第3話

「私はラーレさんと初めて会った時こんな感覚には至りませんでした」

「それはきっと私が完全体な姿ではなかったからだね。だからきっとセレスにはその感覚は感じられなかったのでしょう」

「そうだったんですか。そういえば、ラーレさんは私をどうやって見つけたんですか?」


 精霊には必ず愛し子がいると聞いた。だけれど、その愛し子を見つける方法として衝動しかないのであれば遠くにいる愛し子の場合はどうするのだろうか。現に私とラーレさんは遠いどころか住んでいる世界が違うだから。それでもラーレさんは私を見つけてくれた。


「近くにいれば確かに簡単に見つけることができます。しかも精霊同士であればお互いに、さぐりあえるから闇雲に探す必要はないのです。でも私とあなたのように住む世界、種族が違う場合が稀にあります。そのような場合愛し子を見つけるのは不可能に近い状態にあります。そのような状況であなたを見つけ出せたのは私とあなたが特別であるということが関係してきます。私は精霊王で、あなたは精霊王の愛し子。精霊王の愛し子は他の精霊たちにも無条件に好かれるという特性があるのです。人間界に行った精霊の中で、一度もこちらに帰ってきていない。そして人間を共にいたリリたちを見つけそこからあなたを探し出したのです」


 そうだったのか。うん…?でもリリたちは私のお母様がよくしてくれた恩を返すために私のそばにいてくれるって言ってた。でもそうなるとラーレさんが言っていることと辻褄が合わない。そう思い私はラーレさんにそのことを聞いた。


「セレス、お母上の名前を聞いてもいいですか?」

「確か、ダヌア・バートレイです」


 ダヌア、お母様の名前を久しぶりに口にした気がする。懐かしさで少し涙が出そうになった。一方ラーレさんは何か気づいたような顔をしていた。


「ダヌア様は、精霊界での聖女様でした」


 聖女、その称号は私も聞いたことがある。傷を癒す術を使える人のことをいうと。そしてとても国の中で位が高い。


「私のお母様が聖女様?」

「はい、ダヌア様は二十年前、精霊界が大混乱に陥った際怪我をして人間界に迷い込んだ精霊たちを身を挺して癒してくださったのです。治った精霊たちに案内された先の精霊界でも数百の精霊を治してくださいました。そんなダヌア様を私たちは二十年たった今でもあがめているのです。その証拠にダヌア会という宗教的な団体もできているほどに」


 お母様そんなにすごい人だったのか。お母様とは全然喋ったことがなかったし、話したことがあったとしても私は全くもって覚えていない。だけど、とても凛々しく優しい方であったことだけ覚えている。


「セレスのお母上が聖女様で、セレス自身は私の愛し子とは…。運命に近いものを感じますね。ますます、あなたを好ましく思えてきました」


 運命って、こんな運命あってたまるものか。あれ、そういえば愛し子って番のようなものってさっき言ってたけど、番って言ったら夫婦ってことだよね?え、私とラーレさんってそういう関係になるってこと?え、それは聞いてない!


「私とラーレさんってこれから結婚するってことなんですか?」


 私がそう詰め寄って話しかけるとラーレさんは私の顔色を伺うようなそぶりを見せた。


「えぇ、いずれかはそうなります。愛し子は代えのきかない存在。私にはあなたしかおりません。ですが今すぐにとはいきません…よね。あなたにとっては番なんて関係ないですし、あなたは他に愛する方がいらっしゃったかもしれません。ですので無理やり婚姻を結ぶということはありませんのでご安心ください」


 そういうラーレさんはとても悲しそうな表情をしていた。その表情を見るとなぜか私は胸が苦しくなりすぐに否定したくなった。


「い、いえ。私には愛する方などおりませんでした。ラーレさんと結婚するのが嫌、というわけではなく私とあなたはまだ出会って間もないですし…。そのような方と結婚するのは私は無理です。かといって絶対に無理と言い切れるわけではなく、まずはお互いを知ってから…」


 ってめっちゃ恥ずかしくなってきた。なんだか結婚に乗り気みたいじゃない私? 必死に弁明してるみたいだしなんかラーレさんは、微笑ましそうにこっちを見てるし。ええぇ、私これ何も言わないほうがよかったんじゃ?


「ありがとうございます、セレス。ではまずはお互いに知り合ってからということですね!では一から私のことを…といきたいとこですが、今日はあなたを休ませたいと思います。そして、素敵なお洋服を着ましょう。そのような昔の服ではなくこれからが楽しみになるような服を」


その声を引き金に、周りにいた女性の精霊たちが私を取り囲み、私を丁寧に扱い始めた。当然私はそのような扱いに慣れていないため、本当に緊張した。肌荒れしまくっていた肌を丁寧に丁寧に慈しむように扱ってくださった。


だから、私は思わず聞いてしまった。


「なぜ、私をそのように扱ってくださるのですか」


と。

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