第84話 隊長出陣と犬山城の天守閣

 俺はユナの話を聞いて、隊の皆に戦の準備をするように伝えた。理由はもしかしたら美濃へ行くかもしれないという体だ。


 そしてそれから5日後、織田信清が信長を裏切り斎藤側についたと報告があった。

 信清は拠点である犬山城に籠っているらしい。犬山は美濃を攻めるにあたり重要な拠点だ。ここに憂いがあると信長は美濃侵攻どころではなくなってしまう。

 このことを話し合うため俺と一益、そして那古野から林秀貞も駆けつけ会議が開かれた。


「俺が行く」

 

 会議が始まると同時にそう宣言した。


「私としてはそれで良いかと思いますが、一益殿はどうですか?」

「そうですね、私も行った方がいいでしょうか? 私の計算によると二人でいけば勝率は8割を超えます」

「ちなみに俺一人で行くと?」

「7割です」

「なら、伊勢側の警戒もしないといけないですし一益殿はここに残ってください。私もしばらくここに滞在します」

「では俺は隊を率いて明日、出陣します。秀貞殿、一益殿、清洲をよろしくお願いします」

「わかりました。大助殿、ご武運を」


 翌日、俺は俺の隊1500名を率いて清洲から犬山城に向けて出陣した。彦三郎、大吾、常道、隆康の隊長たちも全員出陣している。なんやかんや言って隊全員が集まって戦に行くのは桶狭間以来だな。


「戦の準備ができていたから早く出陣できましたね。これを読んでいらしたのですか?」

「いや、美濃から援軍要請が来る可能性を見越してのことだったんだけど……でもまあ結果的には良かっただろ」

「そうですね、信清殿もまさかこんなに早く清洲方が動くとは思ってもみないでしょう。このあとは一気に犬山までの道中にある3つの城を落していき、犬山も落とす、でいいんですよね?」

「ああ、でも信清は殺さないほうがいいかもな。信長様次第だけど」

「わかりました、できれば生け捕りにしましょう」


 常道と方針を確認し合う。そしてある地点についた。俺と常道が分かれる地点だ。


「よし、ここからは隊を分けよう。常道は大吾と一緒に西にある砦を落してこい。落とし次第、犬山の南に陣を敷いて待機だ。俺たちも急ぐけどこっちは二つ城を落すから少し遅くなると思う」

「わかりました。ご武運を」

「お前もな」


 その後、俺と彦三郎、隆康の軍は犬山に侵攻途中にある2つの砦を共に半日ほどで落とし、犬山に向かった。


「なんか敵が弱すぎやしねえか?」

「兵数が明らかに少ないですね。犬山にほぼ全兵力を集結させているのでしょう」

「あっちの全兵力ってどんなもんなんだ?」

「浮野の戦の時は1000人でしたがあれが全兵力ということはないでしょう。おそらく2000ほどかと」


 こっちより500多い。城攻めで攻める側の方が兵力が少ないっていうのは致命的だな。でも覆せないほどじゃない。ここには父上の時からの精兵たちも多くいる。質では負けてないはずだ。


「明日には犬山に着く。おそらく明後日開戦になるだろう。それまで兵の士気を高く保っておけよ」

「は!!」


 今俺たちは砦を二つ連続で半日足らずで落とし、士気はかなり高い。この士気のまま犬山城攻めに行ければいいが……

 そんな甘い考えは犬山城についたところで粉砕されることになるのである。


 翌日、俺と彦三郎らの東側から攻めた軍が犬山城の2キロほど南に布陣した常道たちと合流し、一緒に犬山城に向かって進軍した。

 軍に異変が起きたのは犬山城が見えてきたころである。


「おぉ」

「これが……聞いてはいましたが……」

「天守閣、でしたか? すごいですね」


 犬山城はこの時代では珍しい天守閣がある城である。

 前世で姫路城やら大阪城やらを見たことがある俺や天守の存在を知っていた隊長たちに動揺は見られなかったが、寺の五重の塔以上の高い建物を知らない兵士にとって小高い丘の上に築かれた三層四階の天守閣は戦意を喪失させるには十分なインパクトを持っていた。


「これは、不味いですね」


 俺たちが開戦とした日の前夜、隊長と集まって最後の会議をしていた。


「まさか天守を見ただけでこんなに士気が落ちるとは」

「それに敵の大量の篝火とさっきからずっと鳴っている太鼓の音も士気を下げている要因の一つでしょう」


 空が暗くなってからの犬山城は大量の篝火がたかれ、明るく輝いている。しかも夕方からずっと太鼓がなっており、これも兵の士気を下げる要因となっている。しかも会議にも支障をきたし、眠ることも満足にできないだろう。もうこれ立派な攻撃だよ。前世でやられたら壁ドンからの翌日苦情コースだ。


「明日の戦闘開始は予定通りに始めるんですか?」

「うーん……このまま攻め始めても負けるだろうしな……」

「なんとかして士気を戻さんとな……」


 連続で城を落として上がった士気はすでに失われた。むしろこの隊結成してから最悪レベルだね。


「いっそ信長様に援軍を頼んで、圧倒的戦力で潰すっていうのは」

「それは厳しいでしょう。あっちも斎藤龍興と戦ってるわけですし」

「やはり我らだけでやるしかない、か」


 この軍だけで犬山城を落とす。それはほぼ確定事項だ。でもこの士気のまま攻め込んだらきっと負ける。でも長期戦ができるほど兵糧を持ってきているわけでもない。短期決戦じゃないと。ならやっぱり兵の士気を上げないと。……問題が根本に戻ってしまった。

 士気を下げている要因が建物だからなぁ……爆破とかしたらこっちの士気は上がって敵の士気は落ちるだろうけどさすがにそれは違うよね。爆薬も持ってないし。

 なんかすっごい檄を飛ばして士気を上げるとか? そんなこと俺にできるかな?稲生の時も浮野の時もその場の流れでやっちゃったからなぁ。豊臣秀吉は小田原城攻めの時、自分も城を立てることでこの問題を解決したらしいけどそんな財力俺にはない。


「明日までに士気を上げる何かを考えておくよ。開戦は明日の予定に変更はない。以上、解散!!」

「え!? 我が主、何かとは?」

「わからん! これから考える!!」


 俺は困惑する彦三郎たちをおいて、陣幕を出た。

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