッチンを借りて料理するのだ』


「そんな場所があるんだね、さっそく行こう!」


「んにゃー?(どこかいくなのー?)」


「あたいはここに居るからん、できたらまた落ち合いましょん♪」


「はい! ではまた後で!」


 カマウィお姉さんがひらひらと手を振って送り出してくれる。

 それを見て笑顔を返して、レンタル作業場っていうところに向かう。


『このギルドの右隣がレンタル作業場なのだ』


「え、近っ」


『規模は小さいのだ。 王都に行くと、もっと大きくて広いレンタル作業場があるのだ』


「へー、いつか行ってみたいね」


『うむ、そのためにもまずは依頼をこなして稼がないとなのだ』


「だね、よーしやるぞー」


 三人でおー! と手を突き上げて、レンタル作業場へと乗り込んだ。



 ----


 :作業場初めて見るが、けっこう綺麗なんだな

 :へー広いんだなー

 :戦闘専門だと来ることないもんな

 :自分の作業場ほしいけど、こういうシステムは非常に助かる



 ----


『無事借りれたのだ。 早速作業するのだ』


「うん! 【料理術】!」


 唱えると、作業台にアイテムが現れる。

 包丁、まな板、一口コンロ、フライパン、鍋、菜箸、木べら、ボウル、網ボウル。

 どれも普通-だけど、数が揃ってるから色々作れそうだね。


『料理術はちょっと特殊で、後からアイテムを増やせるのだ。 大きめのフライパンや鍋はもちろん、オーブンや冷蔵庫、ミキサーなんかも加えられるから、早めに魔道具師と渡りを付けることをオススメするのだ』


「おー、本格的なんだね! オーブンあったらクッキー作れるし、欲しいかも」


『うむ、おいおい増やしていけばいいのだ』


「そうだね! じゃあまずは材料を全部出してっと……」


『まずは、じゃがいもを皮付きのまま2cm角に切るのだ』


「半分に切ったのを……6等分にして……こんな感じかな? ほかも同じにしてっと」


『うむ、次はそのじゃがいもを鍋に入れて水をはるのだ。 それを火にかけて柔らかくなるまで茹でるのだ』


「わかった、水入れると結構重いね……よいしょっと。 火を付けて……これでよし!」


『茹でてる間に、ソーセージを3等分、ベーコンを1cm幅に切るのだ』


「なんだかいいね♪ 本当に現実と同じ手順だからログアウトしたら作りたくなっちゃうかも♪」


『実際に作って手慣れてくると、こっちでも品質の高い物が作れるのだ』


「じゃあもっとお家のお手伝いしないとだ!」


『であるな。 次はにんいくをみじん切りにするのだ』


「はーい。 ……うーん、こんなもんかな?」


『そうであるな、良いと思うのだ。 鍋の様子を見てみるのだ』


「一個取り出して、菜箸を刺して……うん、大丈夫そう!」


『では、網ボウルに上げて水気を切るのだ。 油はねにも微ダメージがあるから注意なのだ』


「そうなんだ、気をつけないとだね。 ……よし!」


『そしたら、フライパンにオリーブオイルをひいて、にんにくを入れるのだ。 香りが立ったらソーセージとベーコンを入れて炒めるのだ』


「はーい。 お、いい匂いがしてきた! そしたらソーセージとベーコンを入れてっと」


『火が通ったらじゃがいもを加えて、油が馴染んだら塩胡椒と粒マスタードを入れるのだ』


「思ったより簡単なんだね? もっと難しいのかと思ってたよ」


『普段からちゃんとお家のお手伝いをしている証拠なのだ。 苦手な人は包丁もまともに扱えないのだ』


「ふーん、そうなんだね」



 ----


 :やめろ、それは俺に効く

 :自炊怖い……自炊怖い……

 :私はちゃんと料理してるから大丈夫ね

 :料理くらいできるし!

 :得意料理カップ麺とか言わないよな?

