第22話 大忍術体育祭・前編
「今日こそは勝つぜ?丹波」
「やって見ろよ、千代松。お前の弾丸なんてひょひょいと避けてやるからよ」
「それはどうかな?とっとと始めようぜ?」
「お?今日はずいぶんと自信ありそうだな。まあ、いい。じゃあ、やるか」
そう言い、丹波が棒手裏剣を構える。俺もリボルバーに手をかけた。
審判はいない。もっとも、開始も決着も俺達ならわかるから必要ないが。
俺と丹波の視線が交錯する。その瞬間、丹波が消える。だが3年間こいつと戦った俺にはわかる。今のは消えたのではなく、早く動いて俺の死角に入っただけだ。この場合は左側の大木か右側の岩陰だろう。どっちだ?行動の予測は出来ても目で追えない。早すぎんだろあいつ! あ、上から来る。
「おっと」
「わお、、まじかよ!?」
俺の真上から迫ってきた丹波を最小限の動きで回避する。そして丹波が降り立つと思われる場所に素早く火遁を放つ。だが完全に不意を突いたと思われた俺の火遁は軽く避けられた。距離をとり、再び構える。
今度は丹波は身を低くしてまっすぐ全速力でこっちに来る。俺はそれを大きく後ろに下がりながら銃撃した。
パァァーーン!!
その弾丸はさも当然のように避けられた。
「千代松、撃ったな!!俺の勝ちだ!!」
「それはどうかな?」
素早くハンマーを引く。そして下がっていた体を急停止させ今度は前方に大きく進む。丹波の目が一瞬大きく見開かれるが、すぐに余裕の笑みに変わる。勝ちを確信したのだろう。そして棒手裏剣を投げ、背中の忍者刀に手をかける。俺は棒手裏剣を避け、銃を丹波に向ける。丹波はというと「それ弾入ってないだろ?」という顔をしている。だが何か感じたのか剣で防ごうとする。それと同時に引き金を引く。
パァァーーン!!
キィィィーン!!
俺の放った弾丸が丹波の忍者刀をへし折る。俺は前進しながら再びハンマーを引き、狙いを定める。丹波の表情は「まさか!?」って感じ。そのまさかだよ!引き金を引き絞る。
パァァーーン!!
「連射できるなんて聞いてねぇぞ・・・」
ペンキで顔を赤くした丹波が文句を言う。
「負け惜しみですかー?」
「てめぇ…まあいっか。ほんとに連射できるようになったんだな。何発いけんの?」
「6発。これ以上は弾薬のサイズ変えたりしないといけないし、そうすると威力も落ちるからこんくらいがいいと思う」
S&W M686やコルト パイソンなんかの装弾数は6発だったし、現代の日本の警察のリボルバーやS&W M500に至っては5発だった。それ以上のリボルバーもないわけではないが、あまり見かけなかった。リボルバーの適正としては5、6発なのだろう。
「ふーん。俺は銃に関してはよくわかんねぇが連射できるんだったら持ってもいいかもな~」
「いいんじゃね?暗殺とかもリスク下がるだろうし」
「確かにな~。なんかいい銃あったら教えてくれよ」
「おう、任せとけ。銃で語れば俺に並ぶ奴なんてそうそういないぜ」
「あ、いや、やっぱ今日はいいや。父上に修行つけてもらう予定だった」
なぜか丹波はそそくさと帰っていく。
「明日はいつもより早いからなー!忘れんじゃねーぞ!じゃ!」
明日?なんで早いんだっけ?
「明日ってなんかあったっけー!!」
すでに20メートルほど離れた丹波に大声で聞き返す。
「お前忘れたのか!?明日はあれだよ!!」
「あれ?」
「お前ほんとに忘れたのか??あれだよ!”大忍術体育祭”!!」
ああ!!すっかり忘れてた!!
