杉浦翔は自問する
俺の少し前を歩くさくらは、結構な老犬だ。
歩く速度もかなりゆったりとしていて、俺が普段歩く時の半分ほどのスピードしかでていない。
でも、さくらと共にゆったりと歩むこの時間は、結構好きだったりする。
普段早足で通りすぎてしまう場所であっても、こうしてゆっくりと歩いていると、また違う発見があったりするからだ。
それは景色だったりもすれば、人の流れだったりもするし、そして自分の考えだったりもする。
さくらとゆったりと
奏と知り合って一週間と少し、あいつの事はそれしか知らない。
奏汐音は強引で押し付けがましい奴で……でも、おそらく悪い奴ではない。
なぜ悪い奴ではない。そう思ったのか?
奏の行動そのものは、はっきり言ってめちゃくちゃだ。
しかし、その行動の根源、行動理念は自分ではなく他者にあるように思えるたからだ。
さきほどの、はあちゃんの救出だってそう。
あの救出劇は決して褒められた物ではない。
でも自らの危険を顧みずに、はあちゃんを思い、ありさの事を思い奏は動いた。
それは凄い事だ。俺には到底真似できる事ではない。だから、そんな奏を素直に凄いと思えた。
しかし、それに反して奏の考え方は、到底理解できないとも思えた。
我が身可愛いさ______それもあるけど、俺は人を信用足るものと思っていない。
自らの身を削ってまで尽くす程の事もない。
そう思ってしまえるからで、この考え方がこの先の人生を持ってしても変わる事はないと確信めいたものすらある。
この相反する思いを抱き、無意識に少し早足になっていたのかもしれない。
手に持つリードが唐突に後ろに引かれた。
「くぅーん」
気が付けば前を歩いていたはずのさくらが俺の後ろで座り込んでいた。リードもピーンと張ってしまっている。
「ごめん、さくら。疲れたか?」
さくらは返事もしなければ動こうともしない。
「……わかったよ。ちょっと休憩していくか」
さくらの座るその正面、階段状の段差に腰をおろして少し休んで行く事となった。眼前に広がるのは海水浴場。
もうすぐ日も沈むとあって、日中は多く見られた海水浴客の姿も今はまばらだ。
その変わりにサーフィンなどマリンスポーツを楽しむ人達。
そして俺と奏、立花の通う
その部活動に励む群衆の中でも一際大きな声をあげ、目立つ人物がいた。
一学年上の二年生
クラスの女子達が『佐渡先輩カッコいいよね!』とか『佐渡先輩はどんな人と付き合うんだろうね』とか話をしている声を良く耳にする。
高身長、整った顔立ち、そしてサッカー部では次期キャプテンと言われているとかなんとかで、モテる要素をごちゃまぜに詰め込んだような男だ。
同性の俺から見てもカッコいい、爽やかだと思えるのだから、きっと彼はモテる。クラスの女子ではないが、一体どんな女子とくっつくのだろうか?
ああいうのに限ってあんまり女の趣味が良くなかったりするんだ。
なんて俺には関係のない絵空事を空想してみたり______やめとこ、他人の人生は俺には関係ない。
……そういや奏がうちに来るきっかけになったのは、恋愛相談だったっけか。
佐渡晃とくっつけろか。
なぜ、奏は俺とは対局に位置する人間である佐渡晃との仲を取り持てと言ってきたのだろうか?
他に適材がいるように思えるのだが……
まあ、二人並んで歩いていればお似合いだなとは思うけど。
「くぅーん」
さくらが俺に鼻を擦り付けて鳴いた。
それはもう帰ろうと言う合図だった。日もすっかり傾き、水平線の彼方へ消え失せようとしている。
「そうだな。帰るか」
立ち上がってズボンに付いた砂を払ってから、弁天橋に向けてゆっくりと歩き出す。
そしてふと思うったのだ。
恋愛相談には乗らずとも、話くらいなら聞いてやってもいいかもな。
まだ返しそびれている借りもあることだし……
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