 :う……

 :う……じゃねぇよwww



 ----


『よくなじんだのだ? そしたらお皿にあけるのだ。 最後にパセリを振りかけて完成なのだ!』


「お皿? あ、勝手に出てくるんだ、便利♪ 2等分にして乗せて、パセリをパラパラーっと……完成したよ!」


『よくやったのだ! さっそく調べてみるのだ!』


「うん! 【鑑定】!」


 ○--○--○

 ジャーマンポテト

 品質:C

 製作者:マタタビ

 ○--○--○


「この品質の英語はなに?」


『品質は最高がSで、そこからA、Bと下がっていくのだ。 一番低いのがFで、それ以下は横棒が出てきて……まあ悪い意味で測定不能ってことになるのだ』


「ってことは、このCは真ん中の普通ってことかな」


『そうなるのだ。 ちなみに料理に失敗すると謎の黒い塊ができるのだ。 名前は【黒い謎物質ダークマター】、品質は横棒なのだ。 しかも不名誉なことに、製作者に名前が載ってしまうのだ』


「……それは絶対避けよう、うん、お手伝いいっぱいしよう」



 ----


 :あっマタタビちゃんの目がwww

 :死んだ魚みたいにwww

 :こころなしか棒読みにwww

 :ちゃんとお手伝いしてるなら大丈夫!

 :マタタビちゃんならそうそう失敗しないから安心して!



 ----


「ありがとうね、視聴者さん。 あたしもっと頑張る!」


『うむうむ! ではさっそくカマウィ姉さんに持っていくとするのだ』


「そうだね、初めてのギルド依頼だし一緒にお祝いしないと♪」


「んなー(お腹空いたなのー)」


 できあがったジャーマンポテトを腰のポーチに近づけるとシュポッと吸い込まれる。

 一応インベントリを開いて、ちゃんと入ってるのを確認してからレンタル作業場を出た。

 そのままギルドに移動して、飲食コーナーに移動するとカマウィお姉さんが手招きしてた。


「お待たせしました!」


「全然待ってないわよん♪ それで、料理の方はどうだったかしらん?」


「はい、こちらジャーマンポテトでございます」


 ウエイターさんの真似をしてポーチから取り出したジャーマンポテトを机にスッと置く。


「あら良い匂いじゃないん!」


「品質はCと普通でしたが、ちゃんと作れて良かったです」


「上出来よん♪ お料理下手な子はもっと品質低いって聞いたわん」


「あはは、黒い謎物質ダークマターにならなくて本当によかったです」


「ま、まあそうねん、それだけは避けたいわねん……そ、それより食べましょん♪」


「そ、そうですね! 初めてのギルド依頼で作った料理ですし、お祝いです!」


「そうねん♪ ほらそっちに座って座ってん♪」


「はい! では、いただきます!」


「いただきますん♪」


「「……美味しい」ん」


「え、普通に美味しいですね」


「美味しいわん……あーこの味、この味を食べたくなるのよん」


「めちゃくちゃ美味しい! まではいかないですけど、なんかこう、安心感っていうか」


「そうねん、お家で食べる安心感のある素敵な味だわん♪」


「んにゃー、にゃー(ユキもー、ユキも食べるー)」


「はいはい、ふー、ふー……ちょっと熱いから気を付けてね?」


「んにゃ……にゃーお♪(わかったなの……美味しいなのー♪)」


『我も! 我も食べたいのだ!』


「いいよ、ふー、ふー……はい、気を付けて食べてね」


『むぐ、むぐ、はー美味しいのだ』


「いいわねん、まるで家族とご飯を食べてる気分になるわん」


「そうですね。 みんなで食べると、とても安心します」


「ねぇん、またこうして一緒にご飯食べてくれないかしらん?」


「いいですね! 是非お願いします♪」


「良かったわん♪ じゃあフレンド登録しましょん♪」


「わっ! やった! ありがとうございます!」


 ☆--☆--☆

 クエストクリア!

 ・報酬

  600G

 ☆--☆--☆



 ----


 :いいなー私もマタタビご飯食べたいなー

 :家族とごはんか……しばらく実家帰ってないな

 :ほっこりするな、羨ましい

 :誰かとご飯なんて久しくしてないな

 :コンビニ弁当やめて自炊しようかな

 :俺もそうしようかな、手作りの飯食べたくなった

 :明日レシピ本買ってこよう……

 :こうして、徐々に更生される視聴者なのであった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る