ep.8 もう、戻れない。
ファミレスでの面談を終えた翌日、再び依頼者である吉岡さんと会う約束をしていた。
実は、昨日の帰り道吉岡さんが一冊のファイルを手渡してくれた。
それを見た感想が欲しいという事だった。
昨日と同じファミレスに入り、彼女の到着を待ちながら、コーヒーを飲んでいた。
そして、昨日渡されたファイルを開き、私は1ページ目から進めずにいた。
「すみません、遅くなりました。宿題片付けてたら遅くなっちゃって」
全然大丈夫ですよ。今夏休み中ですもんね。早く終わらせた方が、後々楽ですから。
「すみません。あ、見ていただけましたか?」
えぇ、一応全て目を通させていただきました。
ちなみに、今日このあとこちらのコピーを取らせていただくことは可能でしょうか?
「大丈夫です、何か気になるものとかありましたか?」
あ、そもそもまずこの書類って?
「はい、私がネットに掲載してあった行方不明者リストの中で、この町に住所がある方のものをまとめたものです」
凄いですね
「やるときは、とことんやりたい人間でして」
あ、だから遅刻しても宿題をね・・・?
「すみません」
あ、別に責めてるわけじゃないんです
「あの、内容で気になったことを聞きたかったんです」
そうですね、正直全体通してはまだサラッとしか目を通していなくて
「そうなんですね」
というのも、この1ページ目に凄く引っかかっていまして。
「1ページ目、浦川さんですか?」
そうです
「どのあたりが引っかかったんですか?」
この個人情報の部分には特に引っかからなかったんですが、
最後の、追記の部分。ここがすごく気になるというか。
「追記の部分ですか?」
――――――――――――――――――――――――――――――――
掲載から2か月後、ご親族の方より、捜索を中止したとの連絡がありました。
ご協力ありがとうございました。
――――――――――――――――――――――――――――――――
この部分です。
「何でしょうか。特に私は何も気にならないんですが」
これ、なんとなく見ただけだと、掲載から2か月後に浦川さんは発見された。
そう見えます。
「そうですね、私もそう思っていました」
でも、だったらなぜ、浦川さんが“発見されました”という言葉がないのでしょうか。
もし、私がこのサイトの運営者なら、こうは書かないと思うんです。
あくまでこのサイトは、行方不明者を発見するためのサイトです。
であれば、捜索を中止したという結果が曖昧な書き方ではなく、はっきりと発見されたことを報告すると思うんです。
「ということは、見つかっていないということですか・・・?」
それであれば、捜索を中止しますの意味が分かりません。
見つかっていないのに、捜索をやめることはないでしょう。
少なくとも、このメッセージを記入するご家族なら。
「どういうことなんでしょうか」
これは、あくまで私の憶測です。
事実でもありませんし、真実はもっと簡単なことなのかもしれませんが・・・
浦川さんご家族は、
“もう2度と帰ってこないことに気付いてしまった”
と、考えられないでしょうか。
「だから、捜索を中止した」
そうです。であれば納得がいくんです。
「遺体を発見したとか?」
いいえ。遺体が見つかった場合よっぽどのことがない場合、ニュースや新聞などで報道されます。
しかし、『浦川均』という人名を検索したところ、発見されたというような記事は発見できませんでした。
「遺体もないのに、二度と帰ってこないことに気付く・・・」
はい、そうです。ではなぜ、そう気づいたのか。
それは、
二度と帰ってこない“理由”に気付いてしまった
ということです。
「これってやっぱり事件なんでしょうか」
その線で間違いないと思います。
このあと、一緒に警察署に行って、いろいろ聞いてみませんか?
もし、刑事事件として追いかけているのなら今、吉岡さんが知らない情報も持っているかもしれません。
「そうですね、聞いてみたいです」
ただ一つ、その前にお伝えしておきたいことがあります
「なんですか?」
これは、もしかしたらの話ですので、あまり真に受けずに聞いてください。
この一連の失踪事件を警察が、見て見ぬふりをしている可能性があります。
「見て見ぬふり・・・?」
はい、ずっと気になっていたんですが、連続失踪事件としてこれほど住民にとって恐怖に感じる状況なのに、この2日間、パトロールや警備に出ている警察官を一人も見ていません。
「確かに、私も見たことがありません」
長年住んでいて見たことがないというのは、そういう事なのでしょう
どちらにせよ、警察は何かを知っている可能性が高いです。
しかし、味方かどうかはわかりません。
それを理解したうえで向かいましょう。
「わかりました」
もしかしたらもう、後には戻れないことになるかもしれません。
その覚悟はありますか?
「はい、大丈夫です」
では行きましょう
我々は、ファミレスを出てタクシーに乗り込んだ
「店長、あの人達資料広げて何してるんですか?」
「いや、わからん。探偵ごっこでもしてるんじゃないのか」
「結構年の差もありましたけど」
「お客さんの事だ、気にしなくていい。それより、トイレの清掃の時間だよ」
「あ、忘れてました。やってきます」
「くそ、気付きやがったか」
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