ゴブリンはオオコボルトを探します2

 まるで生活感を出すためだけ半端に家具を用意したような奇妙さが怖いような気味の悪さを感じさせるのである。

 せめて窓ぐらい開くようにすればいいのにと思う。


 開いたところで外も岩山の中なので意味はないけれど明らかに開かない窓枠の太い窓は違和感も大きい。


「つまりはここは人が住んでいた場所ではなくて、住んでいたように見せかけている場所ということですか?」


「その通りだな」


 カワーヌは察しがいい。

 ドゥゼアの説明で周りの状況を察したようだった。


「なんだってそんなことを?」


「俺は知らん。作ったやつに聞くことだな。生きてればの話だが」


「まあ……そうですよね」


「だがおそらくカモフラージュだろうな」


 家があって一見生活感がある。

 それだけでも何かを怪しまれることがなくなるという効果はあるだろう。


 もしかしたら本当にただの入り口かもしれない。

 家の形をしているだけで入り口を隠せるならどんな形でもよかった可能性がある。


 多くの人が挑戦して帰ってこなかったというが帰ってこなかった冒険者の荷物や死体などの痕跡もない。

 少なくともこの家の中では死んでいないと部屋を巡りながらドゥゼアは思った。


 一階の全ての部屋を回ってみたがどれも全く同じ。

 冒険者がいじったのか多少動いていた家具もあったが置いてあるものも場所も基本的には変わらなかった。


 部屋も等間隔で並んでいるし下手するとどこの部屋に行ったのか分からなくなりそうなぐらいだった。


「ここか」


「壁が開いてるね」


 二階も代わり映えのしない部屋を巡って端の部屋に着いた。

 家具などは他の部屋と変わりないのに壁が開いていて奥に空間が広がっている。


 閉める人もいないのだから壁が開きっぱなしになっている。

 どうやらここからが本格的な遺跡の入り口のようだと冷たく流れてくる空気を感じながらドゥゼアは目を細めた。


「行くぞ」


 ここまできて怖気付くことはない。

 ドゥゼアたちは壁の中に入っていく。


 入って程なくして下に降りていく階段があって慎重に降りていく。

 ユリディカが力をもらった古代遺跡では階段に罠があった。


 あんなものがもしあるようならかなり危険なので壁や床の痕跡を見落とさないようにする。

 罠があるような痕跡だけでなく先に人が入っているなら罠にかかった痕跡があってもおかしくない。


 血の痕跡なんかがあれば罠があるのだと分かりやすい。


「長い」


「長いですねぇ」


 どれだけ降りてきたのか。

 思わずレビスが階段の長さに文句を呟いた。


 みんな階段長いなと思っていたのでオルケが同調してため息をついた。

 かなり気を張っているが罠っぽそうな痕跡もなく、多少精神的にも疲れてきた。


「下だ」


 先頭を歩くドッゴが階段の終わりを見た。

 これだけ長く続く階段の終わりとなると気も緩んでしまう。


 より罠に気をつけて下に降りてみたが罠はなかった。


「これで終わりじゃなさそうだな」


 階段に罠もなかったので分かっていた。

 今度は通路が続いている。


 魔道具のカンテラを高く上げてみても光は遠くまで届かないので先を見通すことはできない。


「分岐があるな」


 とりあえず歩いていくと道が左右に分かれていた。


「どっちでしょうか……」


「右だ」


「えっ?」


 一見してなんの変哲もない分かれ道でどちらが正しい道なのか分からないとカワーヌは左右の道を覗き込んだりしていた。

 右だと断じられてカワーヌは驚いたように振り返ってドゥゼアのことを見た。


 改めて右の道と左の道を見比べるけれどカワーヌに違いは分からない。


「よく見ろ、角のところのだ」


「角のところ……あっ!」


「なんか傷がついてるね」


「本当だ」


 ドゥゼアに言われて分かれ道の角をみんなして見る。

 よく見てみると角のところに細い傷がいくつもついている。


 ナイフや剣の先でつけたような細長い傷である。

 左の道の角に目を向けてみるとそちらにも傷があった。


「右の方が傷が多い。右に進んだ人が多いということだ」


 傷は自然にできたものではない。

 冒険者がつけていったものである。


 こうした傷は冒険者の知恵の一つで、こうした分かれ道などでどちらにいったのか迷子にならないようにつけていくものなのだ。

 左よりも右の方が傷が多い。


 ということは右に行った人が多いということになる。


「明らかに右の方が傷が多い」


 どちらに進んでも同じなら傷の数はそんなに差が出ない。

 なのに右の方ばかり傷が多いのにはワケがある。


「左は行き止まりか、何か理由があって進めなくなっているんだろう」


 左に進めない理由がある。

 だから戻ってきた人が改めて右の角に傷をつけて進んでいくので傷が左よりも増えていくのだ。


 つまりは進むべきは右なのである。

 ドゥゼアも迷子にならないように角に傷をつける。


 傷は重なって分からなくならないように上へ上へと続いている。

 一番上の傷はゴブリン身長のドゥゼアでは大変な位置にまであるので逆に床ギリギリの下につけてやった。


 こうして過去にここに入ってきた冒険者の痕跡も利用させてもらう。


「ドゥゼアさんは魔物……なんですよね?」


「そうだ。人に見えるか?」


「いえ……そうではなくて」


 カワーヌが不思議そうな目でドゥゼアのことを見ている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る