第42話 2番隊隊長と4番隊隊長

 今回から少し、千代松以外の人物に焦点を当てたお話になります。まだ詳しく触れていないキャラクターのお話だったり、新キャラのお話だったりします。ぜひ楽しんでください!

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「なんであんな小賢しいことばかりする奴を隊長にしたんですか!?!?殿!!」

「なんであんな脳筋馬鹿が2番隊の隊長なんですか!?!?主様!!」

「うーん……」


 2番隊隊長・黒沢大吾と新設の4番隊隊長・森川隆康の言い争い。会議などで顔をあわせる度にこれだ。どうしてこうなってしまったんだろう……。


 稲生の戦いの恩賞で2万石の土地の増加。それに伴い兵士の数も4,500人増加した。今までの3隊だけでは満足に運用できなさそうだったので隊を1つ増やすことにした。

 そんな時に丁度よく俺を家臣にしてくれと言ってきたのが森川隆康もりかわたかやすだった。元、林美作守の家臣で槍の名手。軍略もそこそこ。なんでも美作守を討つときの俺を見て感動したらしい。それで道端で土下座してきたので長い面接の末、家臣にしてやったのだ。隆康はとても喜んでたし、俺もいいタイミングで丁度良い奴が来てくれたので満足いく結果だったのだが、前述の問題が起きた。

 


 黒沢大吾と森川隆康の不仲。以前から因縁があったとかそういうわけではない。ただ、ウマが合わない。たしかに大吾は脳筋な所もあるし、隆康も税米の徴収で小賢しいことをしたこともあった。でもお互いに迷惑かけているわけじゃないのになんでこうなるんだろうか。ここで最初の言い争いに戻る。


「なんであんな小賢しいことばかりする奴を隊長にしたんですか!?!?殿!!」

「なんであんな脳筋馬鹿が2番隊の隊長なんですか!?!?主様!!」

「うーん……」

「誰が小賢しいって?」

「てめぇこそ誰が脳筋だ?」


 大吾が30センチほど小さい隆康に圧をかけながらそう言う。


「そういうところですよ」

「あぁ!?」

「はーい、ストップストップ」


 一触即発の二人の間に入り、一度引き離す。


「で、なんでこんなことになってんの?」

「「それはこいつが……!!」」

「お前らさー、そんなのを聞きたいんじゃねぇよ。彦三郎から聞いたけどなんか二人の間で問題があったわけじゃないんだろ?仲良くしろとまでは言わないけどせめて普通に会話くらいしようぜ?」


 なんで15歳の俺が大人二人の仲裁をしているのだろうか。

 とりあえずこの時はこれで解決したが、本当の問題はこの後起こるのだ。



 寒い冬の日、事件は起きた。朝まだ空が明るくなってない頃に部屋に彦三郎が転がり込んできた。


「我が主!!大吾と隆康殿が戦を!!」

「はぁ!?戦?」

「はい!ここから2キロほど離れたところで互いに60人ほどで戦をしているとのこと」

「な、なんでそんなことに!?」

「さあ、それはわかりませんがとにかく急いでください!!」

「まったく……面倒ごと起こしやがって!!………天弥!ついて来い!彦三郎!!兵をできる範囲で集めて急いで追って来い!!」

「「ハッ!!」」


 俺は急いで馬に乗り、戦場に向かう。



 戦場では本格的な戦闘が起きていた。当然死者も出ている。

 俺は銃を空に撃って、こっちを注目させる。


「坂井千代松の名のもとに命じる!!戦闘やめッ!!!!大吾!!隆康!!俺のもとへ来い!!」


 戦っていた兵士たちは一斉にこっちを向き、一時的に戦闘が止まる。少し奥に大男と特徴的な鎧をつけた男が向かい合っている。俺はそこに向けて馬を歩かせる。俺の通る道が開いていく。


「……殿」

「……主様」

「お前ら、何してんだ?内乱はご法度だ」

「…………」

「存じております」

「なんで、こんなことになった?」

「……我らの家臣同士がちょっとしたいさかいから斬りあいになってしまって、それで応援が呼ばれていって、この有様です」

「この有様っていう割にはノリノリでやりあっているように見えるが?」

「う、あ、まぁその、いい機会だと……」

「……左に同じ」

「アホか!!いさかいが起きたら止めるのもお前らの役目だろうが!!」

「「……」」

「さっきも言った通り、内乱はご法度だ。この場で処分する」

「「……」」


 二人は怯えと無念さ、そして後悔の表情を浮かべる。(多分だけどね)


「と、本来はそうするところだが、お前らは俺に必要だ。だから殺しはしない」

「えっ!?」

「主様?」

「お前らはまず部隊を縮小。隊長職をしばらく罷免。さらに2月の謹慎だ。いいな?」

「も、もちろんです!」

「か、寛大な処置をありがとうございます!」

「次やったら殺すからな?」

「は、はい!!」

「も、もう二度といたしません!」

「ちなみに信長様にバレたら打ち首だから。気をつけろよ。ここにいる者たちも今日のことは他言無用!!いいな?」

 そう言うと一人の兵士が声を荒げる。

「ま、待ってください!死者も出ているんですよ?それを握りつぶすんですか?」

「ああ、わかってる。この”ケンカ”の償いを誰かしなくてはいけない。大吾、隆康この”ケンカ”の発端の奴をここに呼び出せ!!」

「え、でも……」

「いいから連れて来い」

「は、ハハッ」


 俺の前に3人の兵士が連れてこられる。鎧も来ておらず、来ている服はところどころに血がついている。


「発端はこの3人か?」

「いえ、最初は3対3でした。そのうち3人はもう死にました」

「そうか。お前らのしたことは許されることではない。この場で処刑する」

「ッ!」


 殺すと宣言した途端、その中の1人が強く俺をにらむ。


「……すまない。この場で責任を取るものが必要なんだ」


 そう小声で呟き、即座にリボルバーの引き金を3回引く。放たれた弾丸は3人の脳天をぶち抜き、3人を痛みなく絶命させる。

 そして3人の死体に手を合わせ、冥福を祈った。

 こうして2番隊と4番隊の”ケンカ”は終結した。

 そう。これは断じて”戦”ではなく”ケンカ”である。


 その後、大吾と隆康は仲良く、とまではいかなくとも普通に会話くらいはできる仲になった。ウマが合わないのは変わらないが、軽い言い合いくらい。戦に比べれば可愛いものである。

(この二人の仲を取り持つのに彦三郎のした苦労を千代松は知らない……)




 


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