ゴブリンはスケルトンナイトを追いかけます1
それからもコイチャとの鍛錬は続いていた。
リスクもある実戦的な経験を積めば成長も早い。
レビスの動きはかなり良くなった。
もう強化なし単体でもウルフには簡単に負けないほどには動ける。
強化ありならウルフとも対等に渡り合うことができるかもしれない。
ユリディカも力の使い方を覚えてきた。
魔力を上手く強化の力に変換できるようになってきて無駄が減った。
より少ない力でちゃんと強化できるようになって強化時間も大幅に伸びた。
そろそろ本気になってコイチャを倒そうかとも考え始めていた。
「いない……?」
いつものようにコイチャのところに来てみたのだけどいつもの光景とは異なっていた。
渓谷の真ん中にたたずむスケルトンのコイチャがいるはずなのにその姿がなかったのである。
「ええっ!?
どこ行ったのー?」
コイチャはピュアンを守るために渓谷から動かない。
かなり長いことそうしていたはずなのに影も形もなくなっていた。
キョロキョロと見回しながら渓谷を進んでコイチャを探してみたけれどどこにもコイチャはいない。
「誰かに倒された?」
レビスが首を傾げる。
冒険者が挑みに来る以上はコイチャがそうした冒険者に倒されてしまう可能性はある。
「いや……それにしては綺麗すぎる」
渓谷を抜けてしまったので再びコイチャがいたところまで戻ってきた。
倒されることもあるだろうけどそれにしては何も残っていないとドゥゼアは思った。
ゴーストタイプの魔物でもない限り倒されればその痕跡が残る。
スケルトンであるコイチャなら骨が地面に残っていて当然だし剣を持っていたのだから剣だって残っているはずなのだ。
それなのに地面は綺麗なもので骨のカケラすらない。
どうしても欲しくて剣は持っていっても価値の低いスケルトンの骨を綺麗に回収して持っていく人はまずいない。
「つまりはコイチャは倒されたのではなくどこかに行ってしまったということですか?」
「おそらくな」
さらにはドゥゼアたちが泊まっている穴倉は渓谷の途中にある。
警戒もしていたので近くを人が通れば気づく。
前日もコイチャ戦ったので無事であったことは確認している。
そこから今コイチャがいなくなるまでに渓谷を通った冒険者はいなかった。
渓谷の逆側から来たらその限りではないが逆側から来るには人里からかなり離れていて、コイチャと腕試しに来る冒険者も逆から来る人はほとんどいないとバイジェルンが言っていた。
倒されたのでなければどこかに行ってしまったと考えるのが普通である。
「けれど……どこに。
そしてなんで」
冒険者が通らなかった。
当然のことながらコイチャも通らなかった。
ということは逆側の方にコイチャは向かっていったことになる。
どこに向かってコイチャは移動を開始してしまったのか。
あるいはなぜいきなり移動してしまったのか。
解消されない疑問だけを残してコイチャは消えてしまった。
ただ呆然としていても何も解決しない。
ドゥゼアは冒険者が来ないか周りを警戒してくれていたバイジェルンを呼び寄せると昨夜に何があったのかの調査とコイチャ探しをお願いした。
クモたちならば何か知っているかもしれない。
ドゥゼアたちもコイチャがどこに行ったのか分からないのでその場に留まることになった。
その間にコイチャに挑みに来た冒険者たちがいたのだけどコイチャがいないことに驚き、大きな声で文句を言いながら帰っていった。
冒険者たちの間でもコイチャが倒されたなどというような情報は出ていないようであった。
「何があったのか詳細は知らないであるが近くにリッチがいたようであーる」
なんとなく落ち着かなくソワソワした時間を過ごしていたがバイジェルンが短い時間で情報をまとめてきてくれた。
「リッチだと?」
「そうである。
ただそれが関わっているかは不明である」
バイジェルンとしても情報収集したけれど真夜中の出来事の把握は簡単ではない。
クモたちだって寝ている個体が多く、植物類も少ない渓谷近くにいるクモは少ない。
そのためになかなか情報も集まらなかったのだけどコイチャがいなくなった夜にリッチを見たクモがいることをバイジェルンはキャッチしていた。
「リッチといえば、あの死者の王ですか?」
「そうだな、そのリッチだろう」
永遠を追い求めた魔法使いの成れの果てと言われるリッチ。
死なない体を自身の手で作り上げて魔物に身を落とした魔法使いである。
中には進化をして魔力を得たスケルトンの究極系であることもごく稀にあるがどっちにしろ強力な魔物であることは間違いない。
強い魔力を持ち死者を操る力を持つとされ、人の世界に出たならば大騒ぎになる魔物である。
災害級の魔物で滅多にそこらへんにいるような存在ではない。
「そんなリッチがなぜこの辺りに……」
最悪リッチがそこらへんにいたとしてコイチャとの繋がりはなんだ。
死者を操る能力があるということはコイチャを操ることもできるのだろうかとドゥゼアは考える。
「……ともかくそのリッチを追ってみよう」
目的は分からないがリッチがコイチャを連れていったのなら今一緒にいるはず。
そうなれば他のクモからの目撃情報も上がってくるかもしれない。
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