『異世界転生桃太郎 オレに侯爵令嬢なんて無理だから婚約破棄上等! それより鬼退治だ! 気ままにダンジョンでお宝探しライフ』
柊遊馬
第1話、桃太郎、異世界で目覚める
「――わからないようだからもう一度言ってやる! ミリッシュ・ドゥラスノ! 私、レグルシ・レッジェンダは、お前との婚約をここに破棄する!」
金髪碧眼の端正な顔立ちの王子が、オレに向かってそう指さした。
あ?
ひどく洋風な内装だった。一瞬、足元がぐらついた気がした。周りには如何にもな洋装を纏った外国人ばかりがいて、混乱する。
え、何これ。どこぞのセレブなパーティーか何か? オレは何でここにいる?
「聞いているのかミリッシュ! それとも婚約を破棄されてショックでも受けたのか? だとしたら自業自得だ、愚か者め!」
ねぐるし、だか、レグルシと名乗った王子が、高圧的に言ってくる。え、何でオレ、お前に怒鳴られなきゃいけないの? えーと、ちょっと待て、何となくわかってきたような……。
思わずオレは額に手を当てた。すると何故か周りから嘲笑するような声が聞こえた。何で、笑われた? あー、ショックを受けたようにも見えたってか?
まあ待て。えーと、まず目の前の男は――レグルシ・レッジェンダ。レッジェンダ王国の王子様だ。……ふむふむ、それで婚約破棄をオレに突きつけた。じゃあ、オレは誰だ? オレは男――うおっ!?
胸がある! いや、人間なんだから胸はあるが、そうじゃなくて、女の、おっきなお胸さんがドレスに覆われて、いや胸の谷間見えているんですけど!
いやー、胸で足下見えないとか、久しぶりだわ。前々世の、『桃太郎だった頃』以来だわ。
なるほどなるほど、オレはどうやら転生したらしい。前々世は女、前世は男。んで、今回、女――ミリッシュ・ドゥラスノ侯爵令嬢に転生したっつーことだな!
理解した。記憶もすっきりだ。
「――お前は、ナリンダ令嬢に対して、侯爵令嬢の立場を活用して卑劣な嫌がらせをし、あまつさえ、賊を雇って襲わせようとした! そんな卑怯な女が、私の婚約者だったとは吐き気がする! 恥を知れっ!」
レグルシ王子は声を荒らげる。精悍な王子の胸には、件のナリンダがいる。金髪にエメラルド色の瞳が美しい娘だが、こいつは猫被りで、成り上がるために手段を選ばない卑怯者だ。オレが前世で死ぬほど嫌いだった、ダブルスタンダードを地で行く女だ。
ある事ない事を王子に吹き込んで、自分が王子が結ばれようとしているのだ。わかってんだぞ、泥棒猫め。
「ナリンダ、もう安心してくれ。私がお前を守る。私は、美しいお前こそ妃に相応しいと思っている。身も心も潔白なお前こそ、私が愛を注ぐに足る素晴らしい女性だ――!」
「恥を知るのはお前だーっ!」
オレは怒鳴った。ビクリとするレグルシとナリンダ。二人はオレのこんな大声を聞いたことがなかったんだろう。んなことはどうでもいい。このクソ王子がぁーっ!
歩み寄った俺の拳が、王子を殴り飛ばしてした。パーンじゃない、ドカッ、だ。精々、頬を叩かれる程度かと思ったか? 残念、拳骨だぞ、浮気野郎!
「要するに、そこの恥知らずな娘に誑かされて、乗り換えただけだろうが! 恥を知れよ! 女を乗り換えるために、オレに濡れ衣を着せやがって。婚約破棄と乗り換えなんて、別問題じゃねーか。レッジェンダの名に自ら泥を塗りやがって。そんな糞王子なんざー、こっちから願い下げだ! バーカ!」
ありったけ罵ってやった。周りの貴族らはもちろん、殴られ尻もちついている王子も呆然としている。
「殿下をお守りしろ!」
あ、やべ。騎士やら警備の兵が血相変えて飛んできた。さすがに王子を殴ったら、すっ飛んでくるか。
「ドゥラスノ令嬢を捕まえろーっ!」
おおっ――
ドォン、と突然、扉が蹴破られる音がした。扉が吹っ飛び、あまりの轟音に貴族たちも兵もそちらに注意をとられる。
『グォォォォオッ!』
扉に頭をぶつけながら、半裸の巨漢が金棒を手に入ってきた。
――え?
角を生やし、2メートルから3メートルの間の大男たち――大鬼がゾロゾロと入ってきたのだ。
「オーガだ!」
誰かが叫び、貴族たちが慌てて逃げ出す。警備の兵が武器を構えるが、大鬼――オーガらが金棒や斧を振り回し、一撃で人間をぶっ飛ばした。鎧をまとった兵すら、たやすく分断するそのパワー。その巨体に恥じない剛腕である。
「なんでオーガがっ!」
「大変だ! 城が魔物に襲われているぞ!」
外のテラスへ逃げた者が、その惨状を知らせる。どうやらオーガが攻めてきたらしい。
貴族やその子女らは、逃げ場を求めて右往左往している。二つある出入り口の両方から、オーガが現れたせいだ。。城の警備は何をやっていたんだ?
『レ、レッジェンダ王はどこだーぁ!』
オーガの一人が声を張り上げた。
『この国は、我々、オニが支配するぅ!』
『オオオー!』
オーガたちが吠え、手近な人間を血祭りに上げる。追い詰められていくパーティーの参加者。兵士も貴族も、鬼たちには関係ないようだ。
ヤベェ……ヤベェ。心臓が激しく鼓動する。息苦しい。呼吸が荒くなってきた。飛び散る血。倒れる肉塊。血が、オレの血が沸騰するみてぇに熱いッ!
「はぁ、はぁ、はぁ……」
オニ、オニ、オニ、オニ――コロ、コロ、コロ、コロ、コロ――オニ、コロ、オニコロ、オニコロ、オニコロ、オニコロ、オニコロ――
悲鳴が木霊する。オーガに立ち向かった兵のものと思われる剣が、足元に飛んできて転がった。
コロ、コロ、コロ。オニコロ、オニコロ、オニ――
『グヘヘ、女ァー!!』
金棒を振り上げたオーガの巨体で陰がかかる。
鬼、殺スベシ……!
オーガの太い首に、刃が刺さる。肉、そして骨ェェー!
「オーガ、死すべし!」
手には兵士の剣。次の瞬間、オーガの頭が飛んだ。
「オレの前で狼藉を働いて、生きて帰れると思うなよ、鬼どもっ!」
血が滾る。前々世の記憶が蘇る。
「この桃太郎様が、お前らに引導を渡してやんよォー!!」
ミリッシュ・ドゥラスノ侯爵令嬢の体に宿りし、異世界の鬼殺しの魂が熱く燃え上がる!
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ウィキペディア曰く、香川県高松市鬼無町での桃太郎は『女の子』だったという話があるそうです。どうして女の子に『桃太郎』の名前がついたのか……また後日。
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