第8話 ナニ、イッテる?

 *


 午前十時過ぎ。

 

 俺は家近くの自販機まで来ていた。

 特に用があったわけではなかったが、頭を冷やしたかったから。


「や、ヤバいな......」


 寝起きから興奮の連続。

 中学二年生男子にとってはあまりにも刺激的すぎる。

 相手がアンドロイドというのがギリギリの救いではあるが、正直それも関係ない気がしてきた。


「だって、めちゃめちゃエロかわいいし......」

「誰がエロかわいいのですか?」

「!」


 一人言に反応されてビックリして振り向くと、

「どうも、フミヒロ様」

 袮絵子がひょっこり立っていた。


「お、お前!家にいろって言ったじゃんか!」


「お前じゃありません。ネーコです。今どきいきなり女の子をオマエ呼ばわりする男子はモテませんよ?」


「う、うるさいな。いいからネーコは帰っててくれよ」


「なぜ嫌がるのですか?」


「いや、だって、ネーコといると人目につくし。目立ちたくないんだよ、不登校だから......」


「それなら学校に行けば済むハナシでは?」


「それは......!もういいや。じゃあネーコの好きにしろって」


「フミヒロ様」


「な、なんだよ?」


「登校したらヤラしてあげるといったらどうしますか?」


「はっ、はあ!?」


「だから登校したらヤラして...」


「いや二回言わなくていいから!!てゆーかいきなりなに言い出してんだ!?」


「ナニを、だす?」


「変な切り取り方すんな!」


「フフフ、恥ずかしがっちゃって。少年時代のフミヒロ様は本当に可愛いですね」


「か、からかうなよ!」


「フミヒロ様。では一緒に用を済ませて帰りましょう。私はフミヒロ様のためのアンドロイドですから」


「国のためじゃないのか?」


「もちろんそうですよ。でも、目的は国家のためであっても、私の主人はフミヒロ様ですから。それは過去に来ても変わりません」


 ネーコは優しく微笑んだ。

 俺は少しドキッとして、

「わ、わかったよ」

 チャリン、ガコンと、ジュースを一本購入した。


 それから自販機を後にして、家までの道のりを歩きながら、横目でネーコを見ていた。

 こうやって外で改めて見るとネーコは本当に可愛かった。

 なんというか、人間離れしているというか......アンドロイドなんだから当然だけど。

 

(このコと、ヤる?)


 唐突にさっきのネーコの言葉が蘇り、あらぬ想像をもわ~んと掻き立てられた。


 だけど、そもそもアンドロイドとそういう行為ができるのか?

 どうなっているんだろう......どうなっているっていうのは、その、構造?というか、仕上がり?というか......。


 待て。

 それ以前に、俺は本物の人間の女性の身体のこともよく知らないじゃないか。

 まずはそっちを先に知るべきじゃないのか?

 でもどうやって?彼女を作るにしても、不登校の俺は出会いがゼロだ。

 いや、仮に登校できたとしても、根暗で人見知りの俺に彼女なんてとてもじゃないができる気がしない。

 てゆーか、そんな不純な目的のために付き合うなんてヒドイだろ!  

 相手の女の子に失礼だ!

 

 そう考えていくと、アンドロイドのネーコが相手なら問題ない?

 倫理的にはどうなんだろ?


 あれ?

 なんだか話がよくわからなくなってきたぞ......?

 なにが問題なんだっけ......。


「フミヒロ様。どうしたんですか?もう家に着きましたよ?」

「!!」


 思考の渦に呑み込まれていた俺は、ネーコに声をかけられてハッとした。

 すでに家の門前まで着いている。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。うん」


「またエロい妄想でもしていたんですか?」

「ち、違うし!」


「なら、妄想じゃなく、現実にしますか?」

「えっ?」


「現実で、シますか?」

「な、ななななに言ってるんだー!」


「ナニ、イッテる?」

「もうやめろぉ!!」


 ダメだ。

 このままでは、やがて俺の理性が崩壊する......。

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