第4話 タコ?のいる星
「やはり、一度に長距離を飛ぶのは危険だ。何回かに分けて飛ぶべきだな」
どこからか、声が聞こえてくると、ラズが目を覚ます。
ここはどこだろうか。先ほどと同じ、空は真っ暗であるのだが、雲が全く存在せずに星の輝きが鮮明に思えてくる。そして、何よりも、周りの風景だ。先ほどまでの土手は存在しなく、砂以外のものが何も存在しない。そう、以前にどこかの本で見た衛星の星のようなのだ。
「雲ひとつ無い。まるで宇宙みたいだ」
ラズは朦朧とした意識の中で呟く。
「うむ。その通り。ここは宇宙の何処かの惑星のようだな。大気がないから雲もない」
寝転がっているラズの隣にはグレンが座っていた。小さな体なため見落とすところであった。
「宇宙のどこかの惑星? ・・・んっ? 大気がない!?」
ラズは慌てて立ち上がる。身体の重さは感じないため、この星の重力はソマリナと変わらないのだろうか。
「グレン、呼吸は出来ているの!? 酸素は!?」
ラズの慌てふためいた姿を見て、グレンが微笑する。
「はは、先に私の心配か。ここの惑星には酸素は無いようだ。私の偉大な防護の魔法が無ければ、お前も死んでおった。まあ、私の移動の魔法の失敗のせいでもあるがな」
「どういうこと?」
グレンが言うには、彼の魔法の中には、人の体をあらゆる環境に適応させるものがあるようなのだ。
防護の魔法。呼吸ができることも重力の違いに違和感を持たないのもそのためだろうか。
「他にもたくさんあるぞ。例えば、言葉が通じない者同士で会話が出来るような魔法とかな。だから、私とお前も会話できておるだろ?」
グレンが自慢するのを聞いて、ラズは何だか可笑しくなってくる。何とも平和的な魔物もいたものだ。普通であれば、誰かを不幸にするものばかり揃えていそうなものだが。
「ふふ、魔物ってわりには平和的な魔法がたくさんだね」
「だから言っておろう。私は人を守る魔物だとな」
グレンが偉そうな顔をする。やはり、彼には危険はなかった。ラズの感性も馬鹿にできないものなのだろう。
「ここはどこの惑星なんだろう?」
「ふむ。お前も知らない星なのだな。移動の際に雑念が混ざっておったのかな」
確かに、あの時に宇宙を見たいなどと思ってしまった。そのせいで、見知らぬ星に移動してしまったということだろうか。
「ごめん。宇宙に行けたらなぁとか考えちゃったんだ」
「うむ。それだな」
グレンが納得した様に手を叩く。しかし、ラズには少し気になることがあった。
「さっき、長距離を飛ぶのは危険とか言っていなかった? 俺の自宅じゃなく、そこに、移動するつもりだったの?」
「ん? そんなこと言ったかな? ただ、確かに、あまりの長距離の移動は無理だな」
グレンが怪訝な顔を浮かべる。
「うーん、空耳だったのかな。でも、もし、どこかに移動するのに俺の協力が必要なら手伝うよ?」
ラズの言葉を聞き、グレンが優しい表情をする。
「似ておるのだな。容姿だけではなく中身も」
「んっ? 何のこと?」
「いや、昔、一緒に居た女性と似ていてな。気にするな。とりあえずは、ソマリナに帰ることを考えよう」
「さっきの魔法は使えないの?」
グレンが困ったような表情をする。
「うむ。早急に帰りたいのだがな。しかし、お前の魔力を借りて、大移動となると、身体に負担がかかるかもしれんのだ。私自身の魔力が、ある程度回復するまで待ったほうが良かろう」
ラズは若干の倦怠感を感じていた。これが魔力を使ったための疲労感なのだろうか。
しかし、何故、ラズに魔力があるのだろうか。確かに、ソマリナ星では特殊な存在ではあったため、何かしらの特殊性はあるのかもしれない。
「さっきも言っていたけど、俺に魔力っていうのがあるってこと?」
ラズが言うと、グレンが首を縦に振る。
「本来は人間に魔力が備わっているなんてあり得ないのだがな。何故なら、魔力は生物に有害なのだ。心身共にその者を破壊する」
