ゴブリンはゴブリンにゴブリンを預けます2

 ゴブリンリーダーの目がレビスに向く。


「ソノメス、オイテケ」


「あっ?」


「イイメス。


 オレガモラウ」


 伸び盛りの群れのリーダーはそうした方面でも盛りであることも多い。

 ゴブリンリーダーから見てレビスは良いゴブリンのメスである。


 賢そうで可愛く、これまでの戦いで魔石なども食べてきたのでゴブリンの中でも魔力が強めである。

 非常に魅力的に見えるのだ。


 ゴブリンリーダーの意図を察してゴブリンがドゥゼアたちを囲むように動き出す。


「ソノメスオイテクナラナニモシナイ」


「チッ……お前こそその言葉引っ込めるなら今だぞ?」


「フン……ニゲラレナイゾ」


「逃げるだと?


 誰に向かってもの言ってるんだ。


 レビスは渡さん」


「ドゥゼア……」


 ドゥゼアの言葉にレビスの胸がキュンとなる。

 自分のために怒ってくれていることが嬉しい。


 ゴブリンリーダーはレビスがドゥゼアに惚れているのを見て苛立ちが隠せない顔をしている。


「お前こそ来いよ」


 ドゥゼアがゴブリンリーダーを挑発する。

 大人しくドゥゼアが従うつもりがなく、ゴブリンリーダーも言い出した手前引っ込めることもできない。


 こうなると事態は面倒になる。

 だがしかし解決するのは非常に単純でいい。


 つまりは強い方が偉い。

 強い方が全てを手に入れる。


 ドゥゼアの挑発にゴブリンリーダーが怒り顔で前に出る。

 体格的にはゴブリンリーダーの方が一回りデカい。


 単なるそうした比較ではゴブリンリーダーの方が強そうに見える。


「ほら、いつでも来いよ」


 ドゥゼアが手のひらを上に向け来いよと指を動かす。

 その瞬間ゴブリンリーダーがプツンと切れた。


 ドゥゼアは刃物を抜くつもりがなかったのだけどゴブリンリーダーは隠していたナイフを抜いてドゥゼアに襲いかかった。

 小ざかしいゴブリンの知恵である。


 だけどそんな動きもドゥゼアにはお見通しだった。

 腰にナイフを差していることは分かっていた。


 散々怒らせればそれを出してくるだろうことも分かっていた。

 逆手に持って振り下ろされるナイフをドゥゼアはギリギリまで引きつけてかわす。


 そしてあっさりとナイフをかわされて体が流れたゴブリンリーダーの顔を思い切り殴りつけた。

 ドゥゼアもここまで色々食ってきた。


 魔物というやつは食えば食うほど強くなる。

 自分より格上の魔物を他の魔物と協力して倒してそれを食らってきたドゥゼアはただのゴブリンなんかよりも普通に強かった。


 殴って終わりにしようと思ったけど本当にナイフ抜いてきたので気が変わった。


「ギャアアアアアッ!」


 ナイフを持っていた方の手首を掴み関節を決め、そのまま腕を折った。

 ゴブリンリーダーの悲鳴が響き渡り、ゴブリンたちがドン引きする。


「いいぞ、ドゥゼアー!」


 そんな中でもユリディカはドゥゼアに声援を飛ばし、レビスは自分のために戦うドゥゼアを熱のこもった視線で見ている。


「ユ、ユル……」


 最後まで言わせることなくドゥゼアはゴブリンリーダーの顔を殴りつけた。

 ゴブリンリーダーは倒れて動かなくなる。


 死んじゃいない。

 ただしばらくは再起不能になるだろう。


「他に舐めたこと抜かしたいやつはいるか?」


 ゴブリンリーダーですら傷ひとつなく倒したのに他のゴブリンが敵うはずがない。

 ドゥゼアが視線を向けるとどいつもこいつも目を逸らす。


 調子に乗らなければ群れに数体ゴブリンが増えてウィンウィンだったのに余計な欲を出したものだ。


「それじゃあこいつらのことは頼んだぞ」


 ドゥゼアが歩き始めるとその方向にいたゴブリンが一斉に道を開ける。

 そしてその後ろに誇らしげなレビスとユリディカがついていく。


「……レビス」


「なに?」


「本当に良かったのか?」


 脇目も振らずにまっすぐに歩いてきた。


「お前がどこかの群れにいたいというのなら……」


 とっさにドゥゼアはレビスを守ってしまったけれどレビスも本来は群れて生活するゴブリンだ。

 群れに戻りたい、集団でいる方が安心だという思いがないとも限らない。


 勝手にレビスは渡さないなんて言ったけれどそれが果たしてレビスの意思に沿っていたのだろうか。


「ここが良い」


 そんな不安が胸をよぎったがレビスはぎゅっとドゥゼアの腕に抱きついた。

 こんなオスは他にはいない。


 強くて賢くて、なのに優しくて仲間思い。

 もうちょっと手を出してくれても良いんじゃないかと思うけど大切に思ってくれているのは分かる。


 ただのゴブリンとして生きていてはし得ない経験をしているという自覚がレビスにはあった。

 ドゥゼアの隣がいい。


 たとえこれから進む道が険しくとも同じ景色を見ていたい。

 レビスはそう思っていた。


「そうか」


 レビスがいいのならそれでいい。


「じゃあ私はこっち!」


 ユリディカはレビスと反対側に回り込んでドゥゼアの腕に自分の腕を絡ませる。

 歩きにくい。


 でも今だけは許してやるかとドゥゼアも思った。

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