第3話:プレゼント、初起動

 第3話:プレゼント、初起動


 ゲームを買った後もちょっとしたことがあって、ちょっとだけ大変だった。

 あたしは今、ゲームを抱えてこれからに思いを馳せているところだったりする。

 隣にはお父さんとお婆ちゃん、あとお兄さんがお婆ちゃんの隣を歩いている。


「この後家に来ませんか? 昼頃から好香の誕生日会やるんですよ」


「え、いいんすか? 家族の団欒に邪魔するのは申し訳ないっていうか……」


「そんなこと気にするんじゃないよ、あんたも一緒に祝ってあげな」


「じゃあ……お邪魔するっす!」


「よかった、せっかくの縁だし家族にも紹介したかったので」


「へへっなんか小っ恥ずかしいっすね」


 そんな話を聞きながら、ちょっとだけ嬉しい気持ちになった。

 最初は怖い人かと思ったけど、今では「お兄ちゃん」って感じで良いなって思ってる。

 お姉ちゃんかお兄ちゃんが居ればなって思ってたから、嬉しい気持ちもあるのかな。


「ゲーム置いてから行くっす! まだ8時っすし、さすがにちょっと早いかなって」


「あーまだそんな時間でしたか、なんか今日は時間の感覚が……」


「徹夜してたんだししょうがないよ、二人は帰ったらまず寝なさい。 あんたは昼前に家に来ればいいだろう?」


「そっすね! そうするっす!」


「すみません、自覚したら急に眠気が来ました」


「お父さんごめんね? 帰ったらゆっくり寝てね?」


「これくらい大丈夫だよ。 でも眠い顔でお祝いはしたくないから、ちゃんと寝るから安心しなさい」


「うん!」


「なんかいいっすね」


「あんたはこれからなんだし、楽しみは後に取っときな」


「そうっすね、今から楽しみっす♪」


 楽しくお喋りしながら4人でゆっくり帰る。

 吐く息は白く、寒さが体を震わせる。

 それでも胸の真ん中は暖かく、幸せが体を包んでいく。

 これからに期待を抱きながら空を見上げるのであった。



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「ただいま!」


「あら、おかえりなさい」


「なんかいい匂いがする……」


「ふふふ、後でのお楽しみよ♪」


「ただいま、僕はちょっと寝るね? さすがに限界だ」


「そうしてください、ちょうどいい頃に起こしますね」


「わかった……ふわぁ……ああ、布団布団……」


「徹夜ご苦労さんだったね、ゆっくり休みな」


「はい、おやすみなさい……」


「お父さんありがとう、おやすみなさい」


「あぁ……」


 マフラーとコートをソファーにかけると、ふらふらと寝室に向かっていった。

 本当にお疲れ様でした、ゆっくり休んでね、お父さん。


「そうだ一香、お誕生会にお客さんくるからね、食器余分に用意しといてちょうだい」


「お客様ですか?」


「晴茂さんに先頭譲ってくれた人でね、同じマンションに住んでる男だよ」


「まあ、とても優しい方なんですね」


「奥さんが出産のために入院してて家に一人だって言うし、ちゃんとお礼もしたいからね」


「わかりました、料理も多めに作っておきますね」


「そうだね、19歳らしいし沢山食べると思うよ。 穂香はまだ寝てるのかい?」


「そうなんですよ、好香ちゃん起こしてきてちょうだい?」


「はーい」


 パタパタと子供部屋に入ると、ベッドの外でSPDをいじる穂香が居た。


「起きてたんだ」


「ついさっき。 ただいまーって声で目が覚めちゃった」


「そっか、朝ごはん食べよ?」


「うん、お腹空いたー」


 二人でリビングに戻ると、机の上にパンとベーコンエッグが置かれてた。

 お母さんが用意してくれたのかな、いただきまーす。



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「あなた、起きてください?」


「んあ……あぁ……」


「ほーら、ちゅっ、起きてくださーい」


「おはよう……ちゅっ……ふわぁ、もう12時かい?」


「もうすぐってところですね、お客様も来るんでしょう?」


「そうだった、着替えてからリビングに行くよ」


「はーい」


 お父さんが部屋から出てくるのと同じくらいのタイミングでインターホンが鳴った。


「お邪魔しまっす!」


「いらっしゃい、待ってたよ。 さっ入んな入んな」


「ありがとうございます!」


「お兄さん、いらっしゃい」


「おっ! 好香ちゃん、お誕生日おめでとうっす!」


「あ、ありがとうございます……」


「何照れてるんだい?」


「照れてなんかないもん! は、早く入ってください!」


「あははは! 失礼しまーす!」


 お婆ちゃんったらまったく……まったく!

