第65話 元康たちの桶狭間
「時は来た。今こそ尾張の織田を倒し、私たちが京へ入る、その時が!!」
「「おおおぉぉぉ!!」」
士気は十分。兵力も武器も兵糧も何一つ不安要素などない。おそらく安芸の毛利、越後の上杉をも凌ぐ日の本一の軍がここにいるのだと誰も信じて疑わなかった。もちろん、この松平元康も。
「ついにこの時が来ましたね。大膳殿」
隣にいる男、千代松の父親・坂井大膳を見てそう言う。
「ええ、やっと、やっとだ!! この時を待ち望んでいた」
「はい。織田を滅ぼして千代松をこっちに引き込む。それが今回の僕たちの目標です」
馬に乗った義元が采配を振る。
「行くぞ!! 今回こそ織田を滅ぼす!! 出陣!!」
「「オオオオォォォ!!」」
「元康は大高城に兵糧を届けた後、織田の丸根、鷲津の砦を落とせ。私の率いる本隊より先に尾張に入ることになる。心してかかれ」
「はっ!!」
「頼りにしてるぞ? 元康」
「はっ!! お任せください。義元様」
「では行ってまいれ!!」
「はっ!!」
松平元康は朝比奈泰朝、酒井忠次、本多忠勝ら三河の部隊を率いて大高城に入城する。
「僕たちは丸根、鷲津を攻めるぞ!!」
「御意!!」
元康は義元の命令に従い、織田の砦を落としていく。
「丸根砦の城主、佐久間重盛を討ち取ったぞ!!」
「「オオオオォォォ!!!!」」
「次は鷲津だっ!!」
元康は破竹の勢いで勝ち進む。鷲津もあっという間に落とし、大高城に帰還した。
元康が大高城で義元の次の命令を待っていると、大慌ての伝令兵が飛び込んできた。
「伝令!! 伝令です!! 松平元康殿は?」
「ここだ。何事か」
「よっ、義元様が桶狭間にて休息中に織田信長の軍勢3000が奇襲を仕掛けてきました!! 至急救援を!!」
「ッ!? 了解した。忠次、忠勝!! 行くぞ!!」
「御意!!」
「了解した!!」
伝令兵のあの慌てよう。かなり義元様が危ないということだろう。果たして間に合うか。とにかく急がなければ。
元康が急いで桶狭間に向かって走っている途中、道のりの半分ほどまで来た頃、反対側、つまり桶狭間の方向から部隊が来た。
「元康殿!!」
「朝比奈親徳殿!! 戦況は?」
「……義元様が、討たれた」
「な!?」
討たれた? 信長殿に? あの義元様が?
「そ、それは本当なのか? 勘違いということは?」
「ない。義元様は銃を使う織田の将との一騎打ちの最中に別のやつに背中を刺されて、お亡くなりになった」
銃を使う将。思い浮かぶのは二人。橋本一巴と坂井千代松。一巴先生は僕や千代松に銃を教えた師匠だし、千代松もあの年で頭一つ抜けた実力を持ってた。どっちでも不思議はないけど義元様は剣聖も認める実力者だ。その義元様と一騎打ちって言って遜色ないように見えるのは一巴先生の方かな。
いや、そんなことはどうでもいい。大事なのは義元様が討たれたってことだ。早く撤退しないと。
「すぐに大高城に戻り、全軍で三河まで引く!! 全軍引き返せ!!」
そう冷静に判断し号令を下す。
「ま、待ってくれ元康殿!! 千代松が、千代松がすぐそこにいるんだ!!」
元康を止めたのは坂井大膳。
「銃を使う将の話ですか? それが千代松とは限らないでしょう?」
「いや、ほぼ間違いないだろう。今織田軍で銃を使う将は千代松くらいだ」
「一巴先生の可能性は?」
「橋本一巴は一昨年の浮野の戦いで戦死している」
え?そうなの?
