第二部 3章 『天下に向けての第一歩』

第118話 お引越しとご結婚

 ついに信長は念願の美濃国を手に入れた。厳密にいえば東美濃が少し武田に持ってかれてるんだけどそこは目をつむろう。とにかく信長は尾張美濃の二国を治める大大名になったのである。

 逆に負けた斎藤龍興は稲葉山城を脱出した後、長良川を伝って長島の一向一揆の所に逃げのびたらしい。そこで力を取り戻し、美濃への帰還を果たすつもりなのだろうと長秀は言っていた。

 

 これから拠点は美濃攻略のための拠点だった小牧山城から稲葉山城改め岐阜城に移ることになる。それに合わせ、家臣団も引っ越しが必要になる。もちろん領地が変わるわけではないので清洲の家を捨てるわけではないが、今回は祈も連れていきたい。小牧山城の時と違って今回はだいぶ長く住むはずだし。

 信長は今後、安土城を作って引っ越すはずだけど城を作るのには時間がかかるし少なくとも5年以上は住むと予想している。今度の家は清洲に負けないくらいの豪邸を作ってやる。


 岐阜城の天守閣は金華山の頂上にあるが信長が生活する御殿は山の麓にあり、その周辺に信長家臣団の武家屋敷街ができることになっている。そこからさらに少し山を降ったところに城下町が展開される。今は稲葉山城攻めの影響で全焼しているが。俺は武家屋敷街の中でも城下町寄りの位置の広い土地を買い取ってそこに屋敷を立てるように命じておいた。どんな風に注文にしたのかは完成したときのお楽しみだ。


 稲葉山城攻略の一週間後、美濃攻略の論功行賞が行われることになった。岐阜城天守に家臣が勢ぞろいする。


「此度の美濃、および北伊勢侵攻誠に大儀であった。まず、今回の美濃制圧の決め手となった美濃三人衆、氏家直元、稲葉良通、安藤守就そなたらは美濃国の旧領を安堵する」


 美濃三人衆は美濃国に持っていた領地が信長に保障された。まあ彼らはこれからも信長の役に立つだろうし、適度の力を持たせておくくらいでちょうどいいのではないだろうか。


「此度の第一功を発表する。第一功、明智光秀、前へ!!」

「ハッ!!」


 いい返事で光秀が前に出る。あいつが第一功か……俺とか長秀の方が活躍していたように見えたんだがな。


「明智光秀は此度、河野島の戦いで殿を務め軍を無事に撤退させ、北伊勢では20の城を落とした!! この功により明智壮長山城の領土を拡大、宝物5点を授ける」

「ありがたく」


 確かにこう聞くと第一功ってのも納得だ。20城ってヤバイな。でも信長にはあまり光秀を信用してほしくないのだが。

 

 その後、第二功柴田勝家、第三功滝川一益と続く。


「第四功! 坂井大助、前へ! 坂井大助は北伊勢の有力武将で会った赤堀を攻め、総大将赤堀宗近を含む3将を討ち取った。さらにすぐに取って返し稲葉山城奪取にも貢献した。この功により清洲西の領地を清洲一帯に拡大し、清洲城主に任命する」

「俺が、清洲城主……?」


 清洲、かつて父上が治めた土地(厳密には織田信友だけど権力握っていたのは父上だしこう言っても問題ないはず!)。そして信長も一時期拠点にしていた尾張の要所。そんな場所を、俺が?

 信長の顔を見ると、ニッと笑みを浮かべている。


「お前以上に清洲を治めるのに相応しい者はいない」

「ハッ、ありがたく」


 父上の仇を討って、父上の領土もすべて俺の物になった。きっと父上も喜んでくれているだろう。父上の大事にした領地を、俺も守ろう。天国で父上に誇れる清洲城主になってやる。



 約3か月後、岐阜の家が完成したと聞き、俺は祈を伴って清洲から岐阜に引っ越した。清州の屋敷は彦三郎に任せてある。あそこは彦三郎にとっても思い出深い場所だからな。


「わぁ、すごいですね!!」


 祈が新居を見て感嘆の声を上げる。それはそうだろう。だってこの家、信長の住む御殿の次にでかいもん。武家屋敷街と城下町のちょうど中間くらいで武士には人気がなくて町人も武士と距離感が近い場所は問題が起きやすくていやだということで町人にも人気がない場所だ。その広い土地を意外にも安く買うことができた。浮いた金で屋敷の方を豪華にしてしまうのは仕方ないだろう。

 家は3階建てで部屋数が前の家の3倍ほどに加え、前の家の5倍ほどの大きさの風呂、おしゃれな庭付という素晴らしい物件である。お手伝いさん一人じゃ足りないだろうな。

 離れには俺専用の銃研究室がある。清洲ではなんだかんだ忙しくてあまり研究に没頭できる時間がなかったから、しばらくはここに籠りたい。ユナにもらったショットガンの設計図もまだあまり触れてないし。この町で一番腕のいい鍛冶師を探して雇わないと。やることは山積みだ。


 お手伝いさんは清洲にいた時の人がついてきたいといったのでこれまで通り住み込みで働かせることにした。足りなかったらまた雇おうと思う。

 鍛冶師については町人に聞き込みで探し回り、少し離れた大垣という町にすごく腕がよくて有名な鍛冶師がいると聞いたのでそいつを雇った。名前を村木顕蔵という。どっかの武家の分家の出らしく、刀だけでなく小物の類も作れるというのでリボルバーを作らせてみたらなかなかの出来だった。


 そんなこんなで美濃攻略からあっという間に月日が流れた。年が明け、1568年。年明け早々めでたいニュースが飛び込んできた。近江の浅井長政と信長の妹の市ちゃんが結婚するというのである。

 俺と信長は急いで近江国小谷城に訪れ、市ちゃんをお祝いした。5年ぶりにあった市ちゃんはかなり大人びていて、浅井長政とはお似合いのカップルという風になっていた。信長も嬉しそうに長政と市ちゃんの結婚を祝福していた。


「おめでとう、市」

「ありがとうございます。お兄様」

「織田の頼れる味方となった浅井との懸け橋として苦労を掛けると思うが、よろしく頼む」

「苦労だなんて、とんでもない。長政さまはとても良くしてくださるのです」

「そうか。長政殿、妹をどうかよろしくお頼み申す」

「命に代えても」


 命に代えてもといった長政にお市ちゃんの顔が赤くなる。わかるよ、すっごくカッコいいもんね。政略結婚なのに恋愛結婚のような雰囲気だよ。

 

 とにかく、激動の1568年はこんな嬉しいニュースから幕を上げた。

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