涙の宝石

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【上】

 ハイエルフの中でもオッドアイの者は宝石の涙を流す。

その涙の宝石こと【ティアーズジュエル】はこの世のどの金品よりも高値で取引される。

それを狙った人間によりハイエルフ族は乱獲され、ほぼ絶滅した。


「何だ、今度の俺の管理者は青二才か」

ハイエルフ保護管理組織の敷地内。

みずみずしいクローン樹木や草花が広がる人工森の最奥地に、彼の家はあった。

今や地上に存在する最後の一人になったハイエルフの男、ギール・ニオ。

青と黒のオッドアイ。

優雅にハーブティーを飲んでいたが、僕が近づいたのを見て高慢に吐き捨てた。

まあそうだよなあ……。

ハイエルフが絶滅したのは僕たち、人間の所為なのだし。仲間や家族を絶滅させた連中が今さら保護管理を訴えたって、白々しいというか、厚かましいというか。

……あれだけのことをされたのに、人間を嫌うなという方が無茶だろう。

「ミスター・ニオ。はい、貴方のお世話をするよう命じられてきました。アーガと申します」

「そうか、帰れ」

「……帰ったら僕はクビです」

「俺の妹は貴様らの所為で自ら首をくくった」

ミスター・ニオは突っ立っているしかない僕を憎悪の視線で見て、樹上の家の扉を閉めてしまった。

仕方ない、邪魔にならないところでキャンプさせてもらうしかないか……。

近くに川もあるし、食料は定期的に支給されるから問題ない。

「僕だって人間はあんまり好きじゃないんだけど、でも……今さら逆らったって仕方ないんだよなあ……」

僕はそうぼやくと、テントを設置すべく、空き地を探すことにした。



 夜。人工投影の星が綺麗だ。月は……今夜はないか。何だか切なくなって、僕は常備薬を飲んだ。これを飲まないと僕は……。



 たき火を焚いて、夕ご飯の合成肉の缶詰をお湯で温める。そして飯ごうで炊いた合成ご飯にぶちまけて一気に頬張る。

熱々のご飯に肉のうま味が混ぜ合って、最高!

 しばらく堪能したら、さらにお湯で溶かしたインスタントの遺伝子改造トマトスープをぶっかけて味変させ、雑炊のようにスプーンでかっこむ。

「背徳……!」

 いや、生きているっていいね。肉の脂とトマトのジューシーな味わいが熱で混ざり合って何とも言えない味わいだ。明日はソーセージや野菜を焼いて、川で冷やしたビールを開けるか。


 「くさい」

持ってきたダークチョコレートを肴に、ちびちびとウィスキーをあおっているといきなり背後から声がした。酔っ払って上機嫌だった僕は笑顔で振り返る。

「こんばんはですーミスター・ニオ!一盃いかがですか?」

「くさいと言った」

「はい、ですので一盃どうぞ!いやいや、一盃ならずボトル空けちゃいましょうかー!」

「誰も『ください』などと言っていない!」

雨。突然の豪雨!たき火が一瞬で断末魔を上げて消えてしまう。

そういやハイエルフは天候を操れるのだった。

「帰れ!二度と俺に近づくな!」

ずぶ濡れの僕を置いて、ミスター・ニオはさっさと樹上の家に戻っていった。

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