本編
第1話 女神がメイドに!?(健司視点)
引っ越しが済んだ
「挨拶が終わったし、荷物の整理をしたいんだけど…」
千恵美さんが言う。
「姉さんの荷物は、健司が部屋に運んだわ。1階だけど良い?」
案外軽かったから良かった。オレは男だが、非力なタイプなのだ。
「もちろん。三島君とあんたの部屋はどこなの?」
「健司も1階よ。ワタシの部屋は2階。配信部屋とは別にあるの」
「わかったわ」
あれ? 千影の部屋だけ2階にある理由を訊かないのか? もしオレに訊かれたら「動画の邪魔にならないよう、階段の音が出る回数を極力減らすため」と答えるがな。
「麻美ちゃんは、1人で荷物整理できそう?」
隣に座っている彼女を気遣う千恵美さん。
やっぱり優しいぜ~。今後はオレも優しくしてもらえるよな?
「…当然。花恋荘に来た時も1人でやったし…」
「そうだったわね。うっかりしちゃって…」
年長者の余裕ってやつか? 千恵美さんのおかげで、年上の女の見方が変わったな。
「…じゃあ、私はこれで…」
麻美ちゃんは椅子から立ち上がる。
「麻美さん。今日は疲れてると思うから、ワタシが夕食を作るわ。来てくれる?」
「…もちろんです」
おいおい。早くも4人仲良く同じ机で食事できるのか? 最高じゃねーか!
今日だけじゃなくて、毎日でも良いんだがな~。
麻美ちゃんは千影にペコリと頭を下げた後、リビングを出て行った。
「それじゃ、あたしも行こうかな」
千恵美さんも立ちあがる。
「千恵美さん。オレも荷物整理お手伝いしますよ!」
下心がないといえば嘘になるが、手伝いたい気持ちもある。
「大丈夫よ、三島君。君が運んだならわかるでしょ? 荷物そう多くないから」
断られてしまった…。もう一押ししたいが、しつこい男と思われたくないし我慢だ。
「わかりました。オレは部屋にいるので、いつでもヘルプして下さい」
「その時は頼むわね」
千恵美さんはリビングを出て行った。
「健司。フラれたわね~」
ニヤニヤする千影。
「うるせー」
「下心が丸見えなのよ。あんたらしいけどさ」
そういう気持ちはあったから、否定できない。
「念のため言うけど、姉さん達は来たばっかりで大変だから無茶ぶりするんじゃないわよ」
「わかってるって」
…用件は済んだし、夕食ができるまで部屋で過ごすか。
夕食の時間になり、4人が再度リビングに集結する。オレの前に千影、隣に千恵美さん。そして千恵美さんの前に麻美ちゃんが座った。
「姉さんの料理に比べたら、イマイチかもしれないけど…」
全てのメニューが机に並び、椅子に座った千影が言う。
「何言ってるの? おいしそうじゃない!」
「…私もそう思う」
「ありがとう、2人とも」
彼女はホッとした様子を見せる。
「千恵美さんはよく料理します?」
彼女がやる予定の家事手伝いに“料理”は含むはずだからな。
「花恋荘にいた時はね。あたし・真理ちゃん・麻美ちゃん・隼人君の4人分をよく作ってたわ」
「? クーの分もですか?」
他の人は置いといて、あいつ花恋荘の管理人だったんじゃねーの? 住民の千恵美さんに管理されてるじゃん!
