〇 二人で協力して百人一首を全部覚えるまで出れない部屋

「そうきたか」

 私が看板の内容に言葉を失うなか、アズサは冷静に看板に小さく書かれていら何か見ている。

「上の句の札と下の句の札を全部セットにできたら合格だって。まだマシだったね」

 何がマシなのだろう。私は暗記が嫌いなのだ。頭が痛くなってきた。

「大変そうって顔してるね。でも意外とそうでもないよ」

 例えば、と彼女は続ける。


 「むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに きりたちのほる あきのゆふくれ」

 これは上の句が「む」で始まって下の句が「き」で始まる唯一の句。つまり「む」がきたら「き」と覚えておけばいい。このようなものを決まり字というらしい。


「全部覚えなくていいんだね」

「そうそう。1字決まりは7首、2字決まりは42首、3字決まりは37首、4字決まりが6首で、5字決まりが2首、残りの6首が6字決まり」

 希望が見えてきた。アズサは本当に物知りだ。

「じゃあ望は1・4・5・6字決まりのを覚えて。私が残りを覚えるから」

 ならば私が覚えるべきは21首、アズサが残りの79首を覚えることになる。

「さすがにアズサの分が多すぎない? 私もうちょっと頑張れるよ?」

「大丈夫。すでにそのうちの半分くらいは覚えてる。私の記憶力すごいんだからね」

 そういってせっせと札を分けている。私は素早く札を判別するアズサの知識量に感動した。


 それから一時間後にはなんとか部屋を出ることができた。暗記のしすぎで頭が痛くなった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る