09:~前編~コラボの事情。

 放課後のから約2時間後、石垣家のリビングにて――。


千寿「『はいはい晩ぬら~。今宵もぬらりくらりと始ますよっと』」

琥珀「『ようテメェ等。鯰会直系鈴鹿組組長鈴鹿だ。今日も今日とてカチコミとしゃれこもうか?』」


[乙ぬら~ <゜)))彡]

[晩ぬら~ <゜)))彡]

[総大将!]

[組長!]

「組長! 傘下リスナー組! 一同此処に!!」

[組長! おはようございます!]

[組長! ご苦労様です!]

[総大将と組長! 今宵はなんのゲームにカチコミを!?]


 千寿の後、GW中に定まった口上を述べる琥珀。大勢の前に晒される事に慣れつつあるご様子。こなれた感が出ていた。


 ちなみに口上に出てくるカチコミ。これはゲームを指し、コラボなら抗争。雑談は会合になる。


千寿「『カチコミの前に今日はスペシャルゲストが来てますよって。はいどうぞ』」

満穂「『はい。大いなる主が我々を見守っている。世に祝福と笑顔が溢れんことを。聖フェリス☥テレサ女子大学附属学院所属のシスター・エマです』」


[エマ様!?]

[シスター!?]

[ええ久しぶりー!?]

[え!? 去年ぶりじゃん!!]

[おぉ組長! 遂に鯰の総大将以外とコラボ!]

[フェレサ女のライバーとのコラボキター!!]


琥珀「『おーおーすっげぇ盛り上がり。コメントが爆速で流れていきやがる』」


 鯰会直系鈴鹿山組組長鈴鹿こと瑠璃山琥珀が画面に流れるコメント量を見て今の感想を述べる。

 気が付けば同接数は待機時の500人を超えて1000人へ。終いにはこのコラボの経緯や軽い雑談をしているうちになんと3000人を突破。千寿は2人の人気っぷりを改めて実感する。


琥珀「『それで? 鯰の総大将さんよ。結局お前もウルバニすんのか? あんなに嫌がってたってぇのに?』」

千寿「『あ、今日はウルバニではなくこれね。姉上様から渡されたやつ』」


 そう言って千寿は姉である蛍から受け取ったゲームが入りの手紙をそのまま2人の前に。3人はジャンケンをし、負けた榎本満穂が手紙の封を開けた。


満穂「『――ッ!?!?』」


 が、開けて中身を見るなり固まって、3秒程の硬直の末に青ざめながら祈りのポーズを取って懇願してきた。


満穂「『ウルバニにしませんか? 恥ずかしいお言葉を沢山言います。私、頑張ります。精一杯頑張ります! だからっ――あ』」

琥珀「『んだこれ? 夜勤配達?』」

千寿「『あぁ……』」


[ホラゲー!?]

[ホラゲー!?]

[夜勤配達!?]

[え? ホラゲーってエマ様の数少ないNGじゃ・・・]

[おぉ! ドギマギ以来のホラゲー!!]

[盛り上がってまいりますた!!!!]


琥珀「『あぁこれがホラゲーってやつなのか』」


 横から奪った手紙の中にあったゲームのタイトルを言い、コメントでそれがホラーゲームであると理解する琥珀。しかも近年売れつつある作家系ライバーがシナリオを担当した大人気の代物。


満穂「『止めましょう? ね! ウルバニにしましょう? リスナーの皆も絶叫より喘ぎ声の方が良いですよね? 可哀そうな姿を見るより不浄な姿の方が良いですよね? ね!?』」

琥珀「『シスターの言葉じゃねぇ。どんだけホラゲー嫌いなんだよ』」


 全力で嫌がるシスター・エマ。

 それもその筈シスター・エマこと榎本満穂の数少ないNGの1つがホラーゲーム。

 彼女が子供の頃に家族で遊園地に行き、そこで迷子になりたまたま服装が似ていた他人を親だと思って追い掛けたらそのままお化け屋敷に入ってしまいギャン泣きするレベルのトラウマを植え付けられたんだとか。


千寿「『! 姉上からだ』」


 千寿の携帯電話が鳴り、画面を確認して満穂の前に置く。


満穂「『あ』」

蛍「『やれ』」


 プツッ――。

 問答無用。彼女が恐る恐る通話ボタンを押すなり"やれ"とお達しが届いて「『あ、はい……』」と虚しく従う満穂。流れるコメントも琥珀でさえも同情を向けた。


 ただ千寿に至っては、


(相変わらず手厳しい。けどまぁ自分達がいるからだろうねっと。フェレサ女で現役の女子高生って榎本さんと少し前にデビューした人だけ。しかも登録者数の関係で箱内の先輩達とも気まずさも感じている。事務所でもこの前のトラブル千寿が琥珀を拾った日と言い、色々と厄介な事になっているらしいし)


 と少なからず姉の意図を汲み取る。


千寿「『さて自分は色々と準備をしますかねっと。組長とシスターはゲームと一緒に入ってた手紙を読みながら雑談でもしてて下され』」


 そそくさと千寿は立ち、ゲーム夜勤配達を持って配信部屋に向かう。


千寿「『あぁそう言えば。妖怪だから聞くのは野暮だろうけど、鈴鹿組長は怖いの得意? 不得意?』」

琥珀「『殴る蹴るが通用すんならなんも怖かねぇよ。ガキん頃にそれでお化け屋敷を半壊させたしな』」

千寿「『全力で不得意じゃないっすか……』」

琥珀「『あ? ダル絡みしてくる野郎の撃退と一緒だろ? 得意得意。急に出てくる。近寄って来る。必要以上に近づく。で、やめろと睨んでも引かねぇおんばかにゃ殴る蹴るで対応。次がねぇ無いよう泣きっ面に膝――な? 生者であろうが死者であろうがダル絡みしてくんなら暴力でしめぇ終いだ』」

千寿「『――はい』」


[やべぇ]

[半壊!?]

[これが大妖怪によるナンパ撃退術・・・?]

[勉強になりやす!]

[た、確かに・・・?]


 まさに悪鬼羅刹。死者相手に物理云々はさておき、琥珀のリスナーと千寿の気持ちが一体となった瞬間である。

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