 それからお兄さんと家族みんなが自己紹介しあって、お誕生会が始まった。


「好香、はい。 改めて誕生日プレゼントだよ」


「ありがとう! すっごく、すっごく嬉しい!」


「よかったねお姉ちゃん!」


「子供部屋にテレビないし、遊ぶ時はリビングでやること」


「うん!」


「遊んでる時の画面をテレビに映せるらしいから、必ずその状態で遊ぶんだよ? トラブルがあった時にすぐわかるし、僕たちも楽しんでる様子を見たいからね」


「そんなことできるんだ、すごいね」


「それからゲームの中で現実の話をあまりしないこと。 ネットリテラシーって言って、会話の内容から個人を特定されてしまう可能性があるから、やっちゃいけないことだからね?」


「わかった、現実のお友達が一緒になった時でもだよね?」


「そうだね、そういう時が一番気持ちが緩みやすいから注意しようね」


「わかった、気を付ける」


 ネットリテラシーか、変な人に現実のあたしのことがバレちゃったらあぶないもんね。

 家族に何かあるのも嫌だし、迷惑かけないように本当に注意しないと……。


「次は俺っすね! はい、これ! 誕生日プレゼントっす!」


「えっ! 用意してくれたの?!」


「あの後家で寝て、それから買ってきたんす! 何か贈ってあげたかったんすよ♪」


「ありがとうお兄ちゃん!」


「おっお兄ちゃん、な、なんかこそばゆいっすね!」


「あ、つい……ごめんなさい」


「いいっすよ! これからもお兄ちゃんって呼んでほしいっす!」


「うん! あっ猫耳?」


「そうっす。 猫天堂にゃんてんどうの公式アイテムなんすけど、PAWのスーツに取り付けられるんすよ! 付けた状態でゲームを始めるとアクセサリーとして猫耳が貰えるんす! リアルとバーチャル両方のプレゼントっすね♪」


「わー、ありがとう!」


「小さい子に猫耳とか一瞬引っ叩いてやろうかと思ったじゃないかい、紛らわしい」


「母さんそりゃないっすよ! いたって健全なプレゼントっす! 誓ってやましい思いはないっす! 信じてくださいよー!」


「分かった分かった。 まったく、騒がしい息子ができたもんだ」


「ねっねっPAW開けていい? お父さん!」


「ああ良いよ、ついでにセッティングしちゃおうか」


「やった!」


 さっそく箱を開けて中身を取り出していく。

 PAW本体、プロジェクト・アナザーワールドっていう名前のゲーム機だね。

 それからグラスモニターとボディースーツ、コントローラー、説明書、各種コード類と。

 まずは本体とテレビをRVMIケーブルで繋いで、星光ケーブルをインターネットに。

 充電ケーブルを挿したらスイッチオン!


「おっ問題なく起動したね、設定していっちゃおうか」


「うん! はいコントローラー!」


「ありがとう」


 それから説明書を見ながら設定していって、ダウンロードも始める。

 その間にボディースーツに猫耳を取り付けて、あたしは自分の部屋に戻って着替える。

 下着以外全部脱いで、スーツに袖を通すんだけど……ダボダボってレベルじゃないよ!


「お姉ちゃん、その左手の時計みたいなやつ使うんだってさ。 ボタン押すと小さくなるみたい」


「そ、そうなんだ。 ポチッと……わわっ! すごい! どんどん縮んでいく!」


「ぴったりになったね、ふっしぎー」


「あ、あ、あわわわわわ! 透明になったよ! なんで? なんで!」


「そういうものなんだってば、ほら服着て服。 本当に手のかかるお姉ちゃんなんだから」


「ごめんなさい……あ、猫耳は残ったままなんだね、えへへ可愛い♪」


「あ、耳が動いた! へーおもしろーい!」


 二人でリビングに戻ると、ダウンロード中の画面をみんなで眺めてた。


「おっ着替えたんだね」


「うん!」


「猫耳可愛いっすね! へー、感情に合わせて耳が動くって本当だったんすね、冗談かと思ってたっす!」


「あ、そういうものだったんだ、急に動いてビックリしたんだ」


「可愛いじゃないかい、今の技術ってのはすごいもんだ」


「さて、今ダウンロードが終わったみたいだね。 早速遊んでみるかい?」


「いいの?」


「もちろんさ、はやく遊びたかったんだろう? 可愛い猫耳さんもそう言ってるよ」


 え、そんなことまで分かっちゃうの?

 なんだか心を読まれてるみたいで恥ずかしいよ……。

 でも、早く遊んでみたい、猫さんに会いたい!


「じゃあ、このメガネとスーツを本体に同期して……っと、よし。 メガネをかけてソファに横になって」


「うん……」


「ゲーム中は眠った状態になるから、次からもソファで寝てからゲームを起動するようにね」


「わかった、起動は……ゲームを選ぶだけでいいんだね、ポチッと……あれ……なんだか……眠く…………すー……すー……」


「めいっぱい楽しんでおいで、好香」


 あれ……ここは……どこ……?

 真っ暗でなんだか怖い……あ、光が……。


『ようこそ、お嬢さん。 ここは幻想的な世界を旅するための入り口、ゲートだ』


「ゲート……?」


『そう、このゲートで準備を整えたら旅の始まりとなる。 さあ、準備を始めよう』


「うん!」

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