ゴブリンは成長します2
木立の中を見てみるが他には特に何もない。
お宝がそう簡単に見つかるとはドゥゼアも思っていないのでショックはない。
「ユリディカ、爪もだ、気をつけろ!」
「えっ、ひょわ!」
大体のダンジョンでは奥に進むほど敵は強くなる。
最初から最後まで同じ強さの同じ魔物だけ出てくるという場合の方が少ないぐらいである。
このダンジョンも探索範囲を広げて出入り口から遠くなると魔物に変化があった。
アイアンテールウィーゼルの金属化した尻尾をチクートで防いだユリディカ。
そのままアイアンテールウィーゼルが空中で身をひるがえしてユリディカを爪で切り裂こうとした。
なんとかユリディカは爪を回避したがその爪もなんと金属で覆われていた。
尻尾は未だに金属で固いままであり尻尾と爪を同時に金属で覆っているのだ。
今までなら覆えて1箇所であったのに2箇所に増えた。
あり得ないことではない。
アイアンテールウィーゼルは体に金属を溜め込んでいく。
長く生きれば生きるほど溜め込まれた金属は多くなり体を覆える量も増えていく。
ダンジョンを進むことで年を重ねてより金属を溜め込んだアイアンテールウィーゼルが出てきたということなのだろう。
「にょわー!」
けれどこちらとて経験を積んでいる。
アイアンテールウィーゼルの金属の移動は意外と早い。
けれどそれだって瞬間移動ではない。
レビスは素早い二連突によってアイアンテールウィーゼルを倒した。
動体視力や感覚もある程度優れたアイアンテールウィーゼルは一撃目を金属で防ぐことは出来ても二撃目には対応が出来ない。
ほんのわずかにタイミングをずらしてユリディカが両手の爪でアイアンテールウィーゼルを切りつける。
右の爪は防がれるが左の爪は間に合わない。
金属の量的には防げるのだろうけど二撃目に対する対応が遅くて防御が間に合っていないのである。
「どうするんだこれ……」
今回のドロップは金属のカケラだけだった。
一応拾って集めてはいるのだけど売り先もないし、集まってくると意外とかさばる。
金属なのでそれなりに重量もあるし処分に困る。
誰もいない洞窟なので適当に捨てておいてもいいのだけどどこかで活用できないかと勿体無く感じてしまう。
「これは食べられないの?」
「食ってもいいが腹壊すぞ」
「うげ……マズイ」
魔石もいけるなら金属も、なんてちょっと思ったオルケ。
試しに口に入れてみたけれど当然のことながら美味しくなんてない。
すぐにぺっと吐き出す。
「魔石がいい」
「そうだね……」
レビスの意見にオルケも賛同する。
さすがに吐き出した金属のカケラはなんか嫌なので拾わずに放置しておくことにした。
ちょいちょい魔力や体力回復のために魔石もポリポリしながらアイアンテールウィーゼルを倒して行く。
魔石のドロップ率も意外と高いのでおやつ代わりにしてもなんの問題もない。
人間の冒険者なら魔石は貴重な戦利品として売り払うので取っておくのだろうけど売るつもりもないのでまだ遠慮なく食べる。
「厄介そうだな……全員でしっかり倒すぞ!」
「りょーかい!」
徐々にと行動範囲を広げて行くと今度は尻尾、爪、それに体の一部が金属で覆われているアイアンテールウィーゼルが出てきた。
段々と金属の割合が増えている。
このまま行くとメタリックな全身金属アイアンテールウィーゼルが出てくるのではないかとすらドゥゼアは思っていた。
幸い群れを成して出てくることはないのでみんなでしっかりと倒していく。
「ふう……それなりに進んだな」
周りの環境の変化が乏しくてどれだけ奥に来たのか分かりにくい。
なのでドゥゼアは知恵を使った。
時々ある木立を目印にすることにした。
出入り口が家の形をしていることを利用して家の入り口方向を北として方角を決めた。
そして荷物に入っていた紙に簡易的に木立の位置を書き込んでどれだけ進んだか記録しておいた。
以前に遺跡で漁った荷物の中にあった紙だけどまだ使えたので一応持っていた。
活用することもないかもしれないと思っていたけれどこんなところで役立ってくれるとは意外だった。
アイアンテールウィーゼルを見る限り出入り口を中心にして一定間隔で層になっている感じで出てくる強さが決まっているようだった。
一層目の1箇所金属アイアンテールウィーゼル、二層目の2箇所金属アイアンテールウィーゼル、三層目に3箇所金属アイアンテールウィーゼルといった具合だ。
境目が明確じゃないのでどこが何層目か分かりにくいけれど何となく分かれている。
「もう少し進むか、それとも戻るか……」
荷物はそれなりに多くなってきた。
肉や金属のカケラ、魔石や皮など丁寧に拾っているのでそれなりにリュックもいっぱいになっていた。
「いや、一度戻るか」
欲を出すと危険。
戻るか悩んだのなら戻っておくべきだろうとドゥゼアは思った。
「ドゥゼア!」
「どうした?」
「レビスが!」
木立の位置を書き込んだだけの地図とも言えない地図を眺めていたドゥゼアに焦ったようなユリディカの声が聞こえてきた。
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