第63話 桶狭間の戦い(3) 未来のJK
「接敵します!!」
「俺がやる!!」
「俺も!!」
俺が前に出ると同時に、利家が槍を手に俺に並ぶ。
「「オラァァ!!」」
最前線の兵士と柵をまとめて吹き飛ばし、一気に突入する。
「雑魚に構うな!! 義元の首をとってさっさと離脱するぞっ!!」
信長の叫び声通りに、兵たちは義元本陣に向けて一気に突っ込んでいく。だが徐々に敵に捕まり始めた。まともに戦をすれば兵力の差で圧殺される。だからこその奇襲、スピードが命だ。
「何が起こっているというのだ!! 裏切りかっ!?」
「奇襲です!! 織田方の奇襲!! 義元様、早くお逃げください!!」
「奇襲だとぉ!?」
今川義元は混乱していた。さっきまで勝報ばかりが届いていたではないか。元康が丸根、鷲津を落とし、他の部隊も織田方の砦を次々に落としている。そもそも信長は熱田にいると報告があったではないか。
いや、そんな事を言っていても仕方ない。今は状況を打開する策を考えなくては。義元は心を落ち着け、頭を回転させる。
「今すぐ元康へ使者を出せ!! すぐに出陣しここへ来るようにと!! 他の別動隊も呼び戻せ!!」
「はっ!!」
敵は正面から戦って勝てないから奇襲をかけてきた。なら全軍を集めて叩き潰すのみ。そう判断を下す。だがすでに敵の凶刃はすぐそこまで迫ってきていた。
陣幕に斜めに線が入り、下半分が落ちる。入ってきたのは二人の男。一人目は長槍を持った筋肉質の男、もう一人は槍の男より若い腰に銃を装備した青年だ。
「今川義元だな?」
銃を装備した青年が問う。
「ああ、いかにも私が今川義元だ。貴様らは?」
「信長様一の家臣、坂井大助」
「おい!! 何勝手なことを言ってるんだ!!」
なんかあっちで揉め始めた。っていうかもしかして坂井って元康が欲しいて言ってたやつかな? まああってるかはともかく、今はそんな余裕はないが。
「いいだろ別に。たぶんあの中で俺が一番強い」
「ああ、もう!! 俺は前田又左衛門利家だ」
どっちも苗字を持ってる。武家の人間だ。
「その首、置いてけよ。東海道一の弓取り」
「おい待て、利家。それは完全に悪役の、しかも負けキャラのセリフだ」
「知るか!! 何の話だ!!」
なんなんだこいつらは。調子が狂うな。だがあいつらがそんなことをしている間にも家臣が集まってきた。
「義元様!!」
「お下がりを!!」
「直盛!! 政忠!!」
私の家臣の中でもとりわけ武芸に長けた者たち。なぜか宗信と長定は殺されてしまったが。
「政忠殿!! 左のこいつは私が!! こやつなかなか手強いので!!」
「承知した!! では私は右だな!!」
直盛が銃の青年、政忠が槍の男にそれぞれ攻撃を仕掛ける。ここはひとまず大丈夫だろう。
「おいあんた、俺と1対1でやるつもりか?」
「そうだが?」
「なめんなよ? さっきは17対1だった。それで16人死んだんだぞ? やめとけよ」
「貴様こそそんなボロボロの体でこの私に勝てると思うなよ!!」
真面目に忠告したのに聞いてもらえなかった。俺はさっさと義元を討ちたいのに。
「話している時間はない!! 行くぞ!!」
「望むところだ」
とりあえず刀で斬りあってみる。やっぱ傷に来るな。受けるだけで精一杯。反撃に回れない。銃使うか。
「本気の俺を見せてやる」
「ん!?」
刀をしまい、リボルバーを両手で握る。直盛にまっすぐ構える。そして引き金を引く。
パァァーーン!!
