第二章

ゴブリンはゴブリンにゴブリンを預けます1

 アラクネとも猿とも別れてドゥゼアたちは再び旅に出発した。

 クモたちが集めてくれた情報によるとドゥゼアたちが来た国では数年前からゴブリンが倒され始めていた。


 なぜなのかは分からないけれどしっかりとした冒険者たちがゴブリンの巣を探し出して潰して回っていた。

 その国だけでなくその周りにあるいくつかの国でも同様のことが起きていたらしくその国で自然に発生した出来事ではないみたいだった。


 正確な原因は分からなくてもゴブリンにとって良い環境でないことだけは断言できる。

 なので逆側のゴブリンに対して特に何も起きていない国の方に向かうことにした。


 小さなクモが案内役としてついてくれてドゥゼアたちはその後をついていく形で進んでいく。

 真っ直ぐそちらに進んでいくのではなくクネクネと曲がりながら進む。


 これには理由がある。

 なぜなら色々な魔物のナワバリ、テリトリーが複雑に絡み合っていて下手に足を踏み入れると危険なところもある。


 クモたちの横の繋がりによってどこが安全に通れそうかを把握してナワバリの縁を進んでいくような感じで進んでいる。

 だからクネクネとあっちに行ったりこっちに行ったりと進んでいた。


「ようやく危険なところを抜けたか……」


 ナワバリが決まっているならまだいいがナワバリを持たずにそこらを移動して回る魔物は厄介だ。

 一度遭遇しかけて生きた心地がしなかったけれど弱小魔物をわざわざ追いかけることもないのかギリギリセーフで見逃された。


 危険な魔物ゾーンをヒヤヒヤしながら通り抜けて再び弱い魔物ゾーンに入ってきた。

 今ドゥゼアがいる国ではゴブリンの巣は3つある。


 1つはかなり大きくなっているらしくて狙われるまでそんなに時間も残されていなさそうなので候補から外す。

 残るゴブリンの巣の中から離れた方に向かうことにした。


 何もない広いところでは奥まった場所ほど強い魔物のナワバリであるのだけど人に近いところほどナワバリがなかったり強い魔物でも浅いところにいたりする。

 同じ小さいクモだと思っていたら実は場所によってそこらに住む別のクモが引き継いで案内してくれていたのに気づいたのは結構後のこと。


 クモたちの案内で魔物との衝突もなく上手く進んでいくことができた。


「ありがとな。


 是非ともアラクネにも伝えておいてくれよ」


 平和に冒険してゴブリンの巣の近くまでやってきた。

 同行したってクモの存在はバレなさそうだけど案内はここまでらしい。


 ここからはドゥゼアたちだけで向かうことになった。

 前側の足を振って挨拶に応じてくれるクモと別れてゴブリンの巣に向かう。


 木々は少ないがやや起伏のある地形で意外と逃げたり身を隠したりする分には不便がなさそうな場所である。


「ナニモノ!」


「敵じゃない」


 ゴブリンたちが見知らぬゴブリンに加えてワーウルフというドゥゼアたち一行を見つけて警戒する。


「お前たちのリーダーはいるか?


 話がある」


 ゴブリンたちは顔を見合わせる。

 あまり賢くなさそうでどうしたらいいのか分からないようだ。


「分かった。


 これ以上進まないからリーダーのゴブリンをここに連れてこい」


 向こうのゴブリンの判断に任せていたら話が進まない。

 ため息をついてドゥゼア指示を出すとゴブリンの1匹が言われた通りリーダーを呼びに走っていく。


 ここしばらく賢い魔物としか会っていなかったから忘れていた。

 弱い魔物というやつは大体自分で判断するのも遅いぐらいのやつが珍しくない。


 持っているのは木の棒レベルの装備でゴブリンとしても弱そうである。

 ドゥゼアがこの群れに加われと言われても嫌だけど群れの規模も小さく賢い個体も多くないということは人の冒険者からすると取るにたらない存在ということ。


 わざわざ巣を探して倒すまでもなく狙う理由のないゴブリンで、よほどのことがない限りそれなりに長持ちするはずである。

 イレギュラーなことがあるのはもう経験済みであるがその時は大人しくやられるしかない。


 ドゥゼアが大人しく待っているとゾロゾロとゴブリンがやってきた。

 ぱっと見では分かりにくいけれど先頭に立つ一回りほど大きな個体が群れのリーダーなのだろうとドゥゼアは思った。


「グガ、ナンノヨウダ」


 リーダーでもあまり知能は高くなさそう。

 十分あり得ることなので驚かない。


 群れの規模や賢さなどから考えるに新しめの群れかもしれない。

 やはり群れが長く続き、長生きする個体が増えるほどに群れ全体の知能も高くなる傾向にはあるのだ。


 中にはそれに囚われず不思議と知能の高いゴブリンも存在したりするのだけどそんなことは稀な事例である。


「俺たちは他の場所から来た。


 コイツらをお前たちの仲間として迎え入れてほしい」


 ドゥゼアが合図を出すと連れてきたゴブリンたちが前に出る。

 新しめの群れならきっとさらに大きくなるために仲間は欲しいはず。


 ゴブリンは同族に対して警戒心も持たないのできっと受け入れてくれる。


「グガ、イイゾ」


「感謝する」


「……オマエラハ?」


「俺とコイツとコイツは群れに入らない」


 ドゥゼアとレビスとユリディカは別である。

 旅を続ける。


 もし群れに入るとしてももうちょっと賢そうな群れがいい。

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