第21話「ミリンと一緒に」
『じゃあそのチャンスを掴めるように、私頑張るからね……!』
僕は予想外なミリンの言葉を聞き、頭の中で様々な思考が巡っていた。会話の文脈を元に言葉の意味や相手の心理を推測する、というのは凄く苦手だった。だが、どう考えてもミリンの言った言葉は、直接的ではないものの、愛の告白にかなり近いものに思えた。
(これって、僕はミリンに好かれている、ということだよな。流石にそれ以外、考えられないよな……?)
思い返すと、ミリンから好かれているかもしれないと思う場面は何回かあった。でもミリンとはただの幼馴染だし、そんな訳ないだろう、恋愛経験の少ない僕の勝手な思い込みだろう、と毎回思い込もうとしていた。
『……魔法少女を好きになってはいけない。』
ふと僕の頭の中で、その言葉がこだまする。僕はあの日、魔法少女を絶対に好きになってはいけないと決めた。これは誰かに言われたことではなく、自分で決めたことだった。
(ミリンの目的は何なんだろうか。本当に僕と付き合いたいと思っているのだろうか。本心では、僕を殺してツグミさんみたいに魔力を得たいと思っているんじゃないか……?)
考えれば考えるほど、ミリンのことがよく分からなくなってくる。ただ一つ確かなことは、ミリンもツグミさんと同じ魔法少女であるということで、つまりはミリンを好きになってはいけない、ということだ。もし僕がレンのように殺されてしまったら、いよいよ誰も魔法少女の暴走を止められなくなる。ソウタも殺されてしまうだろうし、クラスメイトの男子達も遅かれ早かれ殺されてしまうだろう。学級崩壊、なんて生易しいものじゃない。そうなってしまったら、その後、この世界はどうなっていくのだろう……?
「ねぇミクジ、今日は学校行くん?」
考え事をしている途中に、いきなりミリンが話しかけてくる。僕の頭の中の思考はそこで止まり、その場の会話を繋げるための言葉を弾き出す。
「……んー、行こうとは思うけど、ミリンは行きたくないんでしょ?」
「ミクジが行くんなら、一緒に行こうかな。メイ先生に一緒に怒られようよ。」
ミリンはそう言うと、僕の方に向かって白い右手を差し出してきた。さっきまで学校に行きたくないって言ってたのにどういうことだよ。
「……え、何の手?握手?」
僕は反応に困ってミリンに尋ねる。ミリンは、首を横に振り、そうじゃないよと伝えてくる。確かにこのタイミングでいきなり握手を求めてくるのはおかしい。少なくとも日本にそんな文化は無い。
「私、疲れちゃって、もう歩けないの。……だから、手繋いで学校まで引っ張って?」
ミリンは笑いながらそう言った。僕がミリンと手を繋いで学校まで行くなんて、そんなの恥ずかしいし、きっとドキドキしてしまう……。ミリンを好きになってはいけない。できるだけ、リスクのある行動は避けるべきだろう。
「……男女で手を繋いで学校に行くなんて、そんなの今時小学生でもしないよ?年頃の男女が手を繋ぐなんて、付き合ってもないのにおかしいよ」
僕は理路整然と話し、できるだけ普通に登校をする方向に会話を進めようとする。もし手を繋いだりなんかして、これ以上ミリンを意識してしまうと、ミリンのことを本当に好きになってしまうような気がしていた。
「理屈は良いから手をつなぎたいの!ミクジは頭良くないんだから利口ぶるな!」
ミリンはそう言って、突然僕の左手を柔らかい右手で掴んでくる。柔らかい彼女の手とは正反対に、僕自身は石化魔法でも喰らったかのように、左手から全身が固まって動けなくなってしまう。
「わ、わぁあ……。」
口から魂が抜けたように変な声が出てしまう。僕は手を振り払うことも出来ず、手を握り返すことも出来ず、ただ固まっていた。ミリンの右手は温かく、柔らかかった。ミリンが僕の手を握っているという事実が、なんだかむずかゆく、恥ずかしい。女の子に手を握られたのなんて何年振りなんだろうか。きっと保育園とか、それくらい昔の話だ。
「はやく~、連れてって!!」
ミリンは握った手をブンブンと振り回しながらわがままなことを言ってくる。僕は、子供みたいなやつだな、と思いながら、心のどこかでそれがまた可愛いな、とも思ってしまう。やばい、このままだと本当にミリンを好きになってしまう。
「もう!!」
僕は大きな声でそう叫んだあと、石化状態のようになっていた自身の体をなんとか力づくで動かしだした。ミリンと、手を繋いでる。それを意識してしまうと、どうにかなってしまいそうだった。ミリンと手を繋ぎながらも、できるだけミリンのことは考えず、ぼくは電柱や道路をキョロキョロと眺めながら通学路をただひたすらと歩き出した。
「……手汗、びちゃびちゃだよ?かわいいね」
しばらく無言で歩いていると、ミリンは笑いながら、そんなことを言ってくる。手汗がびちゃびちゃなのがかわいい?いくらなんでも意味が分からなさすぎる!!でもそれ以上に、その言葉にドキドキしている自分がこの世で一番意味が分からなさすぎる!!
「うるさい!!早く学校に行くぞ!ばか!」
学校につくまでの十数分間、一度もミリンの顔を見ることができなかった。顔を見てしまうと、僕の気持ちが全部見透かされてしまいそうだったから。今の僕の気持ちは自分自身でもうまく言語化ができないけれど、少なくともミリンに好意を抱いていることは確かで、それがなんとなく恥ずかしかった。
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