♡ 原稿用紙10枚にお互いの名前を書き終えるまで出れない部屋

「次はなんか椅子と机があるね」

「そうね……お題は、原稿用紙にお互いの名前を書き終えるまで、か」

 ものすごく面倒そうなお題がきた。とりあえず椅子に座ると400字詰めの原稿用紙が10枚ずつ、そしてさまざまな筆記具が置いてあった。

「鉛筆、シャーペン、ボールペン。万年筆に筆ペン、ガラスペンまであるね」

「すごい、あ。私万年筆使ってみたい!」

 ひとまず手に取ってキャップをとる。だが、書き方がさっぱりわからない。

「ちょっと貸して。万年筆はこう使うの」

 アズサが使って見せてくれる。

 原稿用紙にスラスラと美しい字で「望」と書かれる。なんだか不思議な気分になる。

「ほら、やってみな」

 アズサにわたされ、見よう見まねで使ってみるがうまくいかない。

「ここをこう持って。そう。そのまま書けば……ほらできた」

 結局アズサが私の手を持って一緒に書いて、ようやく書けた。

「難しいね」

「10枚書けば、そのうちできるでしょ」

 そういえばこの作業があと1000回以上ある。終わるのだろうか。

「頑張りましょ」

 アズサはそれっきり集中して無言になってしまった。仕方がないので私も静かに書いていく。


 アズサアズサアズサアズサアズサアズサ…………アズサアズサアズサアズサ……


「なんか文字がわかんなくなってきた。模様に見える。アズサ模様だ!」

「ゲシュタルト崩壊ね。と言ってもまだあなたはカタカナ三文字だからいいじゃないの。こっちは漢字一文字だからかなりひどいわよ」

 筆ペンで書かれた文字は最初と比べてば少し崩れている。それでも美しさは保っているし、何よりもう6枚目だ。私はまだ2枚目なのに。

「この調子で残り48とか終わる気がしない。というか出れる気がしない」

「頑張るしかないよ。ここから出るにはそれしかない」

「はーい。頑張りまーす」

 私は止まっていた手を再び動かし始めた。


 再びアズサまみれになる。アズサアズサアズサ……


「終わった……やっと終わった」

 アズサはもう書き終えたらしい。私より画数多いのに。

「望、大丈夫? ゆっくりでいいからね」

 アズサは優しい人だ。私はまだ4枚目に入ったところなのに。本当に優しい。

「まだまだ頑張れる」

 結局、長い時間がかかったもののなんとか10枚書き終えた。大変だった。

「お疲れさま」

 アズサに褒められたら疲れが吹き飛んだ。

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