ゴブリンはジジイと戦います8
初めてまともに攻撃が当たった。
ジジイがぶっ飛んでいって地面を転がる。
『ドゥゼア、大丈夫か?』
「これが大丈夫に見えるならいっぺん死んだほうがいいぜ」
『もう死んでる。そんな冗談言えるなら大丈夫だな』
ジジイに切り裂かれて召喚が解除されたカジオの声がドゥゼアの頭に響く。
ドゥゼアは妙な高揚感を覚えていた。
始めて人間を食べたからだろうか、それとも戦いから来るものだろうか。
転がっていった衝撃で土埃が舞い上がってしまいジジイの様子は分からない。
だが来るなら来いと思った。
また噛みついてやるからと気分は悪くない。
『やはり……ゴブリンは滅ぼさねばならない……』
土埃が落ち着いてくると立ち上るような黒い魔力をまとったジジイの姿が見えてきた。
ドゥゼアも満身創痍であるが頭から血を流しているジジイも限界は近そうに見えた。
『覚えておけ……俺はお前らを許さない』
『……! 全員で飛びかかれ!』
ジジイは大きく宙へジャンプした。
それ遅れて獣人たちが襲いかかったがジジイは獣人たちを飛び越えて人間の軍の方に向かって走っていく。
『追いかけろ! ……くそっ!』
「逃げた……のか」
ゴブリンに殺されるぐらいならとジジイは撤退を選んだ。
生きていればやり直せる。
次こそはドゥゼアのことを殺してみせると誓ってジジイは最後の力を振り絞って獣人の包囲を突破した。
『ドゥゼアの話を聞いていて正解だったな……』
遠くから見ていたカジイラは渋い顔をした。
真正面からジジイと戦っていたらどれほどの被害が出ていたか分からない。
人数的に劣る状況下で一騎当千の戦士が前に出てきて無双してしまうと戦場全体にも大きな影響を与えうる。
パラファンとドゥゼアたちという限られた戦力で上手くジジイと戦い、影響を最小限に抑えてくれたことは大きな働きであった。
ドゥゼアもただの囮には収まらない。
パラファンだけだったら倒しきれずに今頃内側からジジイにかき乱されていた可用性もある。
『お前のいう通り俺は世界を知らなすぎたな』
カジイラの隣に立つ炎虎族の男は目を細めた。
まともに正面から戦えばドゥゼアのことなど相手にならないだろう。
しかし環境を使い、作戦を立て、執念で戦うドゥゼアの強さはただ戦っただけでは分からないものがある。
今まで森の奥に引っ込んでいた炎虎族の中にいたのなら知り得ない強さを目の当たりにした。
カジイラも王となるには武力が足りない。
しかし冷たい態度を取られようと断られようと獣人たちのために炎虎族の説得を繰り返したカジイラにはカジイラの強さがある。
単なる個としてだけではない強さがあると知り、炎虎族の男はドゥゼアに敬意を覚えた。
『しかし逃してしまったな……』
『手負いの獣ほど厄介なものはない。下手に追いかけない方が正しい判断だったかもしれない』
それに人間を制圧できれば捕まえられるだろうとカジイラは思った。
『……あれはどういう状況だ?』
パラファンとドゥゼアが退いてくる。
治療をするのにも安全なところに行ったほうがいい。
ただドゥゼアにはもう動くほどの元気はなかったのだが戦いを経た英雄を担架で運ばせるわけにはいかないとパラファンは最後に一肌脱いだ。
ドゥゼアを肩に乗せて歩いて来ているのだ。
なんというべきか、不思議な光景であるとカジイラは思った。
魔物であるドゥゼアに対して頑なだったパラファンがドゥゼアのことを肩に乗せて戻ってきている。
本来ならあり得ない光景。
『プフッ……それにしてもなんだか……面白いな』
降ろしてくれ。
ドゥゼアがそう思いながらもパルファンは遠慮するなと言って降ろしてくれない。
「揺れると体が痛む……」
みるみる移動できる速度はいいのだけどパルファンの体は安定性が悪い。
一歩ごとに非常に揺れて体に響く。
『ガハハっ、獣人の英雄だ!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます