奏汐音は要求が多い
さいだー
奏汐音と勘違い。
「なあ
腐れ縁の立花と二人、海岸線の遊歩道を並んで帰っていたら
「なにって。そんなの聞かなくてもわかることだろう?」
佐渡晃。学年が一つ上のサッカー部のエース。親も会社を経営しているらしくお金持ち。
悪い噂なんて聞いたことはなくて、勉強もできるらしいし、顔も良ければスタイルも良い。話したことはないが、性格もかなり良いらしい。
非の打ち所のないとは、こういう事を言うんだなを【地】で体現している完璧超人。
それが佐渡晃なのだ。
「俺もほんの1%で良いからあやかりたいもんだぜ」
「言ってろ」
勉強は苦手。これと言って得意なスポーツもなし。顔は中の下、性格は、悪くはない。
「いいよなぁ、お前はモテるから……顔だけは良いからな翔も」
「別に良くないし。モテたって、いい事なんかないさ。別に興味ないし」
「はあ?嫌味かよ。俺もそのセリフ、一度くらいは言ってみたいぜ」
また始まった。俺は別に嫌味で言っている訳ではない。モテたって本当にいい事なんて無いと、心の底から思っているから。それに、俺が人気のない場所に呼び出されるのは、告白のためだけに呼び出されているという訳ではない。
「それはそうと、放課後また、女子から呼び出されてただろ?どうだったんだよ」
「またでも無いだろ。今月に入ってからたったの三件目だよ」
「気をつけろ翔。それは世の男子を敵に回すセリフだ。それにな、今月って言っても七月に入って実質二週間。それをたったと言い切れる胆力恐れ入るよ」
「ありがとうございます」
「褒めてねえよ!」
鋭いツッコミがビシッと左胸を打った。
「イテテテ。心臓停まったかと思ったぞ」
「そんなんで停まってたまるか!で、今日は誰に呼び出されたんだよ」
適当に誤魔化そうと思ったけど、そうもいかないらしい。
「……話しても良いけど、今日のは告白でもなければ仕事の依頼でもなくて、人違いだった」
「ほう。人違いねえ。良いでしょう聞きましょう」
「仕方ねえな。立花と合流する、ほんの十分程前の出来事だ______」
______________________
喧騒が遠く聞こえる、人気の無い校舎裏で、まだあどけなさの残る少女と俺は対峙していた。
彼女の名前は______
「汐音よ。
そう快活に話す彼女とはこれが初対面だ。
これは間違いない。出身中学校にはこんな子は居なかった。小学校にもいなかった。
なぜ、そう断定できるのかと言えば、こんなに可愛らしい女の子を見て、男として覚えていないはずがないからでかる。
「えっ……と。人違いじゃないかな?」
俺の返答を受けても、少女は表情を崩す事なく、サラサラのセミロングが潮風に揺れ、クリクリの瞳が俺を射抜いていた。
「もしかして、仕事の依頼……とか?それならごめん。あれはおじさんが稼業でやってる事だから、俺個人では受けていないんだ」
「翔君だよね?間違ってないよね?」
「たしかに俺は翔だけど、翔違いだと思うよ。世の中に翔って名前の奴はごまんといるだろうし」
ここまで否定しても、疑いを知らない真っ直ぐな瞳が逃してはくれない。
「えー?翔君は翔君なんだよね?あれ、なんかわかんなくなってきちゃった。うん、あれ?私の事本当にわからない?」
「俺は翔だけど、奏さんが探してた翔って人とは人違いだと思うから、ごめんね。奏さんの事もわからない。多分初対面だから」
「初対面……?本気で言ってるの。それ」
少女の雰囲気が変わるのと同時に、フッと突風が吹いた。
サラサラのセミロングが風になびき、表情を隠した。
すると、そのまま少女は俺に背を向けて、一言だけ告げて去っていった。
「嘘つき」と
______________________
「てな事があったんだよ」
ここまで話し終えると、立花が俺の肩をがっしりと掴み、笑っているとも怒っているとも取れる表情で言った。
「奏汐音ってA組の奏汐音か?」
「あー多分」
「勘違いで振られてザマーと言いたい所だが、紹介してくれ、俺に」
「なんで俺がそんな事せにゃならんのだ」
「なんでって、俺達親友だろ?」
「親友?笑わせんな悪友の間違いだろ」
「なんなら奏汐音とよく一緒に居る
「なんだよお前。やたら詳しいな」
「あのなー、知ってるもなにも、俺的可愛い同級生女子ランキング、ナンバーワンとナンバーツーだぞ!」
立花の言う勇利愛華と言うのがどんな人物なのかは知らないが、たしかに奏汐音は可愛かった。
しかし、俺が興味を持つかどうか、立花に紹介するのかどうかはまた別の話しだし、まして俺は相手の勘違いで振られているのだ。紹介するなんて不可能に近い話しだ。
「無理だね。自分でなんとかしろ」
「いや、そこをなんとか」
「無理」
腰にしがみつく立花を引きずって、海岸線を無理矢理に進んでいく。
俺達の姿は、横の砂浜で練習をする、サッカー部の面々とは対照的だったと思う。その中には立花があやかりたがっていた佐渡晃の姿もあるはずだ。
なぜなら砂浜に続く階段から、サッカー部に向かって腰越高校の制服に身を包んだ女子生徒達が歓声をあげていたのだから。
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