ゴブリンはリッチに協力します8
「手伝って」
氷が砕けて白いリザードマンの体が床に倒れる。
コイチャが白いリザードマンを大の上に横たわらせてその隣にオルケが寝転がる。
「……もう時間がない。
スケルトンもほぼ倒されてしまっているわ」
焦った様子でフォダエは準備を進める。
「もう少し……もう少しだけ時間があれば……」
「……僕が行こう」
「コイチャ?」
「ある程度のことは覚えている……僕は何も守れなかった」
時間稼ぎにコイチャが立候補した。
愛する人を守ろうと残ったコイチャであったがピュアンの状態を見れば逃げ切って平穏に過ごしたとはとても見えない。
分かりきっていた。
でも悔しさもある。
「魔物に身を落として、ピュアンのことすら忘れて、僕は愚かだった」
「そんなこと……!」
「君たちは僕を止めるためにこんなところにまで来て協力してくれているんだろ?
少しでもその恩を返させてくれ」
「私としてはありがたいけど……」
コイチャが意識を取り戻した時点でなぜなのかフォダエの統制は効かなくなっている。
もっと強く強制力を持たせれば支配はできそうだがそこまで無理強いはしない。
「ダメよ!
せっかくコイチャが戻ってきたのに……」
当然のことながらピュアンが反対する。
1人時間稼ぎに行くということはどうなるのか結果は考えずとも分かる。
愛しの人がようやく意識を取り戻したのにまた失うことになるのはピュアンには耐えられなかった。
「ピュアン……君の気持ちも分かる。
でもどうかそんなことを言わないでほしい」
「コ、コイチャ……」
「もう僕はこんな姿だ。
君がしてくれようとしたように倒されるべきなんだ。
でもせめて……人らしく死にたいと思うんだ」
これもまた人が故。
死にたいほどの状態でありながらも生きたいと思ってしまう生存本能も存在しているが一方でどうせ死ぬなら死に意味を持たせたくなる。
ただ殺されるのではなく意味ある死がなんでもない死を人らしくあるものだとたらしめる。
コイチャには何も守ることができず魔物になったという後悔があった。
ドゥゼアたちはただピュアンの願いを受けてコイチャを止めようとしてくれていただけで戦いに巻き込まれてしまった。
そしてフォダエたちは大人しく暮らしていて人も襲わず、あまつさえ生物に戻って最後には穏やかに死にたいという希望まで持っている。
一方で人はどうなのか。
フォダエたちを悪だと決めつけて襲いかかり多くの犠牲者も出している。
人なので冒険者たちの気持ちが分からなくもないが魔物の交流も理解できるようになった今ではただ人の肩ばかり持つ気になれなかった。
コイチャが意識を取り戻したとしてもこのまま何もしないままに終われば意識を取り戻していなくても変わらない。
何かを守ること。
それがコイチャに残された最後の人らしさなのであった。
「そして……1番守りたいのは君だ」
もちろんただわがままで死んでいくだけのつもりはない。
最も大きな理由はこの場にピュアンがいることだ。
たとえ研究が惜しいとしても地下に潜り込めばそれはもう逃げ場がなくなる。
それを分かっているはずなのにフォダエは地下に来た。
そこでコイチャは考えたのだ。
何かしら脱出する方法があるのではないかと。
ならここで時間を稼ぐことはピュアンを守ることにも繋がる。
「コイチャ……」
「ピュアン、分かって……」
「イヤ」
「えっ?」
「私も行くわ」
「しかし……」
「前は色々な事情があって私はあなたを置いていってしまった……
でももうそんなことはしたくない」
後悔しているのはコイチャだけではなかった。
ピュアンも同じく後悔をしていた。
ある種の象徴でもある聖女だったピュアン。
敵に捕まったり殺されてしまったりしては再起は難しくなる。
だから逃げて逃げて、どうにか生き延びようとした。
しかし敵の追っ手が迫ってきて判断を迫られた。
一か八か戦うか、大きなリスクを背負いながらも逃走を続けるか。
その時にコイチャは自分が残り、ピュアンはそれを泣く泣く受け入れた。
「私も行く」
けれどもうそんなことはしない。
「だ、だが」
「知ってるでしょ?
私が言い出したら聞かないってこと」
今はもう何のしがらみもない。
コイチャだけを行かせたりはしない。
「私とあなたは1つ。
もう……絶対に1人でなんか行かせない」
猫の石像とボロボロのスケルトン。
見た目はとても不思議なものであるがその心は誰よりも愛に溢れ、外の冒険者たちよりもよっぽど人らしいとドゥゼアは思った。
「……僕とピュアンで時間を稼ぎます。
どうか目的を果たしてください」
ピュアンはコイチャの頭にしがみつくように乗っかった。
「ドゥゼア、レビス、ユリディカ……あとはここにいないけどバイジェルンも。
ありがとう。
こんなところまで約束を果たそうとしてくれて。
ありがとう……私たちに人らしく死ねる意味をくれて」
「こちらこそ感謝している。
ピュアンにもコイチャにもお世話にはなったからな」
「骨師匠……ありがとうございました」
「ありがとう」
「その時のことも覚えているさ。
僕が役立ったのなら嬉しいよ」
フォダエがせっせと準備を進める中でドゥゼアたちはピュアンとコイチャと別れの挨拶を告げた。
地下から上がっていく2人。
たとえ死んでも2人は共にあり続けることだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます