第8話解放の時
せっかくシルバリウスがいるのに3日も寝込んでしまったのが残念だったが、何度か俺の自室に顔を出してくれたし、その後ランチもしたし、部屋にも何度も遊びに来てくれたので良しとする。
この短い期間にも関わらず、ぶっきらぼうだった受け答えが、普通に話す位にはなったのだ。
これ凄くない⁉
まぁ、ど田舎すぎて、娯楽もない為ひたすら2人で喋ることしかしてないからってのもあるだろうけど。
俺も敬語をやめて、“シルヴィ”、“ヴィー”って勝手に呼ばせて貰っている。
一応本気で嫌がったら止めようと思っているけど、苦笑はするものの、咎められない事を良い事にガンガン距離を詰めている。
ゲームでも、最初はステータスが低い勇者や仲間たちをサポートしている立場だったのだ。
俺に接する態度からきっと面倒見も良いのだろう。
いくら奴隷身分であり隷属の首輪をしていようと、仲間との絆が育っていなかったら勇者に“冤罪を晴らすから”なんて言われないだろうし。
きっと、それなりに心の距離も近付いていたのだ。
勇者パーティ羨ましい……。
俺が一方的に懐きまくった結果それなりに、仲良くなったと思っているが、残念ながらそれも今日で終わりだ。
隷属の首輪を外し、奴隷から解放する手筈が整ったのだ。
奴隷登録と隷属の首輪の管理はそれぞれ、国で行なっているようで、両方ちゃんとした処理を行わないと逃亡奴隷とみなされてしまう。
今回奴隷登録の方は無事処理が完了したが、隷属の首輪の方は本来ちゃんとした場所もしくは公式の鍵を使用して開けなければいけないが、流石に鍵を盗みに行くわけには行かず、死人扱いなのにわざわざ隷属の首輪を外す為に国元へ戻らせるのも……という事で、力技で対応する事になった。
そして、前世からの願いでもある奴隷解放は自分の手でやりたかったから、“魔力枯渇症”発症以来久しぶりに魔法を使う。
勿論、スチュアートからは大反対されたが、これだけは譲れなかった。
正規ルートではない奴隷解放の為、今後冤罪はほぼ晴らせないだろう。
本当は冤罪も晴らしつつ奴隷解放が良かったが、それには俺の時間が足りない。
これはエゴなのだが、どうしても不粋な赤銅色の隷属の首輪のない奴隷から解放されたシルバリウスを見たかったのだ。
それさえ見ることができれば、もう心残りは無い気がする。
……まぁ、本音を言えばシルバリウスが幸せになる所までは見たかったけどさ。
無理なものはしょうがない。
朝補給を受けたのに、俺の体にある魔力は既に4割を切っている。
それでも一般人の倍以上の魔力はあるので大丈夫だとは思うが、鍵なしでの隷属の首輪破壊にどれだけ魔力が必要か不明なのだ。
スチュアートには破壊できなくても、絶対一割は残るように調整することと言われているが、全く勝算がなさそうであれば一度やめるしかないだろう。
いつも通り着替えると、シルバリウスの部屋に向かう。
――コンコン
入室許可が出たので、スチュアートが車椅子を押しながら部屋に入る。
「朝からどうした?」
朝と言っても、もう10時である。
今では気さくにこのように声をかけてくるまでになった。
……裏切られて冤罪を被せられたのに、こんなに真っ直ぐで大丈夫かちょっと心配である。
来た当初に比べれば銀の髪にも艶やかさが出てきて、徐々に頬にも肉が戻ってきて美形度が更に上がっている。
あぁ、これも見納めかぁと思うと、鼻の奥がツンとした。
まだ泣かないぞ!
「髪触っていい?」
つい、欲望が先に出てしまった。
「……あぁ」
良いんだ!!?
困ったような顔をしながらシルバリウスが近付いてくる。
こちらも車椅子から立ち上がった。
「立てるのか?」
シルバリウスは驚いていた。
立てるけど?……と思って、そういえばシルバリウスの前では一度も立ったことが無かったなと思い出した。
別に普通に歩けるのだ。
スチュアートがなるべく体力を使わせないようにしているだけであって。
「うん。歩けもするよ。まぁちょっと疲れないように車椅子生活だっただけ。やっぱり背が高いねー。そこに膝立ちしてもらって良い?」
初めて向かい合ったシルバリウスとは背の差が30センチ位はあると思う。
無表情で腕を組んで立っていたら怖いかもとちょっと思った。
シルバリウスは素直に膝立ちになってくれたので、艶やかな銀髪を触る。
ヤバイーー!
え?
美形ってやっぱり髪の毛まで美形なの?
絡むとか枝毛とかそういう概念ないの?
触り心地が良すぎてヤバイ。
鼻血出そ……
念願が叶った所で本題だ。
「お待たせ。“ちょっと動かないでね”」
スチュアートに目配せをしてから、はじめる。
シルバリウスの首元に手を触れると、久しぶりに指先から魔力を放出する。
久しぶりの魔力放出にめまいがしそうになるが耐える。
魔法は自分の「氷」属性魔法で一気に首輪を冷やして破壊した。
数秒後。
――バキッ
隷属の首輪が壊れ、床に落ちる。
魔力放出は止めたのに、体から流れ出る魔力が止まらない。
あー。これはもう助からないかもなと何処か冷めた心で思う。
それでも、最後だからと言いたいことは言う。
「はぁはぁ、これで自由だ。シルバリウスは何処へ行ってもよいんだよ。はぁはぁ……。冤罪を晴らせなくて、ごめんね。お元気、で……」
魔力の放出が全然止まらない。
魔力枯渇症状である、息苦しさ、体の怠さが押し寄せてきて、冷や汗が出る。
シルバリウスの驚いた顔を最後に視界もブレて黒くなっていく。
スチュアートかシルバリウスが何か喋っているのは分かったが、もう何を言ってるのかは分からなかった。
最後に言いたい事、やりたい事が出来て感謝している。
ちょっと予定より早かったかもしれないが、俺は使命も果たせ幸せだ。
――シルバリウス、みんな、また来世で。
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