ゴブリンはスケルトンナイトを追いかけます4

 ここらへんの魔物で分からないのは毒を持っている可能性があることだ。

 毒の持ち方も様々で毒の強さも画一ではない。


 表面に毒を出しているものもいれば特別な器官があって口から吐き出したりするものいる。

 あるいは体の肉そのものに毒がある場合もあるのだ。


 それを確かめるためにちょっとだけかじる。

 致命的な毒ならアウトであるがそこまで強力な毒を持つ魔物は大体もっと危険な場所にいる。


 キノコが危ないって渋ボイスクモが言っていたので油断はできないがいざとなればユリディカの癒しの力で乗り切る。

 じっくりかんでみるけど変化はない。


 毒があるなら口の中が痺れてきたり異臭や嫌な味がしてもいいけれど特にそんなこともない。

 むしろ意外とうまい。


 尻尾をパタパタと振ってお預けを食らうユリディカには悪いが食べてからも少し待つ。

 遅効性な毒なこともあり得るからだ。


 毒の中にはもっとかなり時間が経ってから効いてくるものがあることはドゥゼアも知っている。

 だけどそんな毒だったらもうとっくに手遅れなのでそんな毒だったらと仮定することはやめておく。


 少し待ってみて特に体に変化もないのでカエルの肉は安全だということにした。


「……よし!」


「はぐっ!」


 ダラーっとヨダレを垂らしているユリディカはドゥゼアの許可が出て一気にカエルの肉にかぶりつく。


「うまい!」


 なんでもうまいうまいと言って嬉しそうに食べるところはユリディカの美徳だと思う。

 本当はカエルの肉も焼きたかったのだけど地面が湿っていて火に使う枝葉も湿っている。


 火をつけるのが面倒だったので焚き火をするのは諦めた。

 こういう時もうちょっと魔力があって火の魔法でも使えればとは思わなくもない。


「しっかしこんなとこ……ま、アンデッドなら気にしないのか」


 座りたいけど尻が汚れるのが嫌で木に寄りかかって休む。

 ドゥゼアはあまりこのような環境を好まないけれど汚れることも濡れることも気にせず、鬱蒼としげる木々で光も届かないこの場所はアンデッドにとってちょうどいいのかもしれない。


 ここまで来て考えるのはどうやってコイチャを取り戻すかである。

 コイチャを連れていった理由は知る由もないのだけど知ったところで交渉して連れ戻すことができるのか不安に思う。


 リッチは比較的理性的な魔物である。

 永遠の命を追い求めた魔法使いの成れの果てで元々人であるので理性があるのは当然の話なのだが魔物にまでなるやつがまともなはずがない。


 理性があることと話が通じる相手であることは必ずしもイコールとならないこともままあるのだ。

 そもそもゴブリンはリッチに比べると圧倒的弱者。


 同じ交渉のテーブルにつけるかすら怪しいのである。

 

「お疲れ様ーである!」


「よくそんな挨拶知ってるな?」


「人がやっていたのを聞いたである」


「まあ悪い挨拶ではないからな」


 クモも様々であるがバイジェルンは中でも活動的で好奇心の強いクモである。

 一所に巣を張ってその周辺でしか暮らさないクモも多いのにバイジェルンは巣を張って同じ場所に居続けることをあまり好まない。


 言葉遣いもおかしいし全くもって変なクモである。


「リッチが住んでいるということを聞いてきたである。

 この森の奥に住んでいて普段はあまり出てこないらしいである」


 そうだろうなとドゥゼアは思う。

 リッチは大体引きこもり。


 外に出て人に見つかれば討伐対象になるからとかそんなではない。

 元よりリッチになれるほど魔法に関して研究する人であったものなのだからリッチになったところで外を謳歌する魔物にはならない。


 基本的には外の世界を嫌っているようなリッチが多数派であると言われているのだ。

 だから森の奥で引っ込んでいても全くおかしな話ではない。


「けれど少し前に出ていってまだ戻ってきていないらしいである」


「じゃあ俺たちが追いかけているリッチはそのリッチで間違いなさそうだな」


 どこにでもいるゴブリンと違ってリッチは絶対数が少ない。

 この森にいるはずのリッチが出かけているというなら追いかけているリッチと同一であると見るのが自然である。


「ただ特別リッチについての情報はないであーる」


「相当悪意でもなきゃ暴れまわったりしないからな。

 普段引きこもりなら情報もないだろう」


 外に出ないリッチのことをそこらへんにいるクモが知るはずもない。

 リッチなんて目立つ魔物が暴れたら目立つ上に近くには住んでいられなくなる。


 むしろ情報がない方が大人しめなリッチだということで安心材料になる。

 しかし他の魔物にとってはリッチが暴れないかどうかはあまり重要ではない。


 強大な存在が近くにいるということが大きな問題なのである。

 だがそのことはドゥゼアたちにとって幸運とも言える。


 つまり他の魔物はリッチを恐れて森を離れてしまっているのである。

 いる魔物はクモのように小型なものか、カエルのように他に行く当てもなく力や知能も低い魔物だけである。


 リッチは特に食料を必要としないので狩りも行う必要がないから弱い魔物にとっては多少の不安を抱えながらも住むには意外と悪くない場所なのである。

 賢かったり強い魔物はリッチの力を強く感じられてしまうので落ち着かないのでそうしたところも弱い魔物にとっては都合が良い。

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