「ふーん、俺は特殊なのかな。グレンみたいに魔法も使えるってこと?」
「いや、それは使えんな」
グレンの回答にラズは残念な気持ちになる。そんな力があったら、いろんな人の悩みを解決することが出来ると考えていたからだ。しかし、ラズとグレンの違いは何なのであろうか。姿形と言ってはそれまでだが、自分には魔法が使えないのに彼には使えるのだ。
「とりあえず、魔力が回復したら、ソマリナに帰ろう」
「魔力が戻るのはどのくらいかかるの?」
「まあ、この星だと魔力の回復は遅そうだから、少し見えんのだがな・・・」
その時、ラズは背後に視線を感じた。彼が勢いよく振り返ると、そこには蛸人のような生物が存在した。蛸人とはソマリナに暮らす赤色の足が複数本ある人のことだ。身長が低いのが彼らの特徴だが、今目の前にいる生物の身長はラズと同じくらいだ。
蛸はこちらに向かってくる。
「おい、ラズ。逃げよう」
「んっ? でも、ただ会話をしたいだけなのかも」
グレンに反して、ラズには警戒心はなかった。
「ちょっと、ごめん。助けてほしいんだ」
蛸のような生物がラズに声をかけてくる。彼と言葉が通じるのもグレンの魔法のおかげだろうか。
「ねえ、話を聞いてよ」
「うん。何を助けてほしいの?」
「友達が崖から落ちて怪我をしてしまったんだ。僕一人の力では運べない」
蛸の生物が困り果てた表情をしていた。崖から友人が落ちるなんて一大事ではないか。すぐに助けなければならないだろう。
「おいおい。こんな不気味な生物の話を真に受けるな」
グレンがラズを諌めてくるが、困っている人を無視しろと言うのだろうか。そんな事を彼が出来るわけがなかった。すぐにも助けたい。
「こっちに来てよ!」
蛸の生物はそう言うと、ラズに背を向けて歩き始めてしまう。
ラズはゆっくりと屈むと、両手を揃えて、グレンの近くに置く。彼にその上に乗ってきて欲しいのだ。
「付いて行こうよ」
「ちっ、お人よしが」
グレンは納得できない顔をしながらも両手に乗ってきてくれる。ラズは彼を自らの肩に乗せると、蛸人に似た者に近づくために駆け出す。
ラズが蛸人に似た者に近づくと、彼の行動に違和感を覚える。
「おかしいとは思わんのか? 友人の緊急事態にも関わらず、あの蛸の生物には焦りを感じないとは思えんか?」
そう、ラズも同じ意見であった。それが何故なのかはラズにはわからなかった。
「やあ、着いてきてくれたんだね」
蛸人に似た生物が振り返りながら、笑みを浮かべる。
「うん。早く友人を助けないと」
「そうだね。でも、君等は僕らと姿が違うね。特にそっちの肩に乗っている人」
蛸人に似た生物の回答に、ラズは驚きを覚える。そんな事は、友人の危機に比べれば、どうでも良いことではないだろうか。
「あっ、う、うん。他の星から来たんだ」
「へえ、肩の赤い瞳の人も? 君の星には色んな形の生物がいるのかな?」
「グレンは地球って星から来たんだ。ただ、俺の星にはたくさんの種族の人がいるよ。君の星は違うの?」
ラズの言葉に反応し、蛸の歩みが止まり、考えるような動作をする。
「地球? 何か聞いたことある気がする単語だね」
この星の住人は地球を知っているのだろうか。そう考えると、この星の近くにグレンの故郷があるのかもしれない。
「あっ、そうそう、僕らの星の事だよね。僕らはずっとこの姿さ」
「皆が同じ姿ってこと? 大人も子供も?」
「大人と子供ってのが、よく分からないね。どういうものなの? 僕らは生まれた頃から、ずっと姿形は変わらないよ」
大人と子供という概念が無いのは、ラズにとっては不思議な感覚であった。他の星なのだから、外国以上に相違点があるのは当然とも言えるのかもしれない。
蛸人に似た生物は足を踏ん張り、少しの距離を跳躍する。ラズには意味がよく分からなかったが、その理由をすぐに理解する。蛸人に似た生物が跳躍した地にラズが足を踏み入れると、地面が崩れ落ちていったからだ。
