ゴブリンは次にどうするか悩みます

 南の国に関しては大将でもあった王子を捕らえていた。

 そのために侵略の責任を問い、捕らえた兵士や王子の身柄引き渡し交渉のために送られることになった獣人に同行してドゥゼアも南下した。


 本来なら相手の国から人を送るべきなのだけど獣人の国も内情はまだ安定しきっていない。

 特に南は猫族の裏切りがあったので未だに混乱も大きく、相手にそんな中身を見せる必要はなかった。


 さらに人間をもう国内に入れたくないという思いもあったので獣人側から人を送ったのである。

 そして南にある国境付近で獣人に見送られてドゥゼアたちは獣人と別れて出発した。


 獣人の国、あるいは属国とした人間の国で勢力を作ってもいいのではないかという声もあった。

 悪くはない。


 獣人の国ならば安全に魔物を集められる可能性はある。

 だが同時にリスクもある。


 魔物をコントロールできるか分からないのだ。

 もしかしたら獣人に被害が及ぶ可能性がある。


 さらには魔物が集まった集団を容認しているとなれば他の国から獣人たちが非難されてしまう要因になる。

 おそらくカジイラが守ってくれようとするがせっかく落ち着いた獣人にまた争いのタネを持ち込むわけにはいかない。


 だから獣人の国を離れて魔物の国を興すつもりであった。


『未来を見る魔人か……』


 もう一つ獣人の国を離れた理由があった。

 炎虎族の獣人から不思議な話を聞いた。


 なんでも未来を見ることができる特殊な能力を持った魔人がいるらしい。

 だからなんだという話ではあるのだがもしかしたら魔王の復活などを見られるかもしれない。


 魔王が本当に復活するのか、あるいはその具体的な時期でも分かれば備えをしておける。

 あくまでも炎虎族も風の噂で聞いたもので本当にそんな力を持った魔人がいるのかは分からない。


 だが旅をするなら頭の片隅にでも覚えておいて探してみようとなった。


「これからどうするの?」


「ひとまず獣人の国から離れよう」


 魔物の国を興して獣人の国と友好を結ぼうと考えた時に獣人の国と近い方がいいのはもちろんなのだがジジイの恐怖がある。

 ジジイがどこに行ったのか分からない以上獣人の国に留まり続けるのは危険が伴う。


 獣人たちのために引きつけようという気はないがどうせ狙われているのはドゥゼアだ。

 ドゥゼアがいると獣人に危険が及ぶなら離れるべきである。


 だからジジイがいる可能性が大きそうな北側ではなく南側から移動を始めた。


「しばらくはぶらっとしよう。手頃なゴブリンの群れでも見つけたら群れを乗っ取って魔物王国の足がかりにする」


 目指すは魔王を倒せる魔物の国づくり。

 獣人も魔王と戦うのを手伝ってくれるらしいので魔王ほど国が強くなくてもいい。


 未来が見える魔人も獣人の国近くではないらしいので探しに行く必要もある。


「まあどこ行くかは悩ましいな」


 魔物の国を興す、未来を見る魔人を探す、あるいは魔王を倒す。

 どれにしても長期的な目標である。


 短期的な目標として次にどうするかというところがまだフワッとしている。

 実際旅に出てみなきゃ見えてこないものもの多いのでこうしてとりあえず旅に出てみた。


「それでも俺たちは変わらない。いつも通りのんびりと旅をしていこう」


 何であれ焦ってもできることなどない。

 これまでぼんやりとしていた長期的な目標がハッキリとしたので今できることを見つけつつ遠い目標を達成できるように足掻いていくしかないのだ。


「またどっかにダンジョンでもあればな」


 初期の頃に比べればドゥゼアは遥かに強くなった。

 それでもジジイの足元に及ぶぐらいだった。


 もっと強くなりたい。

 魔物として進化をする方法が不明な以上は他の方法で強くなるしかない。


 アイテム頼りなのはあまり良くないかもしれないが魔道具を集めてより強さを高めることも必要である。


「……魔道具なんですけど」


「ん? 魔道具に心当たりがあるのか?」


「魔塔なんてどうですか?」


 オルケが歩きながら重たい顔をして考えことをドゥゼアは気づいていた。

 何かがあるのだろうと放っておいたけれどようやく口を開いた。


「魔塔だと?」


「魔塔はありとあらゆる魔道具を集めています。作ってもいます。ドゥゼアの役に立ちそうな魔道具もたくさんあります」


「なるほどな」


 オルケは元人間であった。

 オルケを魔物にしたリッチであるフォダエも元々人間であり、フォダエに師事する形でオルケも魔塔にいたのである。


「だが魔道具くださいって言ってくれるような連中じゃないだろ?」


「それはそうですが……」


「ちゃんとお前の復讐も忘れていないさ。そう焦ることはない」


「うっ……」


 オルケとフォダエをこのようにしたのは魔塔が悪く、復讐を手伝ってほしいと言われていた。

 当然のことながらそれは忘れていない。


 けれど魔塔というのは魔法を研究する機関であり、魔法に長けた魔法使いが集まる場所でもある。

 簡単に侵入できる場所じゃないのだ。


 少し強くなったからといってまだまだドゥゼアたちにとっては困難だと言わざるを得ない。


「だがまあ……魔道具はありそうだな」

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