処刑フラグ満載の嫌われ皇子のやりなおし~ギロチン刑に処され死に戻った俺ですが、死にたくないので民に善行を尽くしていたらなぜか慕われすぎて、いつのまにか世界を統べる王になっていました~
高野 ケイ
第1話 処刑からはじまるやり直し生活
血のような真っ赤な夕焼けの中、民衆たちのどこか狂った様な熱狂的な声があたりに響いている。それはまるでこれから始まる処刑というショーを渇望しているようで……
「なんでこんなことになったんだ?」
「黙って、歩け!!」
縄で両手を拘束され、兵士に引きずられるようにして青年が姿を現すとその声は一層大きくなっていく。
目の前にいる民衆たちがみな罵倒や怒声を彼に向けていく。
「殺せ!! 殺せ!!」
「冷酷なアーサー皇子に罰を!!」
「貴族しか治療しない金の亡者め!!」
なんでこんなことになったんだ?
今度は心の中で青年は……この国の第二皇子アーサー=ペンドラゴンは自問自答する。
怪我や病気に苦しむ民衆を無視し、貴重な治癒能力を貴族にしか使わなかったからだろうか?
食糧難に苦しむ民衆たちにパンがなければ、ケーキを食べればいいと答えたからだろうか?
それとも民衆が苦しんでいるのに……何もしなかったからだろうか?
彼のためにギロチンが準備されていくのが見える。それを指示するのはアーサーの異母弟であり第三皇子のモードレットである。
モードレットは巷では貴族に反発する民衆と地方貴族たちをまとめ上げて見事革命を成功させた英雄であり『反逆の皇子』などと呼ばれ持て囃されているらしい。だけど、アーサーには最後までわからなかった。
なんで彼はこんなことをしたのだろう? 彼だって王族のはずだ。何もしなければ何不自由のない幸せな人生が待っていたはずだ。
そう、アーサーが彼に言ったときに『あなたは人の心がわからない』と悲しそうな表情で発された言葉が不思議と胸にささったのを思い出す。
ガコンという音と共にギロチンがセットされた。ようやく準備が終わったらしい。そして、彼の縄がほどかれ代わりに魔力を封じる特殊な金属の鎖がつけられていく。
捕まった当初は抵抗も試みたが何度も殴られていくうちに心が折れていってしまい、もう暴れる気力もない。
「さっさと行くぞ。アーサー様よ」
「いっつ!!」
兵士がわざと痛むように鎖を引っ張ったせいで、腕に激痛が走り、思わず悲鳴を上げてしまう。それを聞いて民衆たちがより嬉しそうな声を上げる。
その痛みと共にようやくアーサーは理解する。ああ、そうか……怪我をしたり、誰かに傷つけられるというのはこんなにも苦しいんだな……
だけどさ……誰も教えてくれなかったじゃないか? みんな自分のいう事を聞けば大丈夫だって言っていたじゃないか?
民衆の声など聞くなといった貴族たちがいた。治癒魔法は選ばれし存在である貴族にのみ使われるものだと言った貴族がいた。そんな彼らはすでに処刑されるか、己の身可愛さ国外に逃亡していった。誰もアーサーを守ってなんてくれなかった。
いや、何人かはいたな……
処刑が決まっても優しくしてくれたメイドの少女の顔が思い浮かぶ。そして、ろくに話を聞かない俺にアドバイスをし続けていた元婚約者の顔が思い浮かぶ。
こんなことになるならメイドの少女に優しくすればよかった。こんなことになるなら元婚約者の言葉をちゃんと聞けばよかった。そんなことを今更思っていると、体が押さえつけられて、ギロチンに固定されていく。
「痛くないといいなぁ……」
「はっ、せいぜい苦しめよ」
最後のつぶやきすらも兵士の悪態に押しつぶされ、そしてスコンという無機質な音共に、血が舞って……アーサー=ペンドラゴンはその生涯を終えた。
「うおおおおおおおお!!」
王城のアーサーの部屋に情けない悲鳴が響き渡る。
あれ? しゃべれるだと……?
