ゴブリンはスケルトンメイドに会いました2

「あっ、こちらお客様ですからダメですよ!」


 しゃべれるスケルトンの騒ぎを聞きつけて巡回のスケルトンがやってきて剣を抜いたのだけど止められてまた巡回に戻っていった。

 このしゃべれるスケルトンはある程度他のスケルトンに対して統制権が及ぶようである。


「それにしてもここまで来るのも簡単なことじゃなかったでしょう?

 見回りのスケルトンもいますし結構そこら辺にはカエルがいて見つからずに通り抜けるのは難しいと思いますね。


 カエルはそんなに強くないんですが私は生前からカエルが苦手で……

 舌が長いのも気持ち悪いですし表面がヌメヌメしてるのもなんだか。


 声も苦手ですし、食べると意外と美味いだなんて聞きますけど食べる人の気が知れませんよ。

 毒を持つカエルだって……」


 しゃべれるスケルトンは落とした掃除道具を拾うと部屋の掃除を始めた。

 例によってよくしゃべる。


 手を動かしながらドゥゼアたちのリアクションなどお構いなしにひたすらにしゃべるのだ。


「昔私の先輩がカエルを使った料理を食べたと言っていたんですがなんでも鳥肉に似ているだなんて言っていました。

 その時は信じられませんでしたけど今も信じられません。


 鳥肉に似ているって言っても鳥肉も色々ですよね。

 以前に見た鳥はこれまた見事な色で……」


「す、少しいいか?」


 このままでは話を聞かされすぎておかしくなりそう。

 ドゥゼアが勇気を持ってしゃべれるスケルトンの話に割り込む。


「はい、なんでしょうか?」


「その……あなたに名前などはありますか?」


 見た目にはただのスケルトンである。

 他のスケルトンとの違いもなく、しゃべれるスケルトンをスケルトンと呼んでもいいのか謎である。


「私はオルケーシェン。

 オルケとでも呼んでください」


「じゃあ、オルケ。

 リッチ……君のご主人様について聞かせて欲しいんだけど」


「私の答えられる範囲であれば」


「とりあえずリッチはいるんだよな?」


「はい。

 ご主人様はリッチですね。


 見た目そんなに違いがないのに私はスケルトンでご主人様はリッチなのはずるいと思いますがまあ私はご主人様にスケルトンとして復活させていただいた身なのでしょうがありません。

 ですがどうせなら私もリッチとして華々しく」


「待った」


 このまま放っておけばまた話が戻らなくなってしまう。


「出かけていると聞いたが目的を聞いてもいいか?」


「アンデッドを集めるためです」


「アンデッドを集めるだと?

 なんだってそんなことを」


 集めて回っていることは知っている。

 ただその理由が分からないのである。


「人間に対抗するためです」


「……なにがあった?」


 リッチは脅威である。

 脅威であるが故に人間側もリッチに対しては及び腰になる。


 リッチが手を出してこない限り関わりたくないというのが人間側の本音である。

 なんとなく見た感じでは人里で暴れるタイプのリッチには思えない。


「人の町でも破壊したのか?」


「いいえ、そのようなことご主人様はしません」


 一応聞いてみるけれどやはり手は出していないようだ。

 ならばなぜ人間に対抗する必要があるのか。


「いきなり人間が攻めてきたのです。

 こちらは大人しく暮らしているというのに……


 前回も激しく戦いなんとか追い返しましたが次回は難しいかもしれません。

 なのでご主人様は少しでも戦力を確保するためにお出かけなさいました」


「なるほどね」


 そこで目をつけたのがコイチャだった。

 同様のスケルトンの中でも強い。


 戦力としては欲しいスケルトンであろうことは想像に難くない。


「なんだか色々複雑な事情がありそうだな」


「色々大変なのです……」


 仮にリッチがここに住んでいることを知ったとしてもそうそう人間側が襲撃に来るものでもない。

 この森のリッチを排除せねばならない理由がある。


 だけどこの森は空気も地面も湿っていて農耕にも適していない。

 いる魔物だってリッチ以外はカエルか、ゲコットによるとどこかにゴブリンがいるぐらいで狩りをするのにも適していない。


 地面の事情が悪いので道を通すのにも不便な土地である。

 リッチをどうしても排除せねばならない事情を思いつくことができない。


 しかも前回負けているのにリッチが警戒せねばならないということはまた攻めてくる兆候があるということだ。

 そうまでして攻める必要などどこにあるのだ。


「お掃除終わり!」


 ドゥゼアが悩んでいるといつの間にかオルケは部屋の掃除を終わらせていた。


「お客様も泊まれるお部屋は2階なのでご案内しますね!」


「泊まってもいいのか?」


「もちろんです!

 ご主人様がいらっしゃらなくて暇でしたしむしろいていただけるとありがたい限りですね。


 ご主人様もあまり長いことお話ししていると黙るように言われますしお話出来る相手がいるのは久々です!」


 そりゃこんだけ取り止めもなく話し続けられたらリッチもキツいだろうなと思う。

 ドゥゼアたちは屋敷の2階にある部屋に通された。


 そこにはなんとベッドまで完備してあって綺麗にベッドメイクもしてあった。


「本当にみんな同じお部屋でいいんですか?

 ちゃんと皆様それぞれお部屋ご用意できますよ」


「いや、これでいい」


 それぞれに部屋を用意できるとオルケは言うけれどドゥゼアはみんなまとめて一部屋でいいと断った。

 いつもそうしているからとか寂しいからとかではない。


 まだオルケも信頼していないからである。

 バラバラに泊まって寝ている間に何かがあっては対処ができない。


 部屋の広さもベッドの大きさも十分であるならみんなでまとまって泊まった方が安全である。

 レビスとユリディカは一緒に寝たいのね、なんて考えているがオルケだって完全に味方とは限らないのだ。


「……まあそれがいいならお好きにしてください。

 つがいでしたらバラバラに寝るのもアレでしょうしね。


 貴族では寝室を分けるなんてこともあるようですけど私としてはやっぱり一緒に寝た方が……」


 そして再び始まるマシンガントーク。


「それではお食事の用意をしますね」


 日が落ちるまで話したオルケは話を聞き疲れて燃え尽きたような表情のドゥゼアをよそに部屋を出ていった。

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