純白は浸かる


 ココがどこだか分からない。私は、やっぱり攫われた………


「失礼な小娘だ」


「!!」


「少しは礼儀をわきまえている子供だと思ったから連れて来たというのに…」


「…………ぁ……」


 愚痴ぐちらしき譫言うわごとを聞かされているとポンっ、と肩に後ろから手を置かれる。


「旦那ぁ〜! そんなこと言っちゃ駄目でしょーよ〜、多感な時期っすよ〜?」


 糸目でローブをからかい笑う金髪の青年のような人。耳……飾り物?


「……リフー。この小娘ををお風呂へ」


「は〜い! じゃ……行こっか!」


 足をすくわれ、軽々と抱えられる。綺麗なカーペットのかれた廊下を進むと扉が開く。







 パシャア……、ゆっくりと温かい水が掛けられる。泡を落とされると髪をくくってまとめられた。 


「じゃあ上がったら教えてね、〝どんな〟声の大きさでもオッケーさ」


 バタン、とドアが閉まると水滴がタイルに落ちる音が響く。

 ………………意外だ。意外にもここは温かい場所だった。


「温かい水………………お湯なんて、何年ぶり……」


 ……でも、そんな水の感動よりあの人、 

 目を瞑ると眼前にはローブが映った。

 ……よく分からなかった。顔も身体も、血色も匂いも気配も…。全部、ぜんぶ判らなかった。


「……っ」


 頭が、割れそう……。

 急におそって来た、耐え難い頭痛に頭が落ちてしまいそうになる。


「だれ__か___」


――……………!!!


「____」


 沈んだ意識の中で、もう一つの意識が浮き上がってくる。


__________________

____________


『お前は道具だ、殺しに使う道具だ。殺すための道具だ』


「……」


『黙って言われた通りに動けば良い』


「……」


『いいか勘違いするな!! 俺は殺し屋、お前はナイフ、俺が動けばお前は人間を傷付ける。俺が動かなくてもお前は人間を傷付ける道具だ!』


「……」


『返事はッ!!』


「………………はい」


 そうだ。

 誰か私を人として、見てくれればいいなと、少し、ほんの少しだけ思っていた。


____________

__________________


「――!!」


 …………


「――ん――く!!」


 ……


「じゅ・ん・ぱ・く!!!」


「……し」


「純白!!」


「…………じゅ、ん…」


「うん!」


「じゅん………ぱ、く……?」


「!………良かったぁ……」


 視界が安定すると、大きな耳を垂らしてため息を深く着く人が見えた。

 安堵の息が私に掛かる。


「……わたし………」


「純白ちゃん溺れちゃっててさ、俺が飛び込まなければ……って」


 そういえば、私が寝る前、金色の何かが飛び込んで来たような……。


「何か、じゃなくてキツネ、ね? キ・ツ・ネ!」


「……あぁ…………なるほ、ど…………」


 あぁ………また意識が……もう、駄目だ


「ちょ、ちょっとー!?」


「……あ………がと……ぅ___」


 そういえば、私、裸、だったのかな。……別に良いか………どうでも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る