本編のダイジェスト版

 新魔法暦219年、巨大な地震「グレート・トレンブル」が世界を襲い、人々が気絶から目を覚ましたときには世界が二つに分かれていた。従来人々はこの星の表面で暮らしていたわけだが、この事件以降、星の内側の世界は「前世ぜんせ」と呼ばれ、一方の外側の世界は「後世こうせい」と呼ばれた。


 シーナの娘ルーカス・ダランは内側の世界「前世」に落ちてしまったうちの一人であり、彼女の友人たちを含むダラン総合魔法学校にいた他の多くの生徒たちもまた、「前世」での生活を始めることとなった。


 前世は星の内側であるから本来は真っ暗な世界であるが、魔法を使えるマージたちが炎で周囲を照らし、いつしか前世のほぼ全域に光が灯るようになった。


 それでも、陽の光を全く受けない前世では育つものも育たず、いつしか人々は絶望の渦へと飲み込まれるのだろうと感じていた。




 そんな中、ルーカス、そして彼女の友人たちは、世界のすべてに再び陽の光が照り付ける希望を求めて後世への旅を始める。旅を始めた当初は何も知らない彼女たちだが、「どうしてグレート・トレンブルは起こってしまったのか」ということを明らかにしていくとともに、自分たちを取り巻く環境に想いをせる。




    ◇◆◇




 遠い昔、世界には魔法という存在はなかった。しかし、当時の多数派宗教「シャトー教」が少数派の「アーム教」を迫害はくがいしたことにより世界は一変した。「アーム教」は迫害に打ち勝つため魔法の力を手に入れたのだ。それにより、「シャトー教」は強大な魔法の力による反撃を受け一時の優位性を失い、ほぼ消滅することとなった。


 魔法の誕生からしばらく経過した後、魔法の使い方がかんばしくないやからが登場する。それをきっかけに、「魔法学校を設立すべきだ」という声が挙がった。実際、それまでは魔法の使用を個人の良心りょうしんに任せていたところ、それを悪用または乱用する人間が出てきたことにより、人々の中で「学校」という概念が誕生したわけだった。


 無論、魔法を自由に使いたいという人々もいたわけであって、魔法学校の設立に対して賛成する者、反対する者による争いが起こる。


 この争いの結果、魔法学校設立賛成派が勝利し、ダラン総合魔法学校をはじめとした各地の魔法学校が設立されることとなった。また、反対派により設立されたカクリス魔法学校に対しては、当時の賛成派の指導者であり初代世界皇帝でもある「エード・セリウス」が資金援助を行うこととした。これはもとより「素晴らしい魔法学校を築き上げるためのもの」であった。




 しかし、第三代世界皇帝ハワード・セリウスがオームで誕生したことにより、世界は大きく変わる。


 世界皇帝は魔法の運用方針を決定する者である。そのため、魔法を使えないオームが世界皇帝になってしまうことはあまりにも不格好だったわけだ。そこで、ダラン総合魔法学校の学長イールス・ダランがハワード・セリウスを殺し、かねてより世界皇帝の座を狙っていたルードビッヒ家が新しい世界皇帝として君臨くんりんし、同時に資金援助も停止したわけだった。


 これに対し、資金援助を受けていたカクリス魔法学校が黙っているはずもなかった。影なる組織「現代魔法研究所」を正式に設立し、最終的には「グレート・トレンブル」を起こすこととなった。




    ◇◆◇




 ルーカスたちは長い旅を終え、前世に落ちてしまったダラン総合魔法学校から後世に残った学校へとやってくる。そして、一件を解決した後は、世界を戻すべく行動した。


 ルーカスは、自身の魔法「コントロール系魔術」により「グレート・トレンブル」を発生させられることを知り、今回は逆向きに発動することを検討する。


 多数の賛同者の協力もあり、ルーカスたちはグレート・トレンブルを逆向きに発動させようとするが、あまりにも多くの魔力が必要であり、血液不足で倒れる仲間が出てきた。最終的に、最も信頼していた仲間も同様に倒れるのを横目にし、ルーカスは魔法の発動を中断してしまう。


 結果、グレート・トレンブルは失敗に終わり、世界が戻るどころか自分以外のすべてが前世に落ちていくという結果を目の当たりにした。


 重大な責任を感じたルーカスだったが、グレート・トレンブルはそもそも一人で発動させることができない魔法だったためにもう何もすることができない。そこで、彼女自身が知ったこと、体験したことをノートにつづり、すべてを書き記したところで自害した。




________________________




 小説「二つの世界」は、ルーカスが記したノートを読者が読むという形をとっています。「序文」と「跋文ばつぶん」はルーカスが書いたままの文章、その間はすべて、ノートから読み取られた内容を第三者視点で描くという構成となっています。


 主人公ルーカスは自分の母親のことを全く知らないままストーリーが進みますが、途中の町で母親である「シーナ」に出会います。


 しかし、シーナは事情によりルーカスが幼い頃に家を出てしまいます。そのためルーカスはシーナの顔を覚えていませんでした。


 ルーカスは目の前の人間が容易たやすく自分の母親だと受け入れることもできず、一時はためらいます。その上で、最終的に、それまでに接してきた人々との記憶を思い出し、「今の自分ならどうしたいか、シーナのことを受け入れるか」といった観点から、娘ルーカスと母シーナは和解します。


 元々、ルーカスは、シーナが自分のことをあまり愛していない、世界のために自分を放って出て行った人だと認識していました。しかし、後世に残っていた自分の家を片付けるうちに、シーナが本当は自分のことを愛してくれていたということを知ります。




 本作「二つの世界 〜シーナの記憶〜」では、ルーカスの母親であるシーナが、一体どういった生まれで、どうして幼いルーカスを残して家を出たのか、彼女の人生はどのようなものだったのか、といったことが明かされます。


 波乱に満ちたシーナの人生。彼女の人生は、悲劇の連続か、愛情の造形か。




 ぜひ最後までお楽しみください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る