2023/08/07 一人ハワイアンパンケーキ
某日、一人でハワイアンパンケーキを食べに行ってきた。
私は一人での食事に躊躇いがない方である。牛丼も焼肉も蕎麦も全部一人で食べに行く。だからパンケーキも食べたいと思ったが吉日と、一人で食べに行った。
しかし、私はハワイアンパンケーキを真に理解していなかった。
その無知ゆえに、自分で自分を苦しめることになった。
ここで、改めてハワイアンパンケーキというものについて確認しておく。
ハワイアンパンケーキとは、なだらかな丸皿にふっくらとしたパンケーキの大地を広げ、そこへ生クリームの小山と色とりどりの果物たちを散りばめた、南国の島のごときワンプレート料理である。
パンケーキの大地と言ったが、大きな一枚のパンケーキが乗っているのではない。地球を形作る地層の如く、一枚の皿に今川焼きより一回りほど大きいパンケーキが三、四枚乗っているのだ。
エネルギー盛り盛り。
糖と脂質の大感謝セールある。
甘い物が格別好きならば問題ないのだろうが、私は偶然甘い物が食べたいだけの気まぐれ屋だ。一人でパンケーキ三枚は多いので、一枚か二枚のプレートを探した。
無かった。
店内のハワイアンパンケーキプレートは、どれも地層三、四枚でできていた。プレートが過ぎる。ハワイアンパンケーキは、糖と脂の大陸形成を目指しているのだろうか。
唯一の例外は、サラダと肉の乗った食事プレート。
豊かな緑と赤みのそばへ、パンケーキが二枚侍っているというものだ。慎ましい、バランス型の優等生プレートである。いつもの私ならば、きっとこちらを食べていたに違いない。
だが、私はどうしてもハワイアンパンケーキが食べたかった。糖質、脂質で胃を満たさなければ気が済まなかったのだ。
私は一人でプレートを食べることにした。
まずはパンケーキとバターだけで食べる。
山のような生クリームをひと掬いして、食べてみる。案外クセがなくてうまい。ジュースのように飲める気がした。
勢いに任せて生クリームと共にパンケーキを飲む。
パンケーキ三枚目の半分を過ぎたあたりから、生クリームの質量が鉛と化す。味は軽くとろけるようなのに、胃へ沈み込む存在感が半端でない。
このままでは完食できない。
自分で食べきれると確信して頼んだものを完食しないのは美学に反するので、気分を変えて食べ続けるためにコーヒーを注文した。
コーヒーを待ちながら、周りの客席を眺めた。
女性の友人同士と思わしき集団。夫婦やカップル。女子高生数人。
複数人客ばかりだ。私のように一人で来ているのは、サラリーマン一人しかいない。だが彼は、パンケーキではなくエッグベネディクトを食べている。
まさか、ハワイアンパンケーキは一人では食べられない物なのだろうか。
この時、私はやっとその可能性に思い至った。
これは友達と頼んで分け合うのが当然の、社会性の贅沢な逸品だとでも言うのだろうか。
いや、そんなはずがない。
店の入り口にもホームページにも、一人で来るなとは書いてなかった。
パンケーキプレートを一人で食べるなとも言われていない。一人でもパンケーキプレートを食べていいはずだ。
だが、それならば何故プレートしかないのだろう。
パンケーキが一、二枚乗っただけの、小さな島に似たプレートは、何故ないのだろうか。
もしかして、パンケーキプレートを一人で食べに来ないという暗黙の了解があるのではないか。
私のような客は、迷惑なのではないか。
何故ハワイアンパンケーキは山盛りなのだろう。
気になったので、ネットで調べてみた。
そもそものハワイアンパンケーキは、ハワイで時間問わずに頑張る漁業人や労働者のために作られたものらしい。
ハワイの労働者たちは、一人でこのようなプレートを食べたのだろうか。
私は、いつぞやにハワイで見かけた現地人たちを思い出す。
カンカンの太陽のもとでの労働だ。
たくさんのエネルギー補給に、このプレートは最適なのかもしれない。
そう知れば、このプレートもいかにもハワイらしく思えてきた。
そこから私はいつもの夢想癖に耽り、自分の行動の是非を脇へ追いやることにしてしまった。だいたい、後悔してももう遅いのだ。しっかり食べて、対価を払って帰った方が、皆幸せになれる気がする。
コーヒーが運ばれてきた。
ちょっと胃が苦しかったものの、力強い味方のお陰で、私はプレートを完食できた。
店を出ると、腹が抗議するように鳴った。
机に向かってばかりの日々だ。そろそろ、無精しないで運動をしに行った方がいいだろうなあ。
そんなことを考えた。
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