あわてて首の付け根を確認するが、アーサーの首はちゃんとつながっている。そして、いつものように痛みもとくには感じない。
「あはは、さっきのは夢だよな……」
恐怖を誤魔化すように笑いながらも鏡を見ると、その身には豪華な素材をふんだんに使ったローブに、傷一つない綺麗な肌、そして、金髪の(自称)利発そうな十五歳くらいの少年の顔がうつっていた。
ボロ雑巾のような布の服ではなく、魔力を封じられ、傷だらけになった肌でもない。本来の自分の姿にほっと一安心する。
ん? 十五歳くらいだと……?
アーサーは自分の容姿に違和感を感じて眉をひそめる。確か二十歳の時に革命が起きて、牢獄に捕えられていたはずだ。
再度自分の容姿を確認するが、随分と若く見える。この時はブリテンの全盛期であり、アーサーも上等な服を着て、豪華な食事をしていたものだ。革命がおきるとはかけらも思っていなかった。
あれは夢なのか……地獄のようなあの光景が……?
「そうだ、夢だ……だって、俺はブリテンの至宝とまで言われたアーサー=ペンドラゴンだぞ!! 処刑なんぞされるはずがないだろう!! あはははははは」
そう自分に言い聞かせるが、心の中の何かが訴えてくる。だって、アーサーは覚えているのだ。幽閉された牢獄の冷たさも、魔力を封じられて縄に縛られる痛みも、何よりも侮蔑していった民衆の憎悪に満ちた瞳を……。
「失礼します、アーサー様……お茶をお持ちいたしました」
「誰だ!!」
恐ろしいことを思い出している最中にノックと共にメイドが入ってきたため思わず、アーサーは声を荒げてしまった。
「きゃっ!? 熱っ!!」
そして、それに驚いたメイドが悲鳴を上げると同時に紅茶の入ったポットをこぼしてしまい、彼女の手にその紅茶がかかってしまう。
「ああ、申し訳ありません、アーサー様……すぐにここを拭いて、代わりのお茶を……」
「おい、大丈夫か……」
あたふたとするメイドにアーサーは声をかようとしてその動きが止まる。平民特有の黒い髪に、パッチリとした目、そして豊かな胸元には見覚えがあった。
だって、彼女は前世で最後まで彼の面倒を見てくれた少女なのだから……
あの夢で優しくしてくれた彼女の言動を思い出し、いてもたってもいられなくなり彼女に近付いた。
「アーサー様、申し訳ありません、あなた様のお茶をこぼした上に床を汚してしまいました……」
「そんなことはどうでもいい。今、紅茶がかかった手をみせてみろ。火傷になっているんじゃないか?」
「え、ですが……」
何かを恐れるようにアーサーを見つめ、痛いだろうにポットの破片を拾おうとしている彼女の手を取って、様子を見る。
かすかに赤くなっていてこのままでは水ぶくれになってしまうかもしれない。
「アーサー様いったい何を……」
「心配するな、今癒してやる」
なぜかびくびくとしているメイドにアーサーが優しく微笑むと、彼女は驚きの声を上げた。
「アーサー様!! だめです。こんなことに力を使っては……その力は選ばれた人間のみが使える特殊な力なんですよ!!」
「ダメなもんか、だって。怪我をしたら痛いんだぞ。痛いのはつらいんだ。その身を癒せ」
制止しようとしたメイドの言葉を無視して治療魔法を使うと、彼女の傷が一瞬で治っていく。これがアーサーの能力であり、貴族達に重宝されている理由である。
「よかった……問題はなさそうだな。その……どうしたんだ?」
そして、メイドの腫れが引いたのを確認して安堵する。アーサーが彼女の手にふれてほほ笑むと、なぜか真っ赤にしている。
「いえ……なんでもありません。その……箒をとってきます!!」
そして、そのまま、メイドは制止するまでもなく走り出して行ってしまった。ああ、彼女とは色々と話したいことがあったのに……
そう思っているアーサーの脳内に不思議が声が響く。
『善行ポイントが加算されました。未来がわずかに変動いたします』
そして、机の上に置かれた真っ白な表紙のノートが不思議な輝きを放っているのに気づく。
「なんだこれは……」
思わず手に取ったアーサーは思わず信じられないとばかりにうめき声をあげる。だって、このノートには実際に彼が処刑をされるまでのできごとが書かれていたのだから……
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