個人Vtuber、家出中のヤンキー女子を拾ったついでにvデビューさせてみた。

白黒猫

01:出会って5秒で即カツアゲ!?

「『10万カツアゲの人!? ミルクセーキのアウトロー!? んだテメェ等! ぶっ殺すぞゴラッ!! ――罵声ありがとうございます!? もっと頂戴!?!? 狂ってんのか此処に集まってる奴等全員ッ!?』」


「ンアッハッハッ!?」


 朗報。vtuberとなった家出中のヤンキー女子。さっそく初配信でリスナー達とプロレスをやらかす。


(予想してたけどいやはや笑っちゃうね! これほんと。久しぶりに机を滅茶苦茶叩いて笑っちゃったよ)


 大爆笑する石垣いしがき千寿せんじゅと初配信で悪戦苦闘する瑠璃山るりやま琥珀こはく。2人の運命的な出会いは2年生の頃――GWに入る前、公園の自動販売機で飲み物を買っている最中に彼女からカツアゲをされた時だった。


 

 今年、高校2年生となった千寿のクラスメイトには時代錯誤とも呼べるヤンキー女子がいた。


 気に入らなければ言葉の暴力で責め立てる今時のファッションヤンキー女子とは違い、気に入らなければ容赦なく殴る蹴るで畳み掛けるのが古き日のヤンキー女子――それが彼女、瑠璃山琥珀だ。


 此処で彼女のヤンキーエピソードを1つ。

 彼女瑠璃山琥珀の容姿はハリウットの映画で主役級を張れる程の魅力を携えている。外国人の血が少し混じっている為に身体つきは肉々しく、髪は亜麻色のストレートヘアーを雑に纏め、整った鼻梁に長い睫毛を有しているものの喚く子犬を委縮させる程の眼光を宿していた。

 

 故にトラブルを引き寄せやすく、高校の入学式早々にガラの悪い上級生達に絡まれてしまうという危うい場面があった。

 結果として彼女は無事であり、寧ろ行き過ぎたヤンチャ行為が彼女の逆鱗に触れた事で絡んできた上級生達全員を金的からの半殺しに。しかも教師が止めに入るまで逆鱗に触れた上級生の顔面に膝蹴りを絶え間なく喰らわせ続けていた。


 これレベルのエピソードがたった1年で両手の指では足りなくなるくらいある。

 

 だから誰もいない夕方の公園で瑠璃山琥珀と遭遇した時は自分の運の無さを呪ったし、金を出せとカツアゲされた時は各種光熱費の支払取扱票を家に忘れ、更に取りに戻る途中で魔剤であり戦闘飲料でもあるエナジードリンクをコンビニではなくこんな所で買おうとした愚かな自分を千寿は呪った。


「金出せ」

「え?」

「金置いてとっとと消えろ」

「あ、はい――どうぞ」


 財布から10。ポンと出す。


「……」

「……」


 固まる瑠璃山琥珀。反応に困る石垣千寿。行き場の無い諭吉10人衆。


「――なぁ?」

「はい」

「エ〇コー?」

「待って戻って。身体を抱き締めながら後退らないで」


 1人で複数人を拳で撲滅出来る人が怯えながら後退る。それもとんでもない事を言いながら。

 自分勝手にカツアゲをしておきながら自分勝手に怯えて警戒する。成程これがなろう系小説で良く見かける婚約者を寝取られる悪役令嬢(全然悪役じゃない)の気持ちかと、千寿は行き場の無いモヤモヤを飲み込んだ。


「――ん? どっかで見た顔だなテメェ」

「見た顔って……そりゃ同じ学校。しかも1年の頃から同じクラスのクラスメイトなのですが……」

「は? 誰だよお前。見た事ねぇよ」

「……左様で」


(酷い。見た顔だって自分で言ってたのに……)


 確かに、石垣千寿はクラスでは影は薄い方だ。授業での積極性は皆無。体育祭等での協調性も人並程度。公に出来る趣味が無く、更にとある事情で他県の高校に入学した事で友人関係は中学時代と相反して希薄も希薄――俗にいう陰キャと無キャの狭間に居る者。同じ最下層連中にも見下されがちな弱者男子。それが今の石垣千寿なのだ。あと諸事情で1歳年上。

