第6話急かす執事〈スチュアート視点〉
私は現在、この屋敷の執事兼リューイ様の侍従兼護衛を行なっている。
元々は奥様の侍従だったのだ。
奥様は北の国の滅んでしまった小国の生き残りの末の王女で、この大陸に逃げ延び静かに暮らしていた中、今の辺境伯爵である旦那様と出会い結婚されました。
三兄弟の中ではリューイ様が一番母君に似ており、それは容姿だけではなく魔力属性までも似てしまったのです。
「光」と「氷」属性は北の国の小国王族ではよく出る組み合わせで、母君と同じでした。
それと、こちらの国ではあまり知られておりませんが、実はリューイ様は「時」属性“予知型“という超レア属性もお持ちです。これは北の国の小国でも珍しいのですが、母君の祖母様がやはりリューイ様と同じ菫色の瞳をしており、「時」属性“予知型”をお持ちでした。
そして、「時」属性”予知型”の“可能性・有用性”を知る者からは狙われる存在であり、リューイ様も12歳の時に襲撃に遭い、魔力暴走を起こした結果、現在の“魔力枯渇症”を発症してしまいました。
その時ご長男様の学園への送り迎えでちょうど私が外していた時の襲撃で、悔やんでも悔やみきれません。
それ以来リューイ様の専属になる事を強く望み、旦那様から許可をいただきこうしてお側にいます。
また、リューイ様の予知能力についてはご家族の皆様と私だけが知っております。
この屋敷にいる使用人達も薄々勘付いているようではありますがちゃんと知っているのは私共だけです。
リューイ様のおかげで、危ない所を何度も回避出来たり、ここ近年の領地の発展に繋がったりとこの辺境伯領は豊かな領地になっているのです。
それを旦那様はリューイ様の病気を治す為の別の治療方法を探すと言って、フォンデルク領の首都と王都の往復ばかりで、ちっともリューイ様に会いに来ません。
本当に治療方法を探しているのもあるでしょうが、恐らく母君にとても似ているリューイ様までもが、奥様と同様に旦那様を置いていく事実を直視出来なくて避けているのでしょう。
聡いリューイ様は、その空気感に気がついているようで、自分から旦那様に会いたいとは決して言いません。
まったく、子供に気を遣わせるなんて意気地のない旦那様です。
話は逸れましたが、そんな訳で、リューイ様の突拍子もない言葉は予知からきていると信じております。
あの襲撃事件から予知は全くしておりませんでしたが、また最近復活してきたようで、私は嬉しく思います。
そんなリューイ様が助けたいと願った人物であるシルバリウス様。
辺境伯領の隠密を使って隣国の端から端まで洗いだし、彼の情報を集め、彼の居場所を見つけ、かなりの大金を使って今の状態に持って行きました。
リューイ様を信じていましたが、まさかシルバリウス様があの“銀の閃光”の事だったとは驚きました。
ここはフォゼッタ王国とはいえ、本国の首都よりローワン王国の方が近い事もあり、ローワン王国の噂話等もよく入ってきます。
“銀の閃光”は若いながらもすごく強い騎士であり、剣士で国内の剣術大会の成績も好成績で、魔物討伐も素早いと市民の中で噂にのぼる人物でした。
3年程前迄を最後に、最近噂を聞かないと思っていたら、リューイ様からは“冤罪だから犯罪者じゃないよ“と聞いていたものの、まさか本当にロクに調べもされていない罪で捕まっているとは……人材を見る目がないからあの国はいつまでも小国なのでしょうね。
また話が逸れました。
今は、彼がいる客室に向かっています。
彼が来てから3日経ちましたが、未だリューイ様とお食事をとられる事なく、メイドや使用人を捕まえて探っている様子。
リューイ様のランチの誘いを断るなんて全く持ってあり得ない!
いつも期待するように彼の様子を聞き、目を爛々とさせながら楽しそうに話をきき時々妄想をしては、恥ずかしげにしたりととても可愛らしいリューイ様。
お体が辛くてもランチを食べに食堂に行ってはランチが終わる頃に少し悲しそうに残念だと言い、次の瞬間には“でも同じ空気吸ってるんだよね! 同じ空気今のうちに堪能しとこう”と鼻息荒く、空気を吸っている仕草に可愛いと思いつつも、これだけ目をかけられているシルバリウス様をうらやま……ではなく、怒りが湧きますね。
なので、こうして話に来たのです。
……リューイ様はランチやシルバリウス様の話を聞く為に、魔力補給を頻繁に行う事を決められてしまいました。
だからこそ、出ていくなら出て行くで、こちらも早く対応を決めて欲しいのです。
――コンコン
「……どうぞ」
中から入室許可の言葉があったので入ります。
「その後お加減はいかがでしょうか? 予想以上に体は回復しているようですが、そろそろ処理の方向を決めていただいてもよろしいですか?」
まだ頬はこけているが、顔色は初日より良くなっており、囚人服から着替えた質の良い白いブラウスと深緑のスラックスはとても彼に合っていた。
……見たらリューイ様喜びそう。
「……ああ。その前にあなたの主人が私に求めるものは何だ?」
「さあ? 生きていてくれれば良いらしいですよ?」
「……見返りを求めないというのか?」
「……ええ。特にここ数日も何も言われていないでしょう?」
シルバリウス様がここに居ること自体がある意味リューイ様の見返りになっているようですが、そういう意味で聞いたのではないのでしょうから特に触れません。
“まさか……”、“そんな……”等と呟いているシルバリウス様。
まぁ、まさか主人が助けるだけで、利用もせず一般的な見返りを求めない(主人は逆の意味に捉えていましたが)とは常識人であれば考えられないでしょう。
ですがそういう主人なのです。
リューイ様が助けた人でも、本人の意思を優先しますので中には離れる方も居ますが、このど田舎の不便な屋敷にも付いてくる位、慕っている者もいるのです。
そして、リューイ様の見る目は確かで、今この屋敷は一種の宝箱状態です。
現在シルバリウス様の世話をしているメイドも、外国の貴族が連れていた侍女見習いだったらしく、虐待されていたのを見て”壊すくらいなら欲しいな”とお金を積んで買ってきて、世話を押し付けられたと思ったら、まさかの「火」と「熱」のレア属性持ち。
またある時は屋敷の裏に落ちていたという、ボロボロの中年男性を拾って来た時は、「闇」属性持ちの隣国では幻の暗殺者と呼ばれた人物で、今は辺境伯家と言うよりはリューイ様の隠密になっている。
と、まぁ他にも「植物」と「土」属性を持った庭師や「毒」と「水」属性を持った料理長等、「音」属性の従者など色々おりますが全てリューイ様が拾ってきました。
因みに、属性は1つ持っていれば凄いのです。国民の半分は持っていない(無属性のみ)で、2つ以上の複数の属性を持っているのは国民の一割ほどです。
まぁ、私も「光」属性というレアな属性を持っていたが為に、王族へ仕えていた訳ですが。
「気になるのであれば、せっかく食事に誘われているのですし、近くで見れば良いのでは?」
「……そうさせて貰う。処理の方だが“死亡”扱いで構わない。その方があなたの主人も私を使いやすいだろう?」
……まだ疑っているようですが、まぁ裏切られたばかりのようですしそんなものでしょう。
「私共もその方が楽ですね。では、明日のランチからぜひ。失礼します」
天井裏の気配も去った事から、処理に赴いてくれるのだろう。
私は明日のランチについて伝えにいかないといけない。
リューイ様の喜ぶ姿が楽しみだ。
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