プロローグ③ 女神とカワイ子ちゃんに会う

 オレと千影が出会い・付き合い始めたきっかけは触れた。そして彼女がVTuberになり、今の一軒家に住むようになった経緯も触れた。


最後は千恵美さんと麻美ちゃんとの出会いになるんだが、2人との出会いと千影の家庭環境は、複雑に絡み合う…。



 千影のVtuber活動が順調の中迎える8月中旬。休日に一緒に朝食を食べている彼女はご機嫌だ。何か良いことがあったのか?


「千影。機嫌が良さそうだな」


「実はね、千春姉さんと会う事になったんだ」


そういえば、千影には2人のお姉さんがいるんだっけ。(プロローグ①参照)


「ちょっと待て。どこにいるかわからないって前言ってたろ? いつ連絡を取り合ったんだ?」


「ワタシの動画に姉さんがコメントしてくれたのがキッカケだよ。そこから知恵を振り絞って姉さんである確証を得た感じだね」


動画のコメントは匿名でやるはず。にもかかわらず、知恵を振り絞る前からお姉さんだと予想していたように聴こえる。何でそんな事ができるんだよ?


「匿名だとしても、キノコに向けられた熱い情熱は姉さんしかあり得ないんだ」

考え込んでいるオレに向けて補足する千影。


「キノコに向けられた情熱? お前のお姉さんは、キノコ栽培でもしてる訳?」


「ううん。古賀家の女は、普通の人から見たらキノコ好きなんだよ」


「よくわからんが、大袈裟だろ」

話だけ聴いても全然ピンとこない。


「大袈裟じゃないよ。それが理由で、ワタシは古賀家と縁を切ったんだから」


「…マジで言ってんの?」

 

「マジだよ。古賀家の女は、キノコを男のとして観てるの。キノコを観る時だけ目付きが変わるから間違いないよ」


「……」

意味不明で付いていけない…。


「あんたにわかりやすく例えると…、お父さんやお兄さんが、プリンとか冷奴みたいなやわらかくてプルプルしてる食べ物を“おっぱい”として見てる感じかな」


「…想像するだけでキモいんだが」


「ワタシが縁を切りたくなる気持ち、わかったんじゃない?」


「まぁな…」

この話、どこまで本当なんだろうか?



 「お前。そんなに古賀家が嫌いなら、何でお姉さんに会いに行くんだ?」

縁を切りたい相手の1人だろ。


「それは…、ワタシも同類と気付かされたからよ」


「気付かされた?」


「きっかけは…、29の時の初Hだね」


そこまで遡るのか…。


「それまでは少しHに興味がある程度だったけど、あのHでワタシはあんたのの気持ち良さを知ったのよ。それ以来、ワタシもキノコの見方が変わって…」


あの時処女だった千影は、痛がることより気持ち良さを訴えることが多かった。

それが古賀家の女の特徴だっていうのか? …エロ過ぎるだろ。


「今まで嫌っていた姉さん達とワタシは同じ。それは紛れもない事実…。だったらもう、避ける必要ないよね? 仲良くしたほうが良いじゃん?」


これだけ聴いてもスッキリしないが、千影は「エロい姉さん達とは違う!」と思いたかったかもしれない。もしくは遺伝が遅れて発現したとか…?


