プロローグ② 千影がVTuberになった経緯
お互い就職したことがきっかけで、Hなことを話すオレと千影。その時に「千影とHしたい」と正直に伝えた結果、彼女は同意してくれた。
そしてついに、オレ達は童貞と処女を卒業したのだった。Hしたら付き合ってくれると思ったのでそう伝えたところ、そっちも受け入れてくれた。
オレ達はめでたく、交際関係に発展したのだ。
不安の種はなくなったし、このまま何気なく過ごせるかと思いきや、そうはならなかった…。
変わらず千影がオレの家に同居し続けて…、1年ぐらい経っただろうか。お互い休みの日の朝食時に、彼女が突然打ち明けた。
「ワタシ、今の会社辞めたい」
「何で?」
歳が上がれば上がるほど、再就職は不利になる。留まったほうが良いはずだ。
「人間関係がね~。仕事の内容は別に良いんだけどさ…」
人間関係はどうしようもないからな。無理強いさせたくないが…。
「前からVTuberに興味があったのよ。だからやってみたいな~」
千影は何故かオレにおねだりしてくる。
「好きにやれば良いじゃん」
オレの許可いらねーだろ。
「正社員として働きながらVTuberは無理。できたとしても小遣いレベルだよ」
「そうか…」
その辺の事情を全く知らないから、嘘か本当かがサッパリだ。
「だから本格的にやりたいのよ。仕事を辞めてさ」
「おいおい、いくらなんでもそれは…」
事情を知らないのは事実だが、楽な世界じゃないのは知っているぞ。
「ワタシが一人前のVTuberになるまで養って♡」
急に甘えた声出しやがって…。息子が反応したじゃねーか!
「あと、マンションじゃなくて一軒家に住みたいな~♡」
「何でだよ!? それとVTuberは関係ねーだろ?」
「あるよ。このマンション、壁が薄いのか隣の部屋の音が少し聴こえるじゃん? 配信にそういう音はタブーなんだよね」
言いたいことはわからんでもないが…。
「千影。お前働き出してから、貯金はどうなってるんだ?」
夫婦じゃないし、金の管理は別々だから知らねーんだよ。
「ほとんど貯金してるよ。遊びに行かないと貯まるよね~」
「それは良かった」
散財してほぼ0だったら、いくらオレでもキレるかもしれない。
「健司~。養って~」
おねだりを続ける千影。
ここは冷静に考えないとダメだ。将来に関わるんだからな。
「……わかった。仕事を辞めてVTuberをやって良いが、条件がある」
「何?」
「短時間のバイトでもパートでも良いから、仕事をすること。収入が0のお前を養うのは、安月給のオレには厳しすぎる」
「わかった。…一軒家のほうは?」
「それは無理だ。お前のVTuber活動が軌道に乗り始めたら考えても良い。もし失敗したらどうなる? 残るのはローンになるんだぞ」
何年単位のローンになるのか…。考えるだけで恐ろしい。
「…その条件で良いよ。ワタシ頑張るから!」
千影がやる気になるのは良いことだ。
「……わりぃ。条件を1つ言い忘れた」
「今度は何?」
彼女は少しうんざりした顔をする。
「お前の活動が実を結んだら、今度はオレを楽にさせてくれ。出世払いと思ってくれれば良い」
これぐらいの条件を求めるのは当然だよな?
