ゴブリンは古代遺跡を探索します3

 ユリディカの耳には聞こえた。

 ドゥゼアが台座のレバーを引いた瞬間女神像の中からカラカラと何かが動く音がした。


「な、なに?」


 そしてその直後部屋が揺れ出した。

 グラグラと揺れて天井から劣化していた部分が落ちてきてレビスとユリディカは身を寄せた。


「ドゥゼア、後ろ!」


 レビスの声に反応して後ろを向くと女神像の後ろの壁が開いていっていた。


「秘密の場所か……」


 そもそも地下に造られた神殿というのも特殊である。

 隠したかった何かがある。


 もしかしたら他の文明に支配されて抑圧されていたとか、そんなことで隠れて信仰を続けていたのかもしれない。

 冒険者たちの姿がなかったのもおそらくみんなこの中に入って行ったのだ。


「ぼ、冒険……!」


 隠された通路にユリディカは目を輝かさせている。

 危険な香りはプンプンするけどドゥゼアも面白いと思うことは止められない。


 中を覗き込んでみると隠し扉の先は下に降りる階段になっていた。

 ドゥゼアが視線を向けるとレビスとユリディカもうなずく。


 ここまで来て引き下がるつもりもない。

 ドゥゼアを先頭にして階段を降りていく。


 上の空間よりも埃っぽい空気をしている。


「……今度は上るのか?」


 降りてきたと思ったら今度は正面に上っていく階段が現れた。

 非常に奇妙な作りである。


「なんかニオイがする……」


「におい?」


「油みたいな……」


「油…………」


「どこから臭うんだろ?


 クンクン」


「……待て!」


「ヒュン!


 ししし、尻尾はダメだよ!」


 ドゥゼアとレビスには分からないけれどユリディカには何かのニオイが感じられているらしい。

 そのニオイの元を探そうとフラフラと階段に近づいたユリディカの尻尾をドゥゼアが掴んで止めた。


 尻尾を強く触られると背中がゾクッとするのだ。

 ドゥゼアにならもっと触られたくは思うような不思議な感覚でユリディカは困惑する。


「下がれ……」


「う、うん」


 しかし振り返ったドゥゼアの目は真剣だった。

 階段の前からそろそろとユリディカが後ろに下がる。


「暗いんじゃないのか」


 確かめるように足を踏み出しながらドゥゼアは階段に近づいた。

 そして階段の壁を確認する。


 壁、そして階段は黒く塗られている。

 明かりの当たり方から暗くて黒く見えているのかと思ったけれど違った。


 変わってみるとざらりとした感触がある。

 壁が劣化して剥がれかけているのではない。


 爪で軽く剥がしてみると赤黒いものが剥がれてきた。

 かなり古い血の塊である。


「罠だな」


「わ、罠!?」


 ユリディカが感じる油のニオイ、それはおそらく罠をスムーズに動かすための罠の動作機関にさされている油のニオイだろう。

 階段周りの床を手で慎重に押して回る。


 だがそこに罠はない。

 次は階段のほうを見ていく。


 レビスとユリディカは危ないので少し離れててもらう。

 一段一段軽く手で押してから上る。


「ここか」


 何段か上ったところでドゥゼアは止まった。

 次の段を手で押してみるとわずかに沈み込んだ。


 ドゥゼアはその沈み込む階段に足をかける。

 そして踏み込んで階段を押しながら自分は大きく後ろに跳ぶ。


「ナイス」


 階段の下で待ち受けていたユリディカが階段から跳んで落ちてきたドゥゼアをキャッチする。

 モフっとしたユリディカの胸毛は気持ちいい。


「わわっ!」


 次の瞬間ジャキンと音がして階段の横の壁から鋭い金属のトゲが飛び出してきた。

 やはりドゥゼアの予想通り罠があった。


 あのまま何も気づかず階段を上っていたら横から飛び出してきたトゲに串刺しにされていた。

 しかも嫌らしいのは何段か上ってから罠のスイッチがあり、階段の1番下の段までトゲが出ているところだ。


 これなら4人ほどのパーティーが全員でゾロゾロ上っていたら一発で全滅させられる。

 壁を黒く塗ってあるのは血の痕跡を隠すため。


 薄暗さを利用して壁を黒く塗り、手入れをしなくても壁についた血などから罠があることをバレるのを防いでいるのだ。

 そしてトゲが引き始めると同時に階段が抜けて穴が空いた。


 死体の処理まで完璧である。


「……凶悪な罠だな」


 知らない人が来たらまずここでアウトだ。

 ユリディカの鼻が良くて助かった。


 下から覗いていた感じではスイッチとなる階段よりも先の何段かまでトゲが出ていて、強い殺意を持った罠だった。

 この階段を上っていくのか?と思いながらドゥゼアはまた階段を調べる。


 スイッチとなっていた段差を越えて次の段も押してみるがこちらはスイッチではない。

 先の方を調べてみるがスイッチとなっているのはあの一段だけのようである。


「行き止まりかよ」


 もう何段か進んでみると階段は続いておらず壁になっていた。

 つまりこの上りの階段はダミーでただの罠であったのだ。


 そこまでして何を守りたいのか。

 ドゥゼアは深いため息をつきながら慎重に階段を降りてレビスとユリディカのところに戻った。


「この階段はただの罠だ」


 こんな大掛かりな罠を作るなんて常軌を逸している。

 こんな罠があるなら入って行った冒険者たちが帰ってこないというのも納得の話だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る