第100話 竹中半兵衛と16人の制圧部隊
「あのような状況に追い込んでおきながら信長を取り逃がすとは何事か!!」
「は、申し訳ございません。ですが織田の主力軍はほぼ潰しました。しばらく美濃に織田が攻めてくることはないかと。今回の戦は我らの大勝利で……」
「黙れ! 信長を取り逃したのは貴様の失態であろうが!!」
「その通りでございます。返す言葉もございません」
新加納口の戦いで大勝利したにもかかわらず龍興に怒鳴りつけられる半兵衛。怒鳴りつけている龍興は若干顔が赤い。真昼間から酒を飲んでやがる。龍興は持っていた扇子の先端をかじり、
「信長は放っておけば必ずやまたこの美濃に攻めてくるぞ……!!」
そう小さくも強い声で言い、壊れた扇子を床にたたきつける。態度はともかく龍興の指摘は十分考えられるものである。酒・女に溺れていることさえ目をつむれば龍興も立派な美濃の領主であることは間違いない、目をつむることができればだが。
「半兵衛、織田への対策はしておけよ。それと最近北の浅井が怪しい動きをしている、それも対応しておけ」
「……は」
大勝利したのに報酬もなく、この扱いとは。半兵衛はぎゅっとこぶしを握り締め、稲葉山城から出る。少し離れたところで半兵衛ではなくその従者が口を開いた。
「半兵衛様、我らの主は……」
「どうやら本当に仕置きをする時が来たようですね。紫月、守就を私の屋敷に呼んでください。少し、悪巧みをします」
「えっ……わかりました!! お任せください!!」
従者・紫月は一瞬驚いた顔をしたのち、すぐにうれしそうな顔で走り出した。
「転ばないように気を付けてくださいね」
「はい! お気遣いありがうぎゃッ!?」
半兵衛に返事をしようとして振り返り、後ろ走りになった途端足を滑らせ地面に頭を打つ。
「前見て歩かないから……ほら、大丈夫ですか?」
「うう、申し訳ありません」
半兵衛の差し出した手に摑まり起き上がる紫月。膝をぱっぱと払い、恥ずかしそうに再び走り出す。半兵衛はその微笑ましい後姿を温かい目線で見送った。
美濃3人衆が1人、安藤守就と半兵衛は半兵衛の家にて龍興への仕置きを考えた。
「……本気ですか?」
「ええ、もちろん。我らが主もそこまでされれば理解していただけるでしょう」
「だが……いや、あれにはそのくらいが丁度いいか。わかった、某も協力しよう」
「感謝いたします。当日作戦に参加するのは私と守就殿とその他14人で合計16人です」
「「……はァ!?!?」」
2月4日、半兵衛が作戦実行日と指定した日だ。半兵衛とその従者15名は半兵衛の弟・彦作(仮病)の見舞いである。武具がぎっしり詰まった大きめの箱を担いで稲葉山城の城門を訪ねた。
「止まれ!! ここは龍興さまの居城・稲葉山城である!! 怪しいものは何人たりとも入れるわけにはいかん!!」
「私は斎藤家家臣・竹中半兵衛重治。弟が病気なので見舞いに来た」
「その箱は何だ? 見舞いの品にしては大きすぎるぞ!!」
「これは酒や食料が入っております。あとで城の皆さまにも振舞わせていただきます」
「ほう」
半兵衛の言葉に門兵の表情が緩む。意図せず酒が飲めることになりそうな展開に期待しているのだろう。
「よし、通れ!!」
無事に稲葉山城の中に入った。ここまで来ればもうあとは簡単だ。空き部屋に入り、箱の中の甲冑を着て刀などを装備する。
「行きますよ。まずは今日の宿直の斎藤飛騨守を討ちに行きます。彼さえ討てればもう城は取ったようなものです」
「は!」
半兵衛たちは今日の城を守る担当である斎藤飛騨守のいる部屋に向かう。
「むっ? 半兵衛殿、その恰好は?」
「覚悟!!」
「ッ! な、なにを!?」
半兵衛自ら斎藤飛騨守を斬り捨てた。城を守る部隊長である飛騨守さえいなくなれば指揮系統は麻痺し、兵士は素早く動けない。
「次は主の部屋だ。多少は傷つけてもいいが、殺すな。上手く城の外へ追い出せ」
「ハハッ!!」
半兵衛の従者と守就たちが城内を制圧していく。龍興は着の身着のまま、パジャマで城の外へ逃げて行った。
こうして見事、半兵衛はわずか16名で堅城・稲葉山城を落としてしまったのである。そしてその衝撃のニュースはすぐに周辺各国に伝わった。最も影響が大きかったのが尾張国の信長たちである。
「一体どういうことだ!?」
「竹中半兵衛とは前回斎藤軍を率いていた名将だろう? 何故離反など……」
「彼が美濃の領主になったとなると相当厄介ですよ、策を根本から練り直さねば」
織田家臣団の面々がネガティブな感想を言い合う。だが、信長だけは違った。
「これは、好機だな」
「は?」
「好機とは……?」
「今すぐに美濃の竹中半兵衛に使者を送れ。稲葉山城を明け渡せば美濃半国を渡すという条件でな」
「み、美濃半国!?」
「い、いや悪い条件ではない。それで我らは戦わずして美濃を手に入れられるのだ」
ということで信長から半兵衛に使者が送られた。だか半兵衛はこれを即拒否した。
「我らが国の城、他国の者与えて所領を得るなど私の目指すところではない。美濃が欲しければ私を倒してみよ。まあ、私がいる限り貴様らには無理だがな」
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