 だから知らなくても仕方がないかもしれない。


「お前名前は?」

「出席番号6番の弱者男子です」

「頼む会話のキャッチボールをしてくれ。名前は? って聞いてんだよ」

「あ、はい。石垣千寿です。ちなみに瑠璃山さんの窓側席から2個隣の席です」

「石垣……あ? 待てそこってキモ男じゃなかったか? オレが通る度に横目でチラッチラッ見てくるキモイ奴」

「それは四十しじゅうさんですね。席替え前の」

「ほーん」


 聞いておきながら雑に流される。

 しかしまぁ彼女の運か担任教師の策略かは分からないが、席替えをしても彼女だけは窓側一番後ろの席のまま変わらず。

 で、休み時間や授業中関係無しにずっと窓から空ばかりを見ているからクラスメイトの顔を知らない。だから自分を知らなくてもやはり無理もない、と何処となく虚しさを抱いたが、同時に覚えられるような事は何も無かったし、してすらなかったと納得する。

 

 あと彼女自身、1年生の頃から学校を休みがち。更には此処1週間学校を連続で休んでもいた。

 2年生に上がってまだ3週間弱。彼女の登校頻度を考えてみれば数名クラスメイトの認知があやふやでも仕方がない。ただその数名の中に1年生の頃からのクラスメイトである自分が入ってる事が若干悲しくなる。


「珍しいなテメェ。オレが怖くないのか? 学校の連中と違って全然怖がらねぇ。連中の大半はオレが話しかければビビッて首をヘコヘコしやがるのに」

「滅っ茶苦茶怖いです。なんだったら今からでもこの10万を差し出しながら土下座して、見逃して下さいと懇願したいです」

「そ、そか……」


(あ、素で”なんだコイツ?”って顔してらっしゃる。おかしいな? カツアゲされてるのは自分なのに……)


「なぁ? その10万で胸を触らせてやるって言ったら触るか?」

「――……中卒。逝くならせめて高卒で逝きたかった」

「おいテメェ。こっちが頑張って会話のキャッチボールをしてやってんのに唐突にバット持ち出してノックすんじゃねぇよ。テメェはガキの頃に”おはよう”の返しに”さよなら”を返すって習ったのか? てか死に際に学歴なんぞこだわんな」

「あ、はい。すみません……」


(仰る通りです)


 確かにチグハグな会話だったと、言ったらすぐに言葉が直接返ってくる日常会話を高校入学から今日まで家族である姉以外としてこなかった事を若干呪う。

 

 まぁでもそんな千寿を見て幾ばくかの警戒心が解けたのか、瑠璃山琥珀は「ったく」と苦笑しながら千寿に近づく。

 で、千寿が買わずのままであった自動販売機のボタンを押して出てきた飲み物とお釣りを搔っ攫った。


「あ? 500円玉が3枚? テメェ自販如きに二千円札を使うとか……まぁいいや。テメェは何を買おうとしてたんだ?」

「え? あ、魔剤を」

「魔剤? ――無ぇな」

「すみません。エナジードリンクです……」

「――どれ?」

「三段目の一番高いやつです……あ、そうその緑です」


 訳も分からずにナビゲートをし、千寿は買おうとしていたエナジードリンクを彼女が買う。

 そして何を思ったのか千寿に潔癖症の有無を問い、無いと返答を貰った事でエナジードリンクの飲み口を開けて一口飲んだ。


「――っ、んだよこれ? 炭酸じゃねぇか。しかも滅茶苦茶身体に悪ぃ味がする。テメェこんなのが好きなのか?」

「え? あぁ……まぁ……」


 散々な、でもネットでチラホラ見かける感想に戸惑う千寿。そんな千寿に一口飲んだエナジードリンクを手渡すなり、


「今日はまぁ……これくらいで勘弁してやる」

「あ、はい。ありがとうございます?」


 小銭を制服のポケットにしまい、最初に買った缶ジュースをヒラヒラと動かしながら彼女は踵を返して公園を去っていく。

 まるで台風。それか西部劇に出てくるアウトローな人だったと思いながら千寿は駅方面へと去っていく彼女の背中を見送った。


 今日の事を彼女が覚えていればまた何かしらのたかりに繋がるだろう。そうでなかったらこれっきりだ。

 出来る事なら後者になって欲しい、と幾らかの不安を持ちながら千寿も帰路へ就いた。


(そう言えばミルクセーキを買ってったなあのアウトロー瑠璃山さん。見かけによらず甘党なのか。炭酸も苦手っぽかったし……)

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