「あの子は大学生だから。親心みたいなものね」
「そうですか…」
これからは、オレがクーの代わりになる訳だ。悪いな。
「ねぇ、もうそろそろ食べようよ。冷えちゃうから」
千影が全員を見渡す。
「…そうね」
千恵美さんがそう言った後、オレ達は料理に手をつける…。
全員、夕食を完食した。オレが千影の夕食を食べるのは、休日の時だけだ。仕事がある平日は、外で済ませるからな。
「三島君・千影。ちょっと訊きたいんだけど…」
「何でしょう?」
「どうかした? 姉さん?」
「これからはあたしが料理を作る訳だけど…、もし嫌いじゃなかったらキノコもっと入れて良い? 今日の分じゃ物足りないわ」
「今日の分も、結構入ってましたよね?」
あくまでオレ基準だがな。
「あたしが作る料理には、もっと入ってるわよ。ねぇ、麻美ちゃん?」
「…うん。いつもすごい量…」
「千影。お前が昔言ったの、本当だったんだな」
古賀家の女はキノコ好きってやつだ。
「だから言ったじゃん。…姉さんのキノコ好き、変わってないのね」
「変わる訳ないって。こればっかりは、変わらないと思うわよ」
大した自信だ。キノコは、古賀家の女の根底にあるっぽいな。
「それで、もっと入れて良いの?」
「良いですよ。もっと入れて下さい」
料理を作ってくれる千恵美さんのやる気を削がすべきじゃない。
「ワタシも良いわよ」
「わかったわ。明日から楽しみにしててね」
「千恵美さん。平日の夜もお願いして良いですか?」
「もちろん。今までは外食だったの?」
「はい。千影のことを思って…」
家にいて動画編集も大変だろうしな。
「そうなのね。これからはドンドンあたしを頼って良いわよ!」
「お言葉に甘えて、そうさせてもらいます」
……実は千恵美さんが家事手伝いをすると聴いてから、本人にずっと言いたかったことがある。だが、それを麻美ちゃんに聴かれるのはちょっとなぁ。
「千恵美さん、後で大切な話があるんですが…」
「 今ここで話しても良いけど?」
「今はちょっと…」
オレは麻美ちゃんをチラ見する。多分、気付かれてないな。
…チラ見に気付いた千影が鼻で笑った気がする。それは別に良いけどな。
「わかったわ。ちゃんと覚えておくから」
ここに来るまでの車の長距離移動に疲れたのか、麻美ちゃんは眠そうな様子で早めにアパートに戻っていった。これでリビングにいるのは3人だけだ。
「三島君。大切な話はいつしてくれるの?」
待ち侘びた様子の千恵美さん。
「今なら良いでしょ? 麻美さんがいないんだから」
「やっぱりわかってたか、千影」
「当然じゃん。あんたとどれだけ付き合ってると思ってる訳?」
「? どうして麻美ちゃんに聴かれたくないの?」
千恵美さんは当然の疑問を口にする。
「麻美ちゃんは、オレを嫌ってますから。これ以上嫌われるのはちょっと…」
「あんたがワタシと2人きりの時以外、真面目になれば済む話でしょ」
千影はオレの悪ふざけを受け入れているから、こんな言い方をしてくれる。
「それは無理な相談だ」
今更性格を変える気ないし…。
「健司。姉さんも疲れてるから、さっさと言いなさい!」
「わかってる」
いよいよか…
「千恵美さんは今日からこの家の家事手伝いをしてくれる訳ですが、それって“メイド”みたいだと思いません?」
「あんた…、まさか…」
千影のやつ、早くも目星をつけたのか? さすがオレの彼女。
「そうなるかしらね。メイドにしては、あたしはおばさんだけど」
「お願いです! メイド服を着て家事をして下さい! メイド服には、男のロマンが詰まってるんです!」
家事手伝いの千恵美さんが着ることに意味があるんだ!
「やっぱり…」
千影は呆れた顔を見せる。
「メイド服って、どういう服なの?」
ピンと来てない千恵美さん。
「……こういうのよ」
千影は携帯を彼女に見せる。
「これを着て、家事をしたり買い物に行くのは…」
「下手したら、不審者扱いされるでしょうね」
…返答を聴くまでもない。
「三島君、ごめんね。無理」
「ですよね…」
オレの夢は、あっけなく崩れる。
「麻美さんの前で言わなかっただけマシね。もし言ってたら…」
ゴミのように見られてもおかしくない。それぐらいわかってるよ。
「メイド服が男のロマンね~…」
つぶやく千恵美さん。
「姉さん。健司の戯言を気にする必要ないって」
男のロマンを女に理解してもらうのは無理なんだな…。
「オレ、風呂入るわ」
この件はさっさと忘れて、シャワーに打たれてスッキリするとしよう。
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