ゴブリンは不思議な遺跡に挑みます5
必要な食料などはカワーヌとドッゴで用意してくれることになった。
大きくて邪魔になりそうなテントや遺跡の中に持っていけない馬車などは商人ギルドに預けて、手で持っていける物だけ詰め込む。
といっても必要なものなんて食料ぐらいのものなので日持ちするものを多めに持っていく。
デカーヌが連れていった冒険者が生きている可能性もある。
その時のために食料品は多めがいいのだ。
動くのは気が変わらないうちに早めがいいので荷物の準備ができたら出発した。
「ここが遺跡です」
「遺跡……というか山だな」
荷物を背負って丸一日ほど移動したところに噂の遺跡はあった。
パッと見た感じでは遺跡というよりも山に見えた。
「本当に遺跡なんてあるんですか?」
「山の中腹らへんに入り口があるんです。かなり昔いきなり崩れて入り口が出てきたそうなんです」
「ほぇ〜」
ユリディカが抜けた声を出しながら遺跡の入り口が見えないか体を伸ばしている。
しかし下からでは遺跡の入り口は見えないようだ。
「山の中に作ったというよりも元々あった建物を魔法で覆い隠したような感じですね」
確かにとドゥゼアも思った。
森の中に急に山が出てきた。
ボケっとしていると気づかないがよくよく周りの地形と照らし合わせて考えると目の前の山には少し不自然さを覚える。
土の魔法が何かで建物を覆って山にして隠してしまったのだ。
長い時間が経って覆った土にも草がむして木々が生えて見た目上は普通の山になっている。
ただ逆に時間が経ったことで弱くなったところが出てきて入り口が発見された。
「だが入り口が高い位置にあるということは元々小高い丘ぐらいはあったのかもな」
莫大な魔力を持て余していたとしても山を丸々一つ作るのは大変である。
入り口の位置から考えても遺跡の下には何かあったのかもしれないとドゥゼアは考えていた。
「山を登れば入り口もすぐに見えてきます」
そう言ったカワーヌの言う通りに山を登り始めて程なくしてポッカリと空いた穴が先の方に見えてきた。
「あそこが入り口です」
下から見ると小さい穴にも見えたけれど近づいてみると意外と穴も大きかった。
「焚き火の跡があるな」
少しばかり日は経っていそうだけどそんなに古くはなさそうな焚き火の跡が入り口の穴横にあった。
おそらくデカーヌたちが野営した時のものである。
「俺たちもここで休もう」
「えっ!?」
中に入る気満々だったカワーヌが驚く。
日はまだ高く、休むには早すぎる時間帯である。
「気持ちは分かるが焦っちゃダメだ」
ゴブリンやコボルトは比較的人に近いリズムで生活する。
朝起きて昼に活動して夜に寝る。
夜行性だったり時間に囚われない生活の魔物もいるけれど魔物だとドゥゼアも基本的に日中活動していた。
まだ日は高いが朝とは言えない。
今から遺跡に入ると短い活動時間で安全な場所があるかも分からない遺跡の中で休むことになる。
遺跡までの移動で多少の疲労もある。
日の入らない遺跡に入ってしまうと時間の感覚も狂う。
早くともしっかり休んで朝から遺跡に入っていくことが結果的に一番安全に助けに行けることになるのである。
「焦りは禁物だ。飯でも食べて休むんだ」
ドゥゼアが行かなければカワーヌも行くことはできない。
焦る気持ちを抑えてカワーヌは荷物を下ろして地面に座った。
「一つ聞いていいか?」
「なんですか?」
「お前とデカーヌの関係はいいんだが、そのドッゴってやつとお前らの関係はなんなんだ?」
話の感じからしてカワーヌとデカーヌは同じ群れにいた個体なのだろう。
そこにオオコボルトであるドッゴはどんな関係で仲間となっているのかドゥゼアは気になっていた。
「……いい」
ドゥゼアとカワーヌが視線を向けるとドッゴは小さく頷いた。
話しても大丈夫だということらしい。
「ドッゴさんは元々別の群れにいたんです。僕たちの群れは人間に目をつけられて倒されてしまいました。僕たちはこの能力のおかげでなんとか生き残ってフラフラと旅をしてました。その時に出会ったのがドッゴさんです」
ドッゴは寡黙であまり言葉を発さない。
言われた仕事はきっちりとこなすし割と良いやつな印象をドゥゼアは持っている。
「ええと……僕たちと会った時にはドッゴさんはホブコボルトだったんです。ドッゴさんの群れの中にはもう一体ホブコボルトがいて群れのリーダー争いが起きたんです」
「それでドッゴは……」
「群れを追われてしまったんです」
元々気性として穏やかめなドッゴは群れの中におけるリーダー争いに負けてしまった。
そして群れを追放されてしまったのである。
バカなことをするものだとドゥゼアは思う。
ドゥゼアだったなら群れに留め置かせてこき使う。
「そんな時に僕たちと出会いまして、行く当てならない一緒に来ないかとなったんです」
その当時はデカーヌもカワーヌも名前すらなく、ただのコボルトであった。
オオコボルトならコボルトにとって頼もしい味方となってくれるだろうなんて考えもあった。
ドッゴにとっても一人は寂しかったので二人の提案を受けて一緒に行動することにしたのであった。
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