第2話 先輩の、椅子になった

 柚子先輩は、可愛い。

 今も椅子に座る俺の前で、大きめの制服の裾を掴んで顔を真っ赤にして唸っている。

 超可愛い。


「き、城戸君……ほ、ほんとに座らなきゃ、駄目……?」


 いつもの知的な雰囲気が崩れた柚子先輩は最高じゃないか。

 言い忘れてたけど城戸 翔(きど かける)が俺の名前だ。

 

 まあ俺の名前なんて柚子先輩の可愛さの前ではどうだって良いだろう。


「何でも聞いてくれるって言ったの、先輩ですよね?」

「そ、そうだけどさぁ……」


 もにょもにょ。

 語尾がどんどん小さくなるの可愛い。

 別に虐めたい訳じゃない、可愛い柚子先輩が見たいだけだ。


「先輩、お願いします。先輩を立たせてしまっては後輩として申し訳ないんです」

「そ、そうなのかい? いや、そうは言っても……」


 ……イケる。


「はい。先輩は俺の膝の上に乗るだけで良いんです。大丈夫です、俺は椅子なので何もしませんから」

「で、でも君も迷惑じゃ……」


 ……もうちょい。


「迷惑だなんてとんでもない! 先輩の為……いえ、俺の為にどうかお願いします!!」

「そ、そんな……うぅ……」


 ……あとちょっと。


「け、けど……そ、そこまで、君が言うなら、まぁ……」


 イケたっ!


「か、勘違いしないでくれたまえよ! あ、あくまでも困ってる可愛い後輩である君の為なんだからね!?」


 デレしか無いツンデレ可愛い。


「はい、先輩どうぞこちらに」


 椅子の上で俺の膝をポンポン叩く。


「お、お邪魔します……」


 何故か敬語なのも可愛い。

 可愛いの宝庫だ。


 そしてそんな柚子先輩が俺の前に。

 背中を向けて、ゆっくりと、両手でスカートを押さえて。


「お、重くない……?」


 座ってくれた!

 嬉しい!


「な、なんか言ってよぉ……」

「大丈夫ですよ先輩、ありがとうございます」


 俺の上でモジモジしてる柚子先輩が可愛い!

 そして近い、柚子先輩がとても近い!

 ていうか目の前!

 小さいのに大きく見える、近いから!

 近くて可愛い!

 柔らかくてあたたかくて甘い良い匂いがする!


 生まれてきてくれてありがとうございます!


「ね、ねぇこれ……いつまですれば良いの?」

「え?」


 いつまで……ふむ。


「気にせずいつもみたいに読書しててください。俺は先輩の椅子なんで」

「こっ、この状況でぇ!?」


 はい。

 座って読書する柚子先輩を見たくて椅子になったんだから当然だ。


「お願いします。先輩の役に立ちたいんです」

「う、うぅ……分かったよぅ……」


 神。

 頼めば何でもやってくれる柚子先輩は神。

 可愛さisGOD。


「へ、変な事しないでよ……?」

「もちろん、椅子なので」


 耳まで真っ赤にして読書を始める柚子先輩。

 変な事をする気なんて全くない。

 だって俺は先輩の椅子なのだから。

 

 こうして読書に耽る先輩の顔を見れれば、それ、で……?


 ……し、しまったっ!

 俺が椅子になったら柚子先輩の顔見えないぞこの状況っ!?

 

「うぁ、うぅ……は、恥ずかしいよぉ……」


 膝の上で悶える柚子先輩が可愛い。


「き、君は……恥ずかしくないの……?」


 と、若干涙目で振り返り見上げてくる柚子先輩も最高に可愛い。

 恥ずかしくないのかって、そりゃあ好きな人を膝の上に乗せてるんだ答えは決まってる。


「超恥ずかしいです」

「じゃあ今すぐやめようよ!?」

「駄目です」

「なんでっ!?」


 そりゃあ、可愛いので。

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