なにはともあれ、行きつくところは同じだった訳だ。姉妹仲良くしたほうが良いのは、言うまでもない。



 「お前、お姉さんを探すためにVTuberになったのか?」

実家を頼れない千影が人探しするには、ネットの力は欠かせない。


「そんな訳ないじゃん! そりゃとは思ったけど、確率的に無理だって。宝くじ1等当てるより不可能だよ」


「でも、実際できたんだよな?」

お姉さんの千春さんは、“偶然”千影の動画を観てコメントしたんだから。


「まぁね…」


「神が千影達を引き寄せたとしか考えられん」


「神って…。キザなこと言うね~、健司」


「別に良いじゃねーか。これからは姉妹仲良くしろよ」


「わかってるって」


後日。千影は本当に千春さんに会いに行ったようだ。嬉しそうに会った時を語る彼女を観ると、オレも自然と笑顔になる。


千影がより笑顔になるには…、もう1人のお姉さんとの再会が必須条件だ。



 千影が千春さんと再会して数日後…。


「健司。今度は千恵美ちえみ姉さんに会いに行くから」

夕食時に千影が話し出す。


「良かったじゃねーか。その人もVTuber経由か?」


「ううん。ワタシが『会いたい』って言ったのを千春姉さんが伝えてくれたの。2人は互いの連絡先を知ってるみたいなんだ~」


「そうか。これで2人のお姉さんと再会できるな」


「うん!」


姉妹が再会するのはめでたいが、オレが関わることはないよな。そう思っていたんだが、意外な形でその考えは覆る…。



 千影から千恵美さんと会った話を聴いてそう遠くない日の朝食中、彼女が声をかけてきた。


「健司。明日、千恵美姉さんと藤原さんと倉式君をここに呼ぶつもりだから」


「3人もかよ!?」

ここは一軒家だから、広さ的に問題ないけどな。


「千恵美さんがお前のお姉さんなのはわかる。後の2人は誰なんだ?」

名前すら聴いたことがない…。


「最初は藤原さんからね。藤原ふじわら麻美あさみさんっていうんだけど、歳は26歳だそうよ」


「26!? 若いな~」

ぜひお近づきになりたいもんだ。


「その子、ワタシがやってるVTuberのファンみたいでね。作業場を見学したいらしいわ」


「ふ~ん」

ゆくゆくは、弟子になるってことか?


「もう1人は倉式くらしき隼人はやと君。18歳の大学生よ」


「そいつもお前のファンなのか?」


「違うわ。彼はワタシのアパートに興味があるみたい。いずれ住むかもしれないってことでね」


「ずいぶん真面目な奴だな~」

オレが18の時なんて、遊ぶことしか考えてなかったぞ。


「あんたがいない時間帯に来るから、言う必要なかったかもね」


明日は平日だから、オレは普通に仕事だ。千影の言う通りなんだが…。


「千影。さっきって言ったよな? てことは、まだ伝えてないな?」


「そうだけど?」


「オレも千恵美さんと麻美ちゃんに会いたいし、呼ぶのは日曜日にしてくれ!」


「……別に良いけど」


オレの下心を承知の上でOKするとはありがたい。


「よっしゃ~。千影以外の女性と知り合いになれるぜ~!!」

職場は男ばかりだし、1人でも多くの女の知り合いが欲しい。


「健司。藤原さんは大人しい子だって聴いてるわ。くれぐれも…」


「わかってるよ」

麻美ちゃんは優しくしないとな。



 そして千恵美さんと麻美ちゃんが来る運命の日。オレは2人の顔をすぐ観られるように、リビングにあるソファーで寝っ転がりながら待機する。


早く来て欲しいな~。いい歳ながら、ワクワクが止まらないぜ!


【ピンポーン】

リビングに呼鈴の音が響き、千影はモニターの元に向かう。


「姉さん達、入って」

彼女はそう伝えると、モニターの電源を切った。


「いよいよか…。行こうぜ」


「健司。何度も言ってるけど、気を付けるのよ」


「しつけーなー」

いくらオレでも、軽口をたたく相手は選んでるぞ。



 千影がリビングを出たのでオレも一緒に付いて行き、玄関で待機する。

待機してすぐ、扉が開かれ…。


そしてついに…、オレは千恵美さんと麻美ちゃんと顔を合わせる。


まずは千恵美さんからにしよう。千影によると40近いらしいが、そうは思えない美しさだ。26の麻美ちゃんと歳が近い姉妹と言われても、オレは信じるだろう。


千恵美さんのような人を“美魔女”というらしいが、魔女には悪いイメージがつきものだし、と表現しよう。年上…、意外とだな。


一方の麻美ちゃんは、おっぱいが大きい。この中では断トツだな。あと…、カワイ子ちゃんだ。可愛い顔をもっと見たいが、俯くことが多くて見られないぜ…。


一番後ろにいる男が、倉式隼人か。歳相応の雰囲気で、真面目な感じは伝わってくる。それ以外は特に思う事はない。


今回の来訪中に、女神とカワイ子ちゃんとの距離を縮めたい。こういうのは先手必勝だよな。オレはそう心に決めながら、3人を見守る…。

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