「っ!!」
今の避けるかよ。でもまあこれからだ。
銃を腕を伸ばさず体につけるような形で直盛にダッシュで急接近する。
「おいおい!! マジかよ!!」
斬撃を掻い潜り、一気にゼロ距離まで到達。
「グッバイ」
顎の下から脳天を撃ちぬき、即死させた。
「今川の将!! 井伊直盛を討ち取った!!」
そう叫ぶと織田方の歓声が戦場に鳴り響く。
「さすが大助、早いな」
「まさか、直盛殿が……」
「死人のことを考える余裕はないぜっ!!」
利家が槍を連続で突き立てる。刀で弾かれたが相手は何とか弾いているって感じだ。
「まだまだァ!!」
「くっ」
徐々に相手に傷が増えていく。かすり傷だってたくさん受ければ十分脅威だ。
「一か八か!!」
「ん?」
政忠が両手で持っていた刀から左手を放し、空いた左手で短刀を抜く。
「二刀流……」
「死ねっ!! 織田の若き将よ!!」
「なめんなよ!!」
槍で政忠の左手を切り落とし、続いて右肩を貫いた。
「うっ!?」
「槍は突くだけじゃねえんだよ!!」
利家はそう言うと、剣の届かない間合いから槍を振り、首を跳ね飛ばした。
その首を槍を使って高く掲げる。
「今川の将!! 松平政忠討ち取ったり!!」
二回目の織田の歓声が山に囲まれた戦場に木霊した。
「さっ!! 義元義元!!」
直盛を討ち取った俺はさっさと今川義元を討ち取ろうと本陣の位置まで戻ろうと……はっ!?殺気!!
とっさに振り返って銃を向ける。
「待ちなさい!! 味方よ味方!!」
「……JK?」
振り返ったところにいたのは女子高生。もちろんセーラー服を着ているわけではない。身軽な和服にハチマキ。恰好自体はこの時代そのもの。違う点とすれば髪がこの時代では珍しく茶髪だってとこくらい。 でもなんていうか顔立ちが現代味があるっていうか……よくわかんないけどそんな感じがする。
「何よいきなり!! 全身ジロジロと!!」
「おっと失礼。お嬢さんなんでこんな所にいるの? ここは危ないよ?」
「なめないで!! それより今の戦闘、見てたわ。その銃ちょっと気になるの、見せてくれない?」
「え? まあいいけど」
若干警戒しながら銃を渡す。JKは銃のからくり部分をジロジロと観察すると俺に銃を返す。
「やっぱり……」
「ん?」
「あなた、私と同じでしょ?」
「どゆこと?」
「だから!! あなた未来人でしょ!! この時代の人がそんな精密なからくり作れるはずないもの。そもそもそのからくりの仕組みすらわかっている人いないんじゃない?」
未来人。その単語に嬉しいような、意外なような、意外じゃないような、そんな複雑な感情に襲われる。何となくそんな気がしてたんだ、この子の顔を見た時から。
「ね! そうなんでしょ!!」
認めるか、否定するか。まあ、いっか。
「そうだよ。俺は未来人だ」
「やっぱり!! よかった~。帰れなくて困ってたのよね!! 手がかりが増えたわ!!」
ん?
「帰る?」
「ええ、そうよ!! 私はあの時代に帰るのよ!!」
そうか、この子は”転生”じゃないんだ。きっと何か、タイムマシーン的なやつで来たんだろう。それが故障か何かして帰れない、と。だんだんわかってきたぞ。っていうかこの子何時代から来たんだろう?
「君は何年から来たの?」
「私? ああそっか!! 私より後の時代から来た可能性もあるものね!! 私は2199年から来たの!! あなたは?」
「俺は2023年から来た」
「え? 嘘!! 2023年なんてタイムバック技術どころか、光速すら超えれてない時代でしょ!! 私をだませるなんて思わないことね!!」
なんだって? 光速を超えた? それは無理だって何かで証明されてるんじゃなかった?
「で、ほんとは何年から来たの?」
俺の言葉を嘘だと断定しさらに問い詰めてくるJK。そこに3人目の声が割り込む。
「ま、待ってけれ~、ユナ~!!」
「あっ!! 藤吉郎さま!!」
へばった猿。
「おっ!! 大助殿、お久しゅうございます」
「おう、藤吉郎。最近頑張ってるみたいじゃないか」
「へえ。私も早く出世したいですからねえ」
「そうか、頑張れよ」
「はい、大助殿も」
「おう」
「あ、あの……」
俺と猿の軽い感じの会話を耳にしたユナと呼ばれたJKが話に入る。
「え、えっと大助殿と藤吉郎さまはどのようなご関係で?」
「んー? 同僚かな? 同じ信長家臣団の。位は俺の方が上だけど」
「そうだぞユナ!! ちゃんと大助殿にも様をつけろ」
「あ、はい。申し訳ございません」
「まあ別にいいけど」
「あの、えっと、だ、大助様?」
「今は戦の最中だし、雑談はこのくらいにしておこう。あ、ユナ。俺に何か話があるなら今度ここにきてよ」
そう言って俺の屋敷の住所を教える。
「ん? 何かユナに用が?」
「いや、ユナの方があるみたいだ。さ! 話は終わり!!」
俺はそう言うと二人を置いて義元本陣へ走り出した。
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