「そんな事か。もちろん」
今日から大変になるな…。千影の才能が早く開花することを祈るか。
千影は宣言通り会社を辞め、VTuberとして努力し始めるようだ。いろんな機材が狭いオレの家に置かれるのはストレスだが、一度OKしたからなぁ…。
器がデカい彼氏アピールをしたいし、何も言わずに見守るか。
そう考えて遠くない内に「本当に仕事してるか?」と訊いてみた。すると千影はオレがいない時間帯で短時間バイトをしていると言った。
詳しく聴きたい気持ちはあるが、彼女を信じるのは彼氏の役目だし何も言うまい。
「千影、VTuberのほうは順調か?」
機材が家を占領し始めて数日後。休日の朝食時に進捗を訊いた。
「今はまだ独学中。収益化はだいぶ後ね」
「そうか…」
そんな簡単に金になるなら苦労しないか。
「健司。ちょっと相談したいことがあるんだけど」
「何だ?」
「ワタシのVTuber名を考えてくれない?」
「何でオレが? やるのはお前だろ」
「そうなんだけど、今のところ“ゲーム実況”をやる予定なの。ターゲットは男の子に絞ってるから、男の子の目に留まる名前が良いのよ」
「なるほど。だから男のオレに決めてもらう訳か」
「そういう事」
とはいえ、まったく思い付かんが…。
「男の子は厨二というのが好きなんでしょ? そういうので頼むわ」
「ハードル上げんなよ!」
厨二ねぇ…。どうせなら、千影の名前に関係する感じが良いかもな。
「…“サウザンド・シャドウ”はどうだ?」
厨二感あると思うが…。
「それはどういう意味なの?」
「お前の名前の千と影を分けて英語にしただけだ」
「ふ~ん。男の子はそういうのが良いんだ。ワタシにはサッパリ…」
「じゃあ、別の名前にすれば良いじゃねーか」
せっかく言ったのに、嬉しそうな顔をしてくれない…。
「拗ねないでよ。その名前にするからさ」
「…マジで言ってんの?」
千影の反応が気に入らなかっただけで、決定の有無は些細な事なんだが。
「マジだよ。でもちょっと長い名前だから“サウちゃん”という愛称にするけど」
「好きにやってくれ。メインはお前なんだから」
本当にオレは役に立ったのか? 釈然としないが、言わないことにした。
それからというもの、千影はみるみる実力を付けてチャンネル登録者を増やしている…らしい。オレは千影の言葉しか聴いていないから、真偽は不明だ。
彼女が言うには、厨二の名前と美少女という謎の組み合わせが視聴者の気に留まって登録者が増えたとか。オレの適当が評価されるとは、訳が分からん世界だ。
そして千影がVTuberになって1か月後。初の給料が振り込まれたと聴き、オレは明細を見せてもらった。
『45円』と書かれている。…何度も見直したが、間違っていない。
1か月頑張ってこの程度? ひでーもんだな。
「これからだから。最初の1か月で結果が出る訳ないじゃん」
千影は全然気にしていない。
「そ…そうか」
半年から1年やってコレなら、早い内に辞めさせるか。
1か月目の明細を見せてもらったので、毎月の明細を見せてもらう事にした。冗談半分で頼んだんだが、千影がOKしてくれたんだから問題ないよな。
最初は45円というふざけた額だったが、月を重ねるごとに増えていき…。
そしてついに、1年ほどでオレの安月給を超えた。…信じられん。
「スゲーな。ここまで稼げるのか…」
「でしょ? ワタシ頑張ったんだから!」
「みたいだな。偉い偉い」
オレは千影の頭をなでなでする。
「頭を撫でるんじゃなくて、こっちで相手してよ」
彼女はオレの股間に触れる。
「…わかった。お前が満足するまで相手してやる」
「うん♡」
オレ達はベッドの上で思う存分暴れた。心配することがかなり減ったから、Hに専念できるぞ。…安定した収益の継続という、一番気になる点が残ってるがな。
千影の収益がオレの安月給を超えたのはマグレではなく、差はどんどん広がっていく。嬉しいような悲しいような、複雑な気分だ…。
軌道に乗ったことが確信した千影は、短時間のバイトを止めVTuber活動に専念した。これにより動画の本数UPと質の向上が狙え、さらなる収益化が見込めるとか。
それだけでは彼女は満足せず、VTuber活動がうまくいかなくなった時の保険として、アパート投資を始めた。入居者がいれば、家賃収入が得られるシステムらしい。
オレが働いている間も、金に関する情報収集を怠ってなかったか。あの時の面接は頼りなかったのに、今はその面影はない。千影は大器晩成タイプかもな。
千影の収益が急上昇したので、オレ達は彼女念願の一軒家をローン付きで購入して引っ越した。千影が稼いでいる額を考えたら一人で払えるだろうが、オレも無理して一緒に払う。
彼女に頼りきったら、ヒモが確定するからな。オレが養ってもらうのは最後の手段にしないと。なるべく対等でいたいから、何とか払ったのだ。
この一軒家にオレ達は現在も住み続けている。引っ越しは面倒だし、このまま定住するつもりだ。
これが、千影がVTuberになった経緯と一軒家に住むようになった流れになる。最後はある来訪客3人についてだ。千恵美さん・麻美ちゃん・クーの3人になる。
特に千恵美さんと麻美ちゃんの女性2人は、じっくり語るとしよう。
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