足場の無くなったラズは、急降下していく。
「な、なんだ!」
グレンが狼狽しているのが見え、ラズは彼の体を自らの腹の上に置き、そのまま背中から落ちていく。
少しすると、背中に痛みが走る。どうやら、背中から穴の底に着地したようだ。
「引っかかったー。やーい。出してほしかったら、その肩の人をこっちに頂戴よ!」
穴の上から、蛸人に似た生物が嬉しそうな顔を覗かせていた。何故、注意してくれなかったのだろうか。ラズ達が落ちてしまっては引き上げるのに手間がかかってしまい、友人の救出が遅れてしまう。
「貴様! 何のつもりだ!」
腹の上のグレンが怒鳴り声を上げる。
「怖い声しても無駄だよー」
蛸人に似た生物は笑いながら言う。
「ねえ。穴から出してくれないかな? ロープか何かを持ってきて欲しいんだ。それに、君の友人を助けに行かないとならない」
ラズが背中を抑えながら立ち上がる。まだ、背中の痛みはあったが、大怪我という様な痛みはなかった。
「へへー。怪我した友人なんかいないよー。面白い奴らを捕まえたー。皆を呼んでこよう」
蛸人に似た生物はそれを最後にどこかに去っていく。怪我人がいない事実に、ラズは安心する。
「そっか。怪我人はいないんだ。よかった」
「お人好しが」
グレンが呆れた顔をしていた。
「まあ、私は空を飛べるから一人で逃げられるのだがな」
グレンがラズの足元から、彼の目線まで浮かび上がってくる。その姿は異質な光景ではあったが、魔法も使えるグレンなだけに、それ程の驚きはなかった。
「あっ、そうなんだ。さっきは抑え込んでごめんね。それなら、早く外に出たほうがいいよ。まあ、出来れば、助けも呼んできてくれないかな?」
ラズの言葉を聞き、グレンが肩を落とす。
「調子が狂うやつだ。一人で逃げる薄情者には怒るものだろう。それに、私がお前を置いて戻ってこないかもしれんぞ」
「何で?」
ラズは本当にその意味が理解出来なかった。困っている人が居たら、助けるのが普通では無いだろうか。
「本当にリーナに似ておるな」
「ソマリナで言っていた名前だね」
「ふむ。地球に青い結晶を持ち帰るためにソマリナに来た女性だ。心優しい女性で、お前みたいに困った者を見過ごせない女性だった。彼女の願いで、私は青い結晶を探しておる」
「えっ? なら、その人はソマリナに住んでいるの?」
「もう、大昔に亡くなってしまった。恐らくは病でな。それに、千年以上前の出来事だ」
「千年以上? そんな昔からグレンは生きているの!?」
「まあ、魔法で眠りについておったからな」
流石は魔物だという事だろうか。人間の常識などは全く通用しそうに無い。寝ていたとはいえ、千年も生きることなんか、ラズには想像もできなかった。
「もう、その話はもう良い。それより、この場からは早く逃げないとならん。まだ、お互いの魔力が回復しておらんが、お前の魔力も借りて別の星に大移動をしよう」
「どうして移動を急ぐの?」
ラズが疑問を投げる。
「さっき、子供が仲間を呼んでくると言っただろう。子供は純粋だが、それゆえに残酷なのだ。異物の我々に何をしてくるか分からんぞ」
そんなやり取りをしている時だ。遠くから、複数人の子供のような声が聞こえてくる。恐らくは、先ほどの蛸人に似た生物が友人を連れてきたのかもしれない。
「でかい石でも投げ入れてみようよ!」
遠くから恐ろしい言葉が聞こえてくる。自分はまだしもグレンを危険な目に合わせるわけには行かない。
「移動しよう!」
「使用する魔力が低くとも、成功率を上げたい。ソマリナの事を強く思うのだ」
ラズがソマリナの自宅のことを強く思うと、グレンが手を彼に向けてくる。
少しすると二人の体が光り始め、次第に姿が消えていく。
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