この忍者学校には年に一度、3月の卒業、進級の直前に大忍術体育祭というものがある。北の里の忍者学校と合同で行い、国外からも多くの見物人が訪れる一大イベントだ。卒業生はここで活躍し、見に来ていた人に気に入られるとそこの専属忍者になったりもする。就活も兼ねているような感じ。今年9年生の橘先輩たちや今年6年で卒業する俺には最後の大舞台というわけだ。俺は尾張に戻るからあんま関係ないんだけどね。
翌日、いつもより30分ほど学校に早く集まり会場の設立をした。すでに客もちらほらと見えている。丹波によると朝から丹波の父の里長の所にあいさつにたくさんの人が来て大変だったそうだ。
ちなみに競技は分身、水蜘蛛、手裏剣なんかがあるがそんなものは余興に過ぎない。この大会のメインイベントは後半戦の4年生以上全員参加の忍術トーナメントだ。優勝者は特別上忍という称号を貰える。特別上忍とは族長筋の服部、丹波、百地以外から特例で上忍になったものの称号で、もちろん里長になれるわけではないが一代に限り、上忍という忍者にとって最高の称号を名乗れるものである。これはすべての忍者にとっての栄誉である。ちなみに去年の優勝者は服部から、一昨年は百地から出ており、上忍の家系から優勝者が出ることが多いらしい。
前半戦、俺が出場するのは水蜘蛛の競争だ。30メートルほどの池を水蜘蛛を使って一番早く渡り切れば勝ちという単純な勝負である。こっちの里と南の里で2人ずつ走っていき、先についた方の人数が多い里の勝ちとなる。
「頑張ろうね、ちーくん」
そうもみじが声をかけてくる。
「ああ。あと何度も言ってるがそのちーくんて呼び方やめてくれ」
「えー?いいじゃん別に。可愛いし」
「よくねえよ!あだ名を考えてくれるのは嬉しいがちーくんは俺には可愛すぎるわ!!」
「あ、次うちの番だ。じゃ、行ってくるね!」
そう話を打ち切り、スタート地点に駆け出していく。文句を言うのは諦め素直に背中に声援を送ることにする。
「頑張れよ!」
「もちろんっ!絶対勝つわ!」
もみじは振り返りにっと笑いこっちにグッドマークを見せつけそう言った。
1分後。バッチャーン!!という水の音とともに女の子らしくもない悲鳴が聞こえ、そのさらにその1分後頭に水草をつけて顔を赤くしているもみじが戻ってきた。美人が台無しを絵にかいたような状況だ。
「ああーーー!!あれだけ言ったのにーーーー!!」
「お前いつもは優秀なのになんでこういう時は」
とりあえず頭についた水草をとってやる。
「ほんとに、なんでなんだろうね…」
しょぼくれモードが始まってしまった。こうなるとしばらく戻らないのだ。
「じゃ、じゃあ俺はもうそろそろ出番だから行ってくるわ」
「……ちーくんも落ちちゃえ」
「ひでぇなおい」
「この大人の忍者に冷たい目で見られる感覚をちーくんにも味わわせたい」
「まじでひでぇ」
そんな軽い言い合いをしてからスタート地点に向かう。
「よお、俺のこと覚えてるか?」
「覚えてない」
俺の対戦相手らしい男が話しかけてきた。どこかで見たような顔と声だ。だが決して覚えてはいない。
「嘘つけ?覚えてんだろ」
「……」
「な、なあ。前のこと根に持ってんのか?」
「……」
「あ、あん時のこ俺も悪かったと思ってる」
「……」
「あん時は自分も負けて弟も変な銃持った奴に負けて気が立ってたんだ。だから、すまなかった」
こいつが、謝った!?!?
「お、お前……」
「ん?」
「成長したな……!!」
「んだとてめぇ!お前は久々に会う祖父母か何かか!!」
「あ、あと根に持ってるわけじゃない。お前みたいなのはなるべくかかわらないほうがいいって俺の今までの人生経験が言ってたんだ」
「マジで失礼な奴だな!!っていうかお前の人生経験てお前まだ13とか14だろ!?俺よりも短いじゃねぇか!」
前世もあわせたらお前の2,3倍あるんだけどな。
「それでは水蜘蛛を装着してください」
会話しているとそう号令がかかった。
「今日は負けないぜ?ええと……?」
「坂井千代松だ。俺もせいぜい頑張ることにする」
「なんだ?自信ねぇのか、千代松?」
「そうだな、なんで相手が上忍なんだよ」
「前の時は「俺はこのまま撃ってもいいんだぜ?上忍」とか低めな声で脅してきたのにえらい違いだな」
「お前やっぱ根に持ってる?」
「そんなことねえよ?それにリベンジなら午後の大会でやるしな」
「それもそうか」
「それでは、用意……はじめっ!!」
号令があり俺と保正が同時に水に足を踏み出す。
そして二歩目を踏み出した、その時には保正はすでにゴールにたどり着いていた。
「は?」
驚いた。そしてそれがだめだった。
バッチャーン!!
俺は頭から池に落ちた。
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本日で投稿開始から1か月になりました。
現時点で小説家になろうでPV28,000・520Pt
カクヨムでPV20500・フォロワー345人・ハート525
読んでくださった皆さん本当にありがとうございます!
これからもよろしくお願いいたします!!
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