第77話 建国祭の準備

やたらと驚いているエリンとスローダと建国祭りの件について下話をした後アーサーは、その足でモルガンに報告をしに行った。

 勝手にいろいろと進めて怒られるかなと思ったアーサーだったが、なぜか、モルガンは驚いた顔で「なるほど……少し性急な気もするけど、確かに効果的ね……あとは任せなさい」とぶつぶつ言って、また仕事モードに入ってしまった。

 まあ、俺が少しだけ知識と経験が足りないことはあいつもわかっているので問題はないだろう。それよりもだ……



「ほら、ケイ!! これがスローダが出してくれるメニューだそうだ。一緒に食べよう!!」

「うわぁ、とっても美味しそうですね!! しかも、極ウマ鳥や、アーサー様がお土産で買ってきてくれた燻製肉もあるじゃないですか!!」

「そうなんだよ、せっかくだから、うまいものをひたすら集めようと思ってな。みんな大喜びで協力してくれたよ」



 得意げにしているアーサーの目の前に広げられているのは、豪華なお皿にもられたライスに、色とりどりにおかれたおかずである。アーサーが食べ歩いた郷土料理の他にブリテンで好まれるステーキや、魚料理、新鮮な野菜が盛らて見目美しいサラダなどがあり、スローダの本気度がわかるというものだ。



「ですが……毎年、アーサー様は治癒魔法のお披露目をしていたと思うのですが、あっさりと変えてしまってよかったんですか?」

「ああ、こんなのはただのお祭りのようなものだからな。俺の治癒魔法も単なる出し物みたいなものだ。せっかくだからみんなで美味しいものを食べた方がいいだろう。みんないちいち大げさすぎるんだよな」

「なるほど……そういうものなんですね、『建国祭』って私たちはあんまり縁がなかったので、もっと仰々しいものだと思っていました」



 アーサーの軽い言葉にケイも安心したように微笑んで食事をする。「んー、美味しい」と嬉しそうにしているケイを見て、彼も微笑みながら食事を始める。

 ちなみにだが、『建国祭』はアーサーの言うような気軽なお祭りなどではない。貴族にとってこのお祭りに参加できれば一生のステータスになるし、商人たちもこれに関われたというだけで、将来安泰とまでいわれるくらい大事な集まりなのである。ましてや、皇族の場合はこの時にいかに他国や普段かかわらない人間に顔を売るかで王位につくかどうか決まるとまで言われているくらい大事な行事なのだ。

 それゆえ、アーサーがライスの件を相談した時にエリンは驚き、スローダは歓喜したのである。



 だが、アーサーはそんなことは知らなかったし、ゴーヨクも特段何かを言わなかった。モルガンはいろいろとアドバイスをしていたが、当時のアーサーは一切聞く耳を持っていなかったのである。

 前の人生で何もかんがえていないアーサーが王に選ばれたのは彼の治癒魔法が優秀すぎただけにすぎないのだ。



「そういえば……エリンさんからいただいたコレですがどうしましょう?」

「ん……? そういえばこんなんあったな……」



 食事を終えて、ひと段落し、ケイに淹れてもらったお茶を楽しんでいると、思い出したように部屋の隅においてある5着ほどの色違いのドレスを指さす。

 あのパーティーが終わった後に、エリンから「気に入ったようでしたら似たようなものをプレゼント致しますね」と言われ、適当に返事していたら本当に送ってきたのだ。

 正直ドレスなんぞもらってもこまるというのが本音である。



「このドレスってなんか変わっていますね。貴族の皆様の着るドレスはみんな飾りがたくさんあって重いし、暑そうですが、これは身軽でよいですね」

「ああ、なんでも他国での流行の品らしいぞ」



 そう、エリンから渡されたドレスは、半身から腰回り、ひざにかけてはタイトで、ひざから裾にかけてスカートがふんわり広がる人魚のようなシルエットのドレスで、ブリテンでは珍しいマーメイドドレスというタイプというやつである。

 ロッドの母である王妃が伝統のドレスを好んでいたこともあり、あまりこの国ではみないドレスなのだ。それゆえ、以前のパーティではエリンも浮いてしまったのだ。



「よかったら、ケイが今度の建国祭で着てみるか?」

「そんな!! お言葉はうれしいですが、貴族様のいらっしゃるパーティーで私なんかが着るのはまずいです」

「そうか……」



 ちょっとドレスを着たケイを見てみたいと思っていたアーサーの顔が曇るが、それを見たケイは言い聞かせるように微笑む。



「それに私には専属メイド(お姉ちゃん)として、アーサー様の身の回りのお世話する仕事がありますから」

「ふふ、そうだな。もちろんだが、ケイには俺の専属メイドとしてつきあってもらうからな」

「はい、もちろんです!!」



 アーサーの言葉に躊躇なく頷くケイ。本来ならば平民が出席するなんて考えられないし、かつてだったら畏れ多くて断っていたが、今はアーサーが本心で自分を頼ってくれていることを知っているケイには迷いもない。

 ちょっと……いえ、かなり緊張してしまいますが、お姉ちゃん頑張ります!! である。



「でも、このドレスはどうしましょうか?」

「あー、さすがにこのままってのももったいないよな……」



 もらいものに手を付けないのはあれだが、まさか自分が着るわけにもいかないのでどうしようと悩むアーサー。



「だったらいい考えがありますよ! これならドレスも無駄になりませんし、アーサー様の評価も上がると思います」

「お、なんだ?」

「うふふ、専属メイド(お姉ちゃん)に任せてください」



 アーサーの言葉にケイは得意げにその豊かな胸を叩くのだった。

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