ゴブリンは成長します5

「レビスゥ!」


「ユリディカ……」


 心配していたユリディカがレビスに抱きついた。


「心配したんだからぁ!」


「う……」


 レビスの体が悲鳴をあげるほどに抱きしめるユリディカだけどレビスも気持ちは分かるから悪い気はしない。


「ユリディカ、レビスが死んじまう」


「はっ!

 ごめんね!」


 ドゥゼアに注意されて力は弱めるけれど抱きしめるのはやめない。


「何があったか分かるか?」


 おそらく魔道具が原因であるということはわかるのだけどそれで何が起きたのかまでは分かっていない。


「耳が熱くなって……そしたら今度は体が熱くなった」


「今は?」


「今は平気」


「そうか。

 んー、なんだ、すごく力が強くなったとかそういうことはないか?」


「力?」


 レビスは槍を曲げた。

 金属製の槍を曲げるのは容易なことではなく、さらにただ曲げるのでもなくぐにゃりと変な形に曲がってしまっている。


 魔道具が原因でとんでもない力を発揮できるようになったのかもしれないとドゥゼアは考えていた。

 そうでなければレビスの力では槍など曲げることができない。


 そう言われてレビスは近くにあった石を手に取った。

 グッと力を込めてみるけれど石にはまるで変化がない。


「……いつもと変わらない」


「んー、そうか」


 何かの発動条件があるのかもしれない。

 ドゥゼアはレビスが体調を崩した時の状況を思い出してみるけれど何かの戦いの最中でもなかった。


 休憩中でドゥゼアは地図を眺めていたしレビスが特別トリガーとなりそうな行動をしているわけでもない。

 こうした異常には何かの原因があるはず。


 ドゥゼアは腕を組んで考えるけれど全く原因が分からない。


「ドゥゼアからもらった槍……」


 ドゥゼアがレビスのために選んでくれた槍。

 ようやく手に馴染み、槍さばきも様になってきたのにこんな姿になってしまってと悲しげに視線を落とす。


 どうにか直せないかなと歪んだ部分を持って力を加えてみた。


「わっ!」


 すると槍がまたぐにゃりと曲がる。


「えっ……」


「お、おい。

 どうやったそれ?」


「……わかんない」


 流石のドゥゼアもその様子に目を丸くした。

 そんなに力を入れた風でもなかった。


 なのにいとも簡単に槍が曲がってしまった。


「まるで……」


 金属を操っているみたいだ。

 その瞬間ドゥゼアの中で点と点が結びついた。


 あの時レビスはおやつ代わりにアイアンテールウィーゼルの魔石を食べていた。

 もしかしたらと可能性が浮かんできた。


「レビス」


「なに?」


「これを」


 ドゥゼアは荷物の中からアイアンテールウィーゼルがドロップした金属のカケラを投げ渡した。


「そうだな……細長い棒にしてみてくれないか。

 こうやって左右に引っ張る感じで」


「うん」


 レビスはドゥゼアがやってみせたように金属のカケラを摘んで左右に引っ張った。

 すると金属の塊がぐにょんと伸びた。


「もうちょっと棒になるようにイメージして……そう」


 形を整えるように手のひらで転がすと金属のカケラが小さい棒になってしまった。


「え、え、どうやってるの!?」


 ユリディカが金属の棒を触ってみるけれど固い。


「グニニ……」


 ユリディカが相当力を入れれば真ん中から少し曲がるけれどレビスは熱した飴のように簡単に金属の形を変えていた。


「何でか分かるの?」


 ユリディカの頭にはハテナがいっぱいであるがドゥゼアには何かわかっていそうだとオルケは思った。


「アイアンテールウィーゼルの能力だ」


「ええ?

 でもレビスはアイアンテールウィーゼルじゃないよ?」


「そうだな」


「んー?」


 オルケも訳が分からないと首を傾げる。


「たぶんだけど魔道具の能力だろう」


 魔道具によってアイアンテールウィーゼルの能力をレビスが使えるようになった。

 そうドゥゼアは推測した。


 一瞬魔道具そのものの能力として金属を操るものなのかとも考えたのだけれどこのタイミングで急にそのような能力に目覚めることはおかしい。

 だとするとまだ少しキッカケについては分からないが何かの要因からアイアンテールウィーゼルの能力を使えるようになったと考えるのが自然である。


 そうなった時にレビス自身にそうした能力はないので怪しいのは耳に付けている魔道具である。

 どういうわけかこの魔道具はアイアンテールウィーゼルの能力をコピーしてレビスがそれを使えるようにしてくれている。


 発動が初めてで、能力をレビスに適応するために魔道具やレビス自身が熱くなって不調を起こしたのだと考えると筋は通る。


「魔物の能力をコピーする魔道具?

 だとしたらなぜ今……そしてなんでアイアンテールウィーゼルなのか」


 魔石を食べることが必要なのか。

 でもそうだとしてもこれまでもそれなりに倒した魔物の魔石を食べてはきている。


 どうして今になってアイアンテールウィーゼルなのか理解ができずにいる。


「怒ってる?」


「ん?

 いや、怒ってないぞ。


 不思議なものだと考えていたんだ」


 眉間にシワを寄せて考えるドゥゼアをレビスが見ていた。

 自分が悪いことをしてしまったのかと不安に思っていた。


 まあ理由を考えても分からないのならどうでもいいかと疑問を頭の隅に追いやる。

 そのうち何か分かるかもしれない。


 今はレビスが魔道具の力で新たな能力を手に入れた。

 これが大事なのである。

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