1~10

△ パンを食べ切るまで出れない部屋

 目が覚めると真っ白な部屋にいた。

 隣には恋人のアズサが寝ている。

 彼女はやはりスタイルがいい。白のTシャツと黒のスウェットというゆるい格好でも細いウエスト、長い足が目立つ。

 さすが、私の彼女だ。

 メイクがされていなくても整った顔をのぞいていると、彼女が起きた。

「あ、おはよー!」

「メガネ……」

 アズサは寝ぼけたまま手探りでメガネを探している。私は優しいので近くにあったものを渡してあげる。

 メガネをかけて、私の方をみて、ようやく頭が働き出した彼女。

「え? は? え? なんで望が、いやまずここどこ……」

 やはり混乱している様子。

 アズサの焦った顔などなかなかみられないので写真を撮りたいが残念ながらスマホは手元にない。仕方がないのでアズサを落ち着かせる。

「はいアズサこっちみてー? 私も寝て起きたらここにいた。看板に書いてある通りならそこにあるパン全部食べたらここから出れるみたい。しかもここはまだ一部屋目で全部で50部屋あるってそこの手紙に書いてある」

 物を指差しながら、彼女が起きる前に調べたことを、手振り身振りを交えて全力で説明する。

 こんな風にアズサにあるだけの情報を渡してあげれば賢い頭を使って方針を出してくれる。落ち着きさえすれば頼れる恋人なのだ。

「……OK。とりあえず扉は空く? 確かめた?」

「あ、まだ調べてない。ちょっと待ってて」

 私は立ち上がり、扉を調べにいく。後ろでアズサが呆れている。

「なんで扉忘れるかな……」

 それは「8割できたら完璧」を信条にしている人間だから仕方ない。アズサもそれをわかっていっている。

 私は扉を押したり引いたりずらしたりして開かないか確かめた。だが予想通り、とでもいうべきか。扉はびくともしない。

「アズサ、私たち閉じ込められちゃたね」

 本当に今日が休日でよかった。

「大丈夫。私が望をここから連れ出してあげる」

 冷静になったアズサは本当に心強い。美少女でイケメンな彼女といればどんなに困ったことがあってもなんとかなってきたから、安心できる。

「それ以外に手掛かりとなりそうなものはないし、仕方ないか」

 どうやら方法が思いついたみたいだ。

「これを食べ切る」

 彼女が指さす先にあるのは食パン、アンパン、ピザパンなどなどとありとあらゆるパンの入ったバスケット。

「今はこれを食べるしか手掛かりがないから、仕方ない、本当はこんな安全性のわからないパンなんて望に食べたくないけどね」

 彼女がいうならそうなのだろう。今は食べるしか道がない。

「ほら、そんなむずかしい顔してないで食べよ! 朝ごはん無くなっちゃうよ」

 そう言ってアズサの手を引きバスケットへ駆け寄る。美味しそうな匂いがする。これはもしや焼きたてか?

「すごい美味しそう。何から食べる?」

 彼女はアンパンに手を伸ばした。

「甘いのから」

「なら私はカレーパンもらうよ」

 私は一口齧った。サクサクの衣の中にアツアツのルーが入っている。ピリピリと辛くて美味しい。

 アズサはもしゃもしゃとアンパンを頬張っている。あんこたっぷりで美味しそうだ。

 アズサは大の甘党なのでメロンパンなどの菓子パンなどを減らしていく。私は美味しいものは全て大好きなので焼きそばパンなどの惣菜パンを食べていく。

「望、一口あげる」

 そう言って差し出されたのはチョココロネ。たっぷり入ったチョコレートが今にもこぼれ落ちそうだ。

「ん? 食べないの?」

「口直し」

「あら、ありがと!」

 本当に彼女は気がきく。見習いたいが私には難しく、それを許してくれる彼女に甘えっぱなしだ。

「なら、アズサもこれ食べてみなよ」

 コーンが山盛り乗せられているチーズパンを差し出す。

「美味しいね」

「めちゃくちゃ美味しい」

 そうして食べていけばだんだんと終わりは近づいてくる。

「あと2個」

「もうお腹いっぱいになっちゃう」

 最後に私は塩パンを、彼女はクリームパンを押し込んでフィニッシュ。

 鍵の開く音がした。アズサが扉を押すと静かに開いた。

 次の部屋が見えている。

「望、行こうか」

「うん。先は長いけど、一緒に頑張ろうね」

 私たちは立ち上がって、次の部屋へ進んだ。

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