第38話 演説と初陣
清洲城・大門前。俺は自軍800を少し高い位置から見下ろし、ふぅと一度深呼吸する。800と言えば俺が前世で勤めていた会社の総社員数より多い。その人数がこの軍の大将たる俺の言葉を待っている。緊張もするものだ。
「あ、あー」
マイクなんて当然ない。ただの喉の調子のテストだ。
「えっと、俺がこの軍の大将・坂井千代松だ。ここにいる多くの者は父・坂井大膳の配下だった者たちだと思う。そしてその者たちの多くが坂井大膳の息子の俺がその父を倒した、仇敵とも言える信長様に従っていることに不思議に思っていると思う。複雑な思いもあるだろう」
父の配下だった皆の疑問を今解く。それをしないとこの軍はまとまらない。
「すべては父を長年の間支えてくれたそなたたちを失わないためだ!父を長年支えてくれていた皆にはこれからは俺に仕えてもらいたい!これは父の意志でもある!」
これは嘘だ。父からは何も聞いていない。でも父に従っていたならこの一言は効くはずだ。
「俺は信長様と話をした。夢の話だ!信長様は何を目指すと言ったと思う?」
「「……」」
「天下だ!!信長様はこの日本のすべてを手中に治め、この乱世を力づくで終わらせると言ってのけた!!」
兵士たちの反応は一言で言うと「は?」って感じだ。当然の反応だな。
「俺はこれを聞いて混乱と、それと同時に納得もした。戦がなければ父上が死ぬことも無かった。戦を無くせばこれからこんな思いをする人もいなくなるだろうと、そう思った!!」
「戦のない平和な世の中を作るというこの男について行きたいと思った。一緒に天下を統一し、乱世を終わらせる!!それが俺が信長様について行く理由だ!!」
「もちろん、果てしなく、困難な道のりだろう。でもきっと、お前らがいればできる。長年父を支えた歴戦の強者のお前たちの力が必要だ!!だから……俺に力を、貸してくれ!!大いなる夢のために!!」
「「おおおぉぉぉ!!!!」」
兵士たちがこぶしを突き上げ、叫ぶ。演説は大成功のようだ。
「我が主、お見事です」
「ああ、何とかなったよ」
そこに信長からの伝令の使者。出陣の合図。
再び台の上に立ち、兵を見下ろす。そして命令を下す。
「全軍、出陣!!」
「「「おおおぉぉぉ!!!!」」」
騎馬隊を先頭に門を飛び出す。
初陣が、始まった。
なれない兜をかぶり、馬の上で俺は指示を出す。
「右に行った柴田軍には手を出すな!!俺たちの相手は左の林兄弟の軍だ!!」
俺の考えた作戦。それは大小に分けた軍の小さい方、つまり俺たちが林兄弟の軍を足止めしている間に信長率いる大きい方の軍が強敵の柴田権六を退かせ、その後すぐにこっちの援軍に来て林兄弟を討つ。というものだ。
この作戦のポイントは二個。一個目は信長がどれだけ早く柴田権六を倒せるか。二個目は俺たちが信長の援軍が来るまで耐えられるかだ。1個目の方は信長次第だが、兵力で言えば1500人ほどのほぼ同数。敵将は猛将の柴田権六。それに対しこちら側は信長の他に一益、利家、佐々孫介らの優秀な武将がそろっている。そう時間はかからないと信じたい。
そんなことを考えながらもこちらも戦は進む。
「彦三郎!!弓隊に始めさせろ!!」
「了解!!弓隊構えッ!!……放てッ!!」
矢が敵軍に向かい放たれる低く。それとほぼ同時に敵軍も矢を放ってきた。
「身を低くしろー!!」
矢が飛び交う戦場。続いて俺は二番隊隊長に指示を飛ばす。
「大吾!!敵の弓兵を薙ぎ払え!!」
「おうよ!!任せとけ!!オラァァ!!」
大吾が大きな矛を振るい、敵の前衛を吹き飛ばす。
「今だ!!突っ込めーーー!!」
「「おおおォォォ!!」」
戦場には両軍の兵士が入り混じり、乱戦状態になった。
その中でひと際目立つ存在が何人かいる。
一人目は大吾。その巨体で振るう矛は一撃で5,6人の敵兵を吹き飛ばす威力を持つ。その目立った脅威に対し多くの敵兵が大吾に向かっていく。
二人目は丹羽長秀。信長の命でこちら側の軍に入った祈の兄はその冷静な戦力分析と状況把握能力で戦場を自在に操る。見事なものだ。
三人目は敵の将らしき人。兵を鼓舞しながらも己も先頭に立ち戦うという器用な芸当をこなしている。厄介だな。まずはあいつから仕留めるか。
「常道!ここ任せていいか?俺はあの将を討ちに行く!!」
「お任せを」
「頼むぞ!!」
俺は三番隊隊長の蓮沼常道にこの場の指揮を任せ、馬で敵将の方へ走る。敵将の周辺を守る兵を斬り殺し、射線が通ったところでリボルバーの引き金を二回、強く引く。
パァァーーン!!
「っ!?!?」
「殿!!危ない!!」
慌てて誰かが弾丸と敵将の間に入り敵将は事なきを得る。
「っ!?爺!!」
「殿……儂は先に逝かせてもらいます……できれば殿が結婚するところが見たかったのですが……」
「っ、爺……」
あっちでは家来が殿を守る感動的なシーンが発生しているが俺は再びリボルバーで敵将を狙う。これは戦争だからな。
パァァーーン!!
「殿ぉぉ!!」
さっきかばった爺がまたかばった。
じゃあ、もう一発。
「この外道がぁぁ!!!!」
「おわっ!?」
誰かが俺に槍を振るった。ギリギリ避けたがリボルバーを落としてしまった。俺は刀を抜き放ち槍を振るった兵士の方を見る。
「外道?」
「ああ!貴様は外道だ!!どんな考えであの場で何度も銃を撃ちこめる!?」
「いや、あれ敵将だろ?戦で敵将を撃つのは当然のことだと思うが……」
「貴様ぁぁ!!貴様に武士の心得はないのか!!武士なら正々堂々一騎打ちだろうが!!」
知るかよそんなもん。こちとら令和を生きてた現代人なんだよ!!こちとら愛銃との感動の対面中に背中にショットガン撃ちこまれてんだよ!!
「もうよい、五郎。そいつは俺様が殺す」
「と、殿」
敵将が涙をぬぐい、俺を強くにらむ。
「てめぇ、坂井大膳の息子……千代松、だったか?てめぇは俺様が殺す!!すぐにてめぇのパパと同じところに送ってやるよぉ!!」
「ふーん、頑張ってね。ちなみに一騎打ち?」
「ああ!そうだ!五郎も手を出すなよ!!」
「まあたまにはそういうのもいっか。こっちも手を出さないでね」
誰にも邪魔されず敵将を討てる。好都合だ。
「お前ら!!よく見ておけよ!!お前らの新たな主が敵将の首を取る所!!」
「「おおおぉぉぉ!!」」
こういうのって名乗るのが礼儀だったか?
「行くぞ!!俺は”特別上忍”坂井千代松!!」
「我こそは織田家重臣、林美作守通具!!」
美作守!こいつが!!ラッキーだ。敵の指揮官の1人じゃん。新しい主人のカッコいいところを配下のみんなに見せるための餌食になって貰おう。
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