そういえば大膳はいつも尾張の情勢を探っていた。信憑性はある。
「それに千代松だったとしても今行ってもどうしようもないじゃないですか。この戦は僕たちの負けだ」
「いや、今すぐ桶狭間に行って戦闘後で弱ってる織田軍と織田信長を討てば戦況は五分に戻せる。いやこっちの有利にすらなるだろう!!」
なるほど、確かに。その可能性はあるか。でも信長殿を討てなかったらこれからの戦いは犠牲を出すだけになる。挑戦する価値はあるかもしれないが、ここにいるのは僕を小さい時から支えてくれている三河武士たちだ。こいつらを失いたくない。
「いや、撤退する」
「そ、そんな……いや、儂は一人でも行くぞ!!」
「やめましょう。無茶ですよ」
「だがっ……!!」
「また機会はあります。今行っても織田軍に殺されるだけですよ」
「ッ!!」
「必ず機会は作ります。僕を信じてください」
「……わかった。我が儘を言ってしまい、申し訳ない」
「いえ、いいんです」
話はまとまった。元康たちは大高城に戻り、近辺の今川軍を連れて三河へ撤退する。
帰る道中、岡崎城に立ち寄った。元康が幼少期を過ごした地。松平氏が代々継いできた地だ。
そして今川軍が岡崎城を出て、駿府に向かう時、元康は思った。ここから離れたくないと。
「忠次」
「ハッ」
「僕はここに残りたい」
「そうですね。私どもも元康さまにここを治めて欲しいです。それが先代の意志ですから」
忠次は一瞬、驚いた顔をしたがすぐにそう答えた。
「それは、今川から独立するということだけど大丈夫かな」
「我らが元康さまをお守り致します」
今度ははっきりと答える忠次。
その答えに元康の覚悟は決まった。
「泰朝殿」
「元康殿、どうなされた? もう出発ですが」
「僕はここに残る」
「な!? それはどういうことですか?」
「僕はここで松平家を再興させる」
「そ、それは恩ある今川家を裏切ると?」
「ああ」
「ふ、ふざけるなァ!! 義元様が討たれた途端、受けた大恩も忘れ裏切ると申すか!!」
体を震わせ、激高する泰朝。
「今この場で殺してやる!!」
槍に手をかけ、元康に向ける。その間に忠次と忠勝が割って入る。
「な、貴様らまで!!」
「勘違いするな。我らはもともと今川の家臣ではない。松平の家臣だ」
「元康さまに手をかけようというなら俺たちが許さねえ!!」
「ッ!! き、貴様ら!! 後悔するぞ。今に氏真さまと私がお前らを滅ぼしてやる!!」
「やれるもんならやってみろ!! 俺がいる限り元康さまには傷一つつけさせん!!」
泰朝の怒りの声に怒鳴り返す忠勝。それにたじろぐ泰朝。
「行くぞッ、お前ら!! 駿府に帰る!!」
泰朝はそう言うと家臣と今川軍を連れて去って行った。
「大丈夫かな? 泰朝殿、めっちゃ強いけど」
「何とかなるでしょう。それより、元康さま。独立、おめでとうございます」
「え、ああ。そっか。独立したんだ」
「ほら、家臣たちに向かって何かお願いします」
「え? 急に言われても……み、皆、頼りない主人ですが、これからよろしくお願いします!!」
静まり返る家臣たち。元康が失敗したと思い焦り始める。
「おおおぉぉぉ!!」
忠勝がこぶしを突き上げて、叫ぶ。それにつられて他の家臣たちも叫ぶ。そして最終的には、
「「元康さま、バンザーイ!! 独立バンザーイ!!」」
こうして松平元康は今川から独立し、1人の大名としての人生を歩み始める。
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これにて第一部完結です。少年期~桶狭間の戦いまで、楽しんでいただけたでしょうか?
転生して、信長と出会い、忍者になって、稲生、浮野、桶狭間とすでに波乱の人生を歩んでいる大助ですが、第二部では信長の天下取りの道のりを歩んでいくことになります。乞うご期待です。
この作品では主人公が本来存在しない人物のため、どうしても本来の歴史と差異ができてしまいます。あくまでも歴史をモデルにしている作品、くらいの感覚で楽しんでいただけると幸いです。
少し間をおいてから第二部を書き始めます。お楽しみに。
待ってる間、こっち読んでみてね!!
蒼狼のミコト
https://kakuyomu.jp/works/16817330665529510349
最後にフォロワー721人、ハート2300、PV90000、★349本当にありがとうございます!!
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