ゴブリンは不思議な遺跡に挑みます4

 何かの偶然でカワーヌはそうした魔法の効果が込められた魔道具を拾ったのだ。

 そしてデカーヌとその効果を分かち合うことになった。


 カワーヌが生きている限りデカーヌは死なない。

 ついでに言えばなんとなく感覚も共有しているらしく、デカーヌは危険なことはあったみたいだが怪我もないようだ。


 遺跡に入るにあたって当然危険は予測される。

 カワーヌとドッゴを置いていったのはデカーヌが何があっても生き残れるようにするためであった。


「話は分かった。だがあまり状況は良さそうじゃないな」


 生きているだろう、生きていられるだろうでどっしりと構えているようにはとても見えない。


「……どうにも少し前からデカーヌさんが動いていなくて」

 

 死なないからといって遺跡を攻略できたり帰ってこられたりするのはまた別の話になる。

 死なないのでどんな状態になっても時間さえあれば怪我が治癒するというとてつもなく不思議な状態で、動かないということはそれだけの大怪我を負ったか自ら動かないでいるかのどちらかになる。


 大怪我をしていればカワーヌには分かる。

 となるとデカーヌがどういうわけなのか自ら動かないでいるのだ。


 罠にかかった、危険があるなど動けない理由はいくつかある。

 どんな理由にしろデカーヌでは対処できない何かがあることは間違いないのだ。


 だからカワーヌは焦っていた。

 デカーヌを助けに行かなきゃいけない。


「ですが誰も助けてくれなくて……」


 泣きそうな顔をしてカワーヌがうなだれた。

 タダで助けてくれと言っているのではない。


 冒険者ギルドに依頼して同行してくれる冒険者を募っていたのだが一切誰も引き受けてくれないのである。

 あると認知されているのに遺跡が未踏破となっているのには理由がある。


 誰も足を踏み入れたことがないから未踏破なのではなく、誰も帰ってきていないから未踏破となっているのだ。

 金になるかも分からない。


 ただ命を失うだけの可能性が高いのに引き受けてくれる冒険者の方が少ない。

 デカーヌは一人で行ったのではなく冒険者を連れていった。


 その人たちも優秀な人たちだったので他の冒険者たちが二の足を踏んでいる状況がある。

 あとはカワーヌが魔人商人であり、人間ではないというところもあるのだろうとドゥゼアは思う。


「もうこうなったら自分たちだけでいくしか……」


 デカーヌを見捨てることはできない。

 けれど他に助けを得られないのならカワーヌとドッゴだけで行くしかないのである。


「……大変だな」


 同情はする。

 しかしドゥゼアとて危険に自ら首を突っ込みたくはなく、当たり障りのない返事をして話を濁す。


「…………魔物」


「なんだ?」


 ここはカワーヌとドッゴに頑張ってもらってドゥゼアはまた別の魔人商人を探してみようと考えていた。

 ふとカワーヌが顔を上げてドゥゼアの顔をじっと見る。


「あなたは……魔人、ではないですよね?」


「俺か? 違う。人の言葉は話せないし町に現れたら石投げられるだろうな」


「……僕たちを助けてくれませんか?」


「なんだと?」


 カワーヌがドゥゼアに助けを求めるような気配はなかった。

 ユリディカやオルケはともかくゴブリンのドゥゼアが遺跡に行って役に立つとはカワーヌも思っていなかったからだ。


 しかし急にカワーヌはドゥゼアに助けを求めた。

 何がカワーヌの心情に変化を与えたのか分からなくてドゥゼアは眉をひそめた。


「なぜ俺に助けを求める?」


 悪いがドゥゼアが助けを求める立場ならゴブリンに助けは求めない。


「思い出したんです」


「思い出しただと? 何をだ?」


「昔言われたことがあるんです」


 カワーヌは何かを思い出すように目を閉じた。


「ずっと前、僕かデカーヌさん、あるいは両方が命の危機にさらされるような状況に陥ると。その時に魔物に助けを求めなさいと言われたんです」


「誰がそんなことを……」


「ペクリャーナさん……未来を見る魔人の方です」


 表情にこそ出さないがドゥゼアは内心驚いていた。

 探していた未来を見る魔人の話がカワーヌから飛び出してきた。


「これまで多くのピンチがありました。ですが助けを求められるような魔物が目の前に現れたことはありません」


 今回を除いては、とカワーヌはドゥゼアの目を見つめた。

 そんな話をされたことも忘れていたがなぜか突然フラッシュバックするように思い出した。


 目の前には話が通じる不思議なゴブリンがいる。

 これは偶然ではないとカワーヌは直感した。


「どうか、お願いします! 僕たちを助けてください!」


 カワーヌは地面に伏せるようにして頭を下げた。

 口にこそ出さないが、レビスたちのどうするのかという視線が突き刺さっているのをドゥゼアは感じている。


「望むなら全部差し出します! 僕が持ってるもの……僕自身だって!」


 これまで命を分け合って生きてきた相棒。

 もはや自分の半身言っても過言ではない。


「……はぁ……」


 他を当たってくれ。

 そう言って見捨てられたら楽だったかもしれない。


 けれどドゥゼアは本気で頼まれてしまうと弱いところがある。


「分かった。お前は俺のものだ」


 将来国を興すなら商人がいた方がいい。

 未来を見る魔人についても知っていそうだしドゥゼアはデカーヌを助